【コミカライズ化!】リンドバーグの救済 Lindbergh’s Salvation
3-2 ★ 消えた下着
「実は……最近、ちょっと怪現象が起きていて」
アルは口の前で両手を組んだ。
「お化けは専門外ですよ、私」
「いや、お化けじゃない。人の仕業だと思う。最近俺の周りで、異様に物が無くなるんだ」
「ええっ」
「最初は、書斎から万年筆が消えてさ。いつも机の引き出しにしまっているはずなのに」
「私、筆を盗む趣味はありませんよ」
「分かっているよ。ミミじゃない。ナンシーだって違う。万年筆だけじゃないんだよ。柱時計のネジや、ハンカチ、身の回りの小さなものが一つ一つ消えていくんだ」
「やはり、旦那様も気付いていましたか」
ナンシーがポットを盆にのせて現れた。
「お茶のおかわりをと思って持ってきましたら、旦那様の声が聞こえてきましたので。私も最近、変だと思っていたんです。旦那様のハンカチ、靴下、下着がいつの間にやら消えていて」
「旦那様の下着が? 臭いでしょう」
アルが「臭くないよ!」と真っ赤になって否定した。
「そうだったの。私は気付かなかったわ。アルの私物はたくさんあるから、数まで分からなくて」
「私も数まで覚えていませんよ。旦那様は新しいものをおろすのが極端に億劫な方で、使い古したものばかり使うので、模様や手触りで覚えてしまうんです。靴下だって穴があいても履き倒そうとするんですから」
「ナンシー。それは誤解だよ。さすがに穴があいたら捨てるよ」
「そろそろ穴があくだろうと思っていた黒い靴下と、雑巾のようにぼろぼろのハンカチが見当たらないんです。靴下は便所掃除に、ハンカチは台ふきに使おうと思っていたのに」
「ちなみに下着は? さすがに使わないよね?」
アルが訊ねた。
「何をおっしゃいますやら。下着だって再利用できます。特に汚れた場所の掃除にね。掃除用の新しい布を用意し雑巾を縫わずに済みます」
ナンシーの言葉に、アルは言葉を失っている。下着まで再利用できるとは意外だ。服は捨てずに最後まで使う。ナンシーの家政婦の知恵には関心だわ。
「干している時に無くなったとしか思えないんですがね。でも風に飛ばされないようにしっかり固定していたし。鳥が巣作りに持っていってしまったのかしらと考えていたんです」
「でも万年筆や時計のネジが無くなったのは説明できないよ」
「人の仕業かしら。ということは我が家に不法侵入している泥棒がいるということに」
シーンと長い沈黙が落ちた。
「アルは以前、人の視線を感じると私に話したことがあるのですが。今も続いていますか?」
「うん。時々……」
「私もです」
「ナンシーもなのね?」
ナンシーは大きく肯いた。
「庭掃除をしている時、買い物をしている時、台所で夕飯の支度をしている時にも、窓から視線を感じました」
「俺と同じじゃないか。ミミは?」
「いいえ、私は無いです」
割と、人の気配にすぐ気付かない方だ。
「家に一人でいると玄関や勝手口がコンコンと鳴るんだ。外に出ても誰もいない。風の仕業かと思ったが、あの鳴らし方は違う」
「なるほど、なるほど」
うちの旦那様はまだ狙われているらしい。
――事件がある方が良いわ。
「アルとナンシーに余計な念を飛ばしている、不届き者の正体を探りましょう」
――司祭の妻というよりは探偵のような気分だわ。
【つづく】
アルは口の前で両手を組んだ。
「お化けは専門外ですよ、私」
「いや、お化けじゃない。人の仕業だと思う。最近俺の周りで、異様に物が無くなるんだ」
「ええっ」
「最初は、書斎から万年筆が消えてさ。いつも机の引き出しにしまっているはずなのに」
「私、筆を盗む趣味はありませんよ」
「分かっているよ。ミミじゃない。ナンシーだって違う。万年筆だけじゃないんだよ。柱時計のネジや、ハンカチ、身の回りの小さなものが一つ一つ消えていくんだ」
「やはり、旦那様も気付いていましたか」
ナンシーがポットを盆にのせて現れた。
「お茶のおかわりをと思って持ってきましたら、旦那様の声が聞こえてきましたので。私も最近、変だと思っていたんです。旦那様のハンカチ、靴下、下着がいつの間にやら消えていて」
「旦那様の下着が? 臭いでしょう」
アルが「臭くないよ!」と真っ赤になって否定した。
「そうだったの。私は気付かなかったわ。アルの私物はたくさんあるから、数まで分からなくて」
「私も数まで覚えていませんよ。旦那様は新しいものをおろすのが極端に億劫な方で、使い古したものばかり使うので、模様や手触りで覚えてしまうんです。靴下だって穴があいても履き倒そうとするんですから」
「ナンシー。それは誤解だよ。さすがに穴があいたら捨てるよ」
「そろそろ穴があくだろうと思っていた黒い靴下と、雑巾のようにぼろぼろのハンカチが見当たらないんです。靴下は便所掃除に、ハンカチは台ふきに使おうと思っていたのに」
「ちなみに下着は? さすがに使わないよね?」
アルが訊ねた。
「何をおっしゃいますやら。下着だって再利用できます。特に汚れた場所の掃除にね。掃除用の新しい布を用意し雑巾を縫わずに済みます」
ナンシーの言葉に、アルは言葉を失っている。下着まで再利用できるとは意外だ。服は捨てずに最後まで使う。ナンシーの家政婦の知恵には関心だわ。
「干している時に無くなったとしか思えないんですがね。でも風に飛ばされないようにしっかり固定していたし。鳥が巣作りに持っていってしまったのかしらと考えていたんです」
「でも万年筆や時計のネジが無くなったのは説明できないよ」
「人の仕業かしら。ということは我が家に不法侵入している泥棒がいるということに」
シーンと長い沈黙が落ちた。
「アルは以前、人の視線を感じると私に話したことがあるのですが。今も続いていますか?」
「うん。時々……」
「私もです」
「ナンシーもなのね?」
ナンシーは大きく肯いた。
「庭掃除をしている時、買い物をしている時、台所で夕飯の支度をしている時にも、窓から視線を感じました」
「俺と同じじゃないか。ミミは?」
「いいえ、私は無いです」
割と、人の気配にすぐ気付かない方だ。
「家に一人でいると玄関や勝手口がコンコンと鳴るんだ。外に出ても誰もいない。風の仕業かと思ったが、あの鳴らし方は違う」
「なるほど、なるほど」
うちの旦那様はまだ狙われているらしい。
――事件がある方が良いわ。
「アルとナンシーに余計な念を飛ばしている、不届き者の正体を探りましょう」
――司祭の妻というよりは探偵のような気分だわ。
【つづく】
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