【コミカライズ化!】リンドバーグの救済 Lindbergh’s Salvation
2-7 ★ 今日の危険物は、どれですか?
「今でさえ、あのように好奇の的ですもの」
エロイーズがミミへ視線を遣る。ミミを中心に老若男女の人だかりが出来ていた。危険人物の対応に注意を削がれていたがあちらの方が大変だ。
「ミミさん、新聞を読みました」
「これ、受け取ってください」
「どうぞ仲良くして下さい!」
握手を求められたが、彼女の両手はたくさんの贈り物でふさがっていた。
「ミミ」
彼女へ駆け寄り、荷物をかわりに持つ。
「すみませんが、皆さん。今日は彼女と出かけなければならないところがありますので、このへんで。――ミミ、急がないと遅れてしまう」
「は、はい! それでは皆さん、また。お時間のある時に」
ミミは頭を下げて、俺と隣り合って礼拝堂を出る。ミミが家の玄関を開けてくれた。
「ありがとう、ミミ」
「私の荷物を持たせているのですから。ありがとう、アル」
「これくらい、どうってことないよ」
ミミへの贈り物と、俺への贈り物を机に一つ一つ並べた。
「なんて美しい薔薇の花束かしら」
芳しい匂いに恍惚とするミミ。だが中をのぞいたミミの表情が忽ち険しくなった。
「薔薇の棘が取られていない。そのままだわ」
贈り物の薔薇は棘を折るものだが、そのままということは。
「敵意の花束だね。花に送り主の思いが乗っていて気持ち悪い。可哀想だけど捨てよう」
「ええっ。棘を折れば良いではないですか。お花が可哀想ですわ」
「ダメ。没収。君に向けられた敵意を、俺が部屋に飾りたくないんだ」
俺は花束をミミの手から取り上げた。
「これは手紙だわ。愛するミミ様へ。え? なにこれラブレター?」
「それもかしなさい」
「あっ、まだ読んでないのに」
「俺が内容を確かめます。君を罠にはめる為の手紙かもしれないよ。内容によっては燃やした方が良い。まだ他に怪しいものがあるかもしれないな」
贈り物の分別をしていると。
「こりゃまた、たくさんもらいましたねぇ」
台所で昼食を作っていたナンシーが顔を出す。
「今日の危険物は、どれですか?」
ナンシーが俺に訊ねたので、机を指差す。
「やっぱり変な臭いがします。いつもとは違う薬を仕込んだみたいですね」
「流石ナンシーだ。というか、どうして分かるんだい?」
「家政婦業を何年もやっていると、鼻が利くのですよ。アラベラとエロイーズの贈り物は絶対に食べてはいけませんよ、危険です」
「今、お名前の挙がった女性は?」
ミミは、俺とナンシーへ視線を往復させた。
「旦那様に色目使って、頻繁に怪しい贈り物をする町娘ですよ。前からよく変なものがまざっていましてねぇ」
「変なものとは? まさか惚れ薬とか?」
「そんなところ……あっ、まあ私ったら。奥様に話すことではなかったですね。申し訳ありません、配慮が足りなくて」
「いえいえ。実は旦那様から、少々うかがっていたのですよ。怪しげなお菓子をもらったり、視線を感じたり、つきまとわれている感じがすると」
「旦那様は奥様にどこまで話したのですか!」
「えーと……どこまでだっけ?」
ミミとは結構、腹を割って話したな。
「未婚の司祭は、未婚の町娘の獲物だと聞きましたわ。全ての町娘さんがそうではないでしょうけど。恋心を胸に秘めた方も、いらっしゃったかもしれませんわ」
「いや押しの強い女が多めだよ、この町は」
「旦那様のおっしゃる通りです。田舎ほど結婚が早くて、急かされるんですよ」
「なるほど。私も同じ女性ですし、未婚の時のはやる気持ちは相当でした。旦那様に見初められなければ私も精神を尖らせていたでしょう」
「奥様はお優しいのですね……。いくら尖ったからとはいえ、意中の男性へ異物の混入した贈り物をするなど、私には許せませんが」
「それに関しては同感です、ナンシー。私もアルを惑わす女性は遠ざけたいですわ」
「いや、俺は絶対惑わされないよ!」
「ええ。信じていますもの」
ミミは俺の目を真っ直ぐに見て微笑んだ。
――信じています、か。
面と向かって言われると、凄く嬉しいな。
「アル。今後、彼女らにつきまとわれない良い考えがありますわ」
「教えて。俺に出来ることなら」
「いいえ、これは私にしか出来ません」
「俺は何も力になれることはないのかい?」
「そうですねぇ。エロとか、ベラとかいう娘さんからいただいたのは全てお菓子ですか」
「お菓子が多いけど。たまにパンとか紅茶をもらうこともあったな」
ミミは「なるほど」と不敵に笑む。
「毒には毒を。格の違いを教えてさしあげましょう」
――うちの妻が悪い顔をしている。
一体何の格の違いだろうか。
【つづく】
エロイーズがミミへ視線を遣る。ミミを中心に老若男女の人だかりが出来ていた。危険人物の対応に注意を削がれていたがあちらの方が大変だ。
「ミミさん、新聞を読みました」
「これ、受け取ってください」
「どうぞ仲良くして下さい!」
握手を求められたが、彼女の両手はたくさんの贈り物でふさがっていた。
「ミミ」
彼女へ駆け寄り、荷物をかわりに持つ。
「すみませんが、皆さん。今日は彼女と出かけなければならないところがありますので、このへんで。――ミミ、急がないと遅れてしまう」
「は、はい! それでは皆さん、また。お時間のある時に」
ミミは頭を下げて、俺と隣り合って礼拝堂を出る。ミミが家の玄関を開けてくれた。
「ありがとう、ミミ」
「私の荷物を持たせているのですから。ありがとう、アル」
「これくらい、どうってことないよ」
ミミへの贈り物と、俺への贈り物を机に一つ一つ並べた。
「なんて美しい薔薇の花束かしら」
芳しい匂いに恍惚とするミミ。だが中をのぞいたミミの表情が忽ち険しくなった。
「薔薇の棘が取られていない。そのままだわ」
贈り物の薔薇は棘を折るものだが、そのままということは。
「敵意の花束だね。花に送り主の思いが乗っていて気持ち悪い。可哀想だけど捨てよう」
「ええっ。棘を折れば良いではないですか。お花が可哀想ですわ」
「ダメ。没収。君に向けられた敵意を、俺が部屋に飾りたくないんだ」
俺は花束をミミの手から取り上げた。
「これは手紙だわ。愛するミミ様へ。え? なにこれラブレター?」
「それもかしなさい」
「あっ、まだ読んでないのに」
「俺が内容を確かめます。君を罠にはめる為の手紙かもしれないよ。内容によっては燃やした方が良い。まだ他に怪しいものがあるかもしれないな」
贈り物の分別をしていると。
「こりゃまた、たくさんもらいましたねぇ」
台所で昼食を作っていたナンシーが顔を出す。
「今日の危険物は、どれですか?」
ナンシーが俺に訊ねたので、机を指差す。
「やっぱり変な臭いがします。いつもとは違う薬を仕込んだみたいですね」
「流石ナンシーだ。というか、どうして分かるんだい?」
「家政婦業を何年もやっていると、鼻が利くのですよ。アラベラとエロイーズの贈り物は絶対に食べてはいけませんよ、危険です」
「今、お名前の挙がった女性は?」
ミミは、俺とナンシーへ視線を往復させた。
「旦那様に色目使って、頻繁に怪しい贈り物をする町娘ですよ。前からよく変なものがまざっていましてねぇ」
「変なものとは? まさか惚れ薬とか?」
「そんなところ……あっ、まあ私ったら。奥様に話すことではなかったですね。申し訳ありません、配慮が足りなくて」
「いえいえ。実は旦那様から、少々うかがっていたのですよ。怪しげなお菓子をもらったり、視線を感じたり、つきまとわれている感じがすると」
「旦那様は奥様にどこまで話したのですか!」
「えーと……どこまでだっけ?」
ミミとは結構、腹を割って話したな。
「未婚の司祭は、未婚の町娘の獲物だと聞きましたわ。全ての町娘さんがそうではないでしょうけど。恋心を胸に秘めた方も、いらっしゃったかもしれませんわ」
「いや押しの強い女が多めだよ、この町は」
「旦那様のおっしゃる通りです。田舎ほど結婚が早くて、急かされるんですよ」
「なるほど。私も同じ女性ですし、未婚の時のはやる気持ちは相当でした。旦那様に見初められなければ私も精神を尖らせていたでしょう」
「奥様はお優しいのですね……。いくら尖ったからとはいえ、意中の男性へ異物の混入した贈り物をするなど、私には許せませんが」
「それに関しては同感です、ナンシー。私もアルを惑わす女性は遠ざけたいですわ」
「いや、俺は絶対惑わされないよ!」
「ええ。信じていますもの」
ミミは俺の目を真っ直ぐに見て微笑んだ。
――信じています、か。
面と向かって言われると、凄く嬉しいな。
「アル。今後、彼女らにつきまとわれない良い考えがありますわ」
「教えて。俺に出来ることなら」
「いいえ、これは私にしか出来ません」
「俺は何も力になれることはないのかい?」
「そうですねぇ。エロとか、ベラとかいう娘さんからいただいたのは全てお菓子ですか」
「お菓子が多いけど。たまにパンとか紅茶をもらうこともあったな」
ミミは「なるほど」と不敵に笑む。
「毒には毒を。格の違いを教えてさしあげましょう」
――うちの妻が悪い顔をしている。
一体何の格の違いだろうか。
【つづく】
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