【コミカライズ化!】リンドバーグの救済 Lindbergh’s Salvation
2-2 ★ 2つあったら変だろう?
「奥様に会ったら、言わなきゃいけないと思っていたことがあるのよ」
ナンシーが突然そう言ったものだから、
「な、なんでしょう?」
ミミの表情に少し緊張が帯びた。
「あの馬鹿王子の面に泥を塗りたくってくれてありがとう。私も大嫌いだった」
予想外のナンシーの言葉に、俺もミミも不意を突かれた。
「私も昔、王宮でいろいろあってね」
「王宮にいらっしゃったのですか」
「女中でした。あの馬鹿王子の母親には、それはいびられたわ。息子の顔を写真で見る度、吐き気がしていた」
「ご苦労されたのですね……」
「王妃が来る前は、仕事にやりがいを感じていたのよ。王妃は亡くなったけれど、そっくりの王子様がいれば同じことよ。この国には、もっと王に適う人がいるのに」
ナンシーは溜め息を落とした。
「ナンシー。部屋に紅茶を運んでもらえるかな。夕食まで、まだひととき時間があるだろう」
「はい、ただいまお持ち致します。少々お待ちくださいませ」
「何かお手伝いできることはありませんか」
ミミの言葉に、俺もナンシーも仰天した。大抵、貴族の令嬢は給仕に声もかけない。貴族の生活は上げ膳下げ膳が当たり前。使用人が大勢従事していた侯爵家の悠々自適な生活は司祭の暮らしからはかけ離れている。ミミには勝手の分からぬことも多いだろうと考えていた。
「奥様の手を煩わせるわけには参りません」
ナンシーも戸惑いを露わにしていた。
「でも、何かお役に立ちたいの。これまでは、お食事も旦那様一人分だったけれど、私が来て二人分になってしまったでしょう?」
ミミは皮むきのされていないジャガイモの籠に目を遣った。
「野菜の皮むきなら、私、得意よ」
「とんでもございません。奥様に皮むきなど。今日は式の後でお疲れでしょう。ゆっくり休まれてください」
「……。そうね、今日はお言葉に甘えるわ」
ミミは「ありがとう」と言って、台所をきょろきょろとした。
「綺麗な台所ね。私の母がよく申していました。料理上手は、片付け上手と」
侯爵家の奥方が、料理好きとは意外だ。
「私、料理が好きなの。明日からでも、一緒に料理をさせてもらえないかしら」
「そ、それは構いませんが」
ナンシーは驚き入っていた。前任の司祭の妻、さらに前々任の司祭の妻とも付き合いのあった彼女にとって、自ら家事を申し出る者は初めてだったのだ。
「是非旦那様の好きな料理を教えて欲しいの。腕を振るいたいのよ」
ナンシーの表情に喜びが満ち溢れた。
「なんて健気な御方でしょう。不肖ながらも私、ご指南致しますわ」
「ありがとう」
ミミとナンシーは握手を交わした。
俺とミミは、二階の寝室へ移動した。
「ベッドが一つしかありませんが……」
「そりゃその、夫婦だから。二つあったら変だろう?」
「た、確かに。そうですね」
ミミは恥ずかしそうに赤い顔で二度肯いた。
――やっぱりものすごく可愛いんですけど。
「旦那様の寝相は悪い方ですか?」
「どうだろう。普通かな?」
「寝返りを打ちやすい方向は?」
「右かな」
「じゃあ旦那様は右の壁側に寝て下さい。ベッドは壁にくっついていますし。寝返りを打った時に、向かい合うのが壁なら安心ですわ」
――壁と向かい合っていろ、と俺は言われてしまった。
遠回しに、男として拒否されたのだ。
「つまり君は……その……そういう気持ちは、全く無いと」
「そういうとは?」
「だから……その……ええと」
どう言い出せばいいのだか。
「私もこの際、はっきり申しますわ」
心臓がドキリと跳ねる。
――ああもう、分かっていたさ。
結婚したのは双方の利益の為。貴方と男女の関係になるつもりは無い。
そうきっぱり言われるのだろう。分かっていたさ、分かっていたけれど、切ないなぁ!
「私、ものすごく寝相が悪いんですよ」
「え?」
【つづく】
ナンシーが突然そう言ったものだから、
「な、なんでしょう?」
ミミの表情に少し緊張が帯びた。
「あの馬鹿王子の面に泥を塗りたくってくれてありがとう。私も大嫌いだった」
予想外のナンシーの言葉に、俺もミミも不意を突かれた。
「私も昔、王宮でいろいろあってね」
「王宮にいらっしゃったのですか」
「女中でした。あの馬鹿王子の母親には、それはいびられたわ。息子の顔を写真で見る度、吐き気がしていた」
「ご苦労されたのですね……」
「王妃が来る前は、仕事にやりがいを感じていたのよ。王妃は亡くなったけれど、そっくりの王子様がいれば同じことよ。この国には、もっと王に適う人がいるのに」
ナンシーは溜め息を落とした。
「ナンシー。部屋に紅茶を運んでもらえるかな。夕食まで、まだひととき時間があるだろう」
「はい、ただいまお持ち致します。少々お待ちくださいませ」
「何かお手伝いできることはありませんか」
ミミの言葉に、俺もナンシーも仰天した。大抵、貴族の令嬢は給仕に声もかけない。貴族の生活は上げ膳下げ膳が当たり前。使用人が大勢従事していた侯爵家の悠々自適な生活は司祭の暮らしからはかけ離れている。ミミには勝手の分からぬことも多いだろうと考えていた。
「奥様の手を煩わせるわけには参りません」
ナンシーも戸惑いを露わにしていた。
「でも、何かお役に立ちたいの。これまでは、お食事も旦那様一人分だったけれど、私が来て二人分になってしまったでしょう?」
ミミは皮むきのされていないジャガイモの籠に目を遣った。
「野菜の皮むきなら、私、得意よ」
「とんでもございません。奥様に皮むきなど。今日は式の後でお疲れでしょう。ゆっくり休まれてください」
「……。そうね、今日はお言葉に甘えるわ」
ミミは「ありがとう」と言って、台所をきょろきょろとした。
「綺麗な台所ね。私の母がよく申していました。料理上手は、片付け上手と」
侯爵家の奥方が、料理好きとは意外だ。
「私、料理が好きなの。明日からでも、一緒に料理をさせてもらえないかしら」
「そ、それは構いませんが」
ナンシーは驚き入っていた。前任の司祭の妻、さらに前々任の司祭の妻とも付き合いのあった彼女にとって、自ら家事を申し出る者は初めてだったのだ。
「是非旦那様の好きな料理を教えて欲しいの。腕を振るいたいのよ」
ナンシーの表情に喜びが満ち溢れた。
「なんて健気な御方でしょう。不肖ながらも私、ご指南致しますわ」
「ありがとう」
ミミとナンシーは握手を交わした。
俺とミミは、二階の寝室へ移動した。
「ベッドが一つしかありませんが……」
「そりゃその、夫婦だから。二つあったら変だろう?」
「た、確かに。そうですね」
ミミは恥ずかしそうに赤い顔で二度肯いた。
――やっぱりものすごく可愛いんですけど。
「旦那様の寝相は悪い方ですか?」
「どうだろう。普通かな?」
「寝返りを打ちやすい方向は?」
「右かな」
「じゃあ旦那様は右の壁側に寝て下さい。ベッドは壁にくっついていますし。寝返りを打った時に、向かい合うのが壁なら安心ですわ」
――壁と向かい合っていろ、と俺は言われてしまった。
遠回しに、男として拒否されたのだ。
「つまり君は……その……そういう気持ちは、全く無いと」
「そういうとは?」
「だから……その……ええと」
どう言い出せばいいのだか。
「私もこの際、はっきり申しますわ」
心臓がドキリと跳ねる。
――ああもう、分かっていたさ。
結婚したのは双方の利益の為。貴方と男女の関係になるつもりは無い。
そうきっぱり言われるのだろう。分かっていたさ、分かっていたけれど、切ないなぁ!
「私、ものすごく寝相が悪いんですよ」
「え?」
【つづく】
「恋愛」の人気作品
書籍化作品
-
-
1980
-
-
17
-
-
70811
-
-
149
-
-
39
-
-
112
-
-
5
-
-
4
-
-
49989
コメント
鼻血の親分
旭山リサ様、
ここまで読ませていただきました。新たな生活の始まりで、これからどんな展開が待ち受けているのでしょう?王子は是非とも激しく後悔してほしいですね。また、前世の記憶が物語に与える影響も気になります。
ミミは賢くて可愛らしい一面と、少し勝気で猪突猛進な性格をお持ちのようで、非常に魅力的なヒロインだと思います。彼女をリンドバーグがどう救済していくのか、これからの展開が楽しみです。素晴らしい物語をありがとうございます。 ※私の作品へのお返しコメントは不要です♪