【コミカライズ化!】リンドバーグの救済 Lindbergh’s Salvation
1-4 ★ 私は爆弾を送りました
「と、とにかく診療を続けますね」
医師はまず問診を始めた。言葉少なに答える。その後脈を取られ、採血され、ひととおりの診療が終わった。
「脈も安定していますし、意識も自分にまつわる記憶も正常ですね。首の痣はしばらく残るでしょうけれど」
「首?」
自分の首に触れると、鈍痛があった。窓ガラスへ向くと、首に痣のある自分の姿が映っていた。長い金髪と、不満そうに歪められた漆黒の目も。
「ミミ・キャベンディッシュ様。どうして自殺なんてしようと考えたんですか。命を粗末にしてはダメですよ」
――出たな、命の尊さの説教。
誰が初めに言うだろうかと考えていた。まさか、医師とは。第三者に説教されることほどむなくそ悪いことは無い。
「これほど美しい御方が、命を粗末にするほどの、辛いことがあったのでしょう」
――誰よ、歯の浮きそうな言葉を吐いたのは。
発言者はなんと、診察の様子を、保護者のように見守っていた司祭だった。
「今は、お一人にしてさしあげてはどうですか」
「けれども……」
医師は私が再び自殺しないか案じているようだ。そうよね。私のような曰く物件、自分の病院で死なれたらたまらないでしょう。
「まず先生は、キャベンディッシュ邸へ使いを出されてはいかがですか。ご家族が到着するまでの間、私が彼女の話し相手になります」
「司祭様が、おっしゃるのなら」
医師と看護師は病室を後にした。
――両親が来るのか。怒られる? いや、泣かれる?
どちらにしても憂鬱だ。司祭と二人きりの病室に沈黙が落ちた。
「そういえば自己紹介がまだだったね。俺の名前は、アルフレッド・リンドバーグ。アルと呼んで」
「ミミ・キャベンディッシュです」
「よろしくね、ミミ」
いきなり呼び捨てとは。司祭は椅子を寝台のそばへ引いてくると、腰掛けた。
「いろいろと大変だったね」
「まぁ……はい」
「首のところ、痛いだろう?」
「痛い……です。でも自分でしたことなので」
司祭アルフレッドは悲しげな表情で私を見ていた。
「なんですか、その顔」
「俺が君の立場だったら、同じことをしただろうと考えていたところ」
「えっ」
「俺は男性だから、傷つけられた女性の気持ちを完全に理解することは出来ないと思う。でも、気持ちは分かる。俺なら首をくくるよ」
「失敗しましたけどね。失敗した分、しっぺ返しが来ます」
「何を言っているんだい」
「自殺をしようとしたから、皆が私を心配してくれるなんて……そんなことあるわけないじゃないですか」
気持ちが分かる。僕なら同じことをした。上辺だけ気持ちに寄り添う、彼の言葉が不愉快だ。
「私はこれからたくさんの人に説教をされるでしょう。二度と自殺をしないように他者の目に監視され、一方で好奇の目に晒されるのです」
「きみのことを、悪女だと書き立てていた新聞や雑誌かい?」
「そうです。彼らに、爆弾を送りました」
「ば、爆弾!?」
「比喩です。今に分かります。明日にでも」
コンコンと病室の扉が鳴った。私のかわりに「どうぞ」と司祭が声をかける。看護師がおずおずと顔をのぞかせた。
「キャベンディッシュ卿と奥方様がお見えになりました」
「え? もう? 意外に早かったですね」
司祭は目を丸くした。
「図書館の司書が、ミミ様が病院へ運ばれたことを真っ先に知らせたそうで……」
親戚の司書だ。彼に悪いことをしてしまった。
看護婦の背後から駆けるような足音が聞こえる。両親は病室へ飛び込み、力強く私を抱きしめた。
医師はまず問診を始めた。言葉少なに答える。その後脈を取られ、採血され、ひととおりの診療が終わった。
「脈も安定していますし、意識も自分にまつわる記憶も正常ですね。首の痣はしばらく残るでしょうけれど」
「首?」
自分の首に触れると、鈍痛があった。窓ガラスへ向くと、首に痣のある自分の姿が映っていた。長い金髪と、不満そうに歪められた漆黒の目も。
「ミミ・キャベンディッシュ様。どうして自殺なんてしようと考えたんですか。命を粗末にしてはダメですよ」
――出たな、命の尊さの説教。
誰が初めに言うだろうかと考えていた。まさか、医師とは。第三者に説教されることほどむなくそ悪いことは無い。
「これほど美しい御方が、命を粗末にするほどの、辛いことがあったのでしょう」
――誰よ、歯の浮きそうな言葉を吐いたのは。
発言者はなんと、診察の様子を、保護者のように見守っていた司祭だった。
「今は、お一人にしてさしあげてはどうですか」
「けれども……」
医師は私が再び自殺しないか案じているようだ。そうよね。私のような曰く物件、自分の病院で死なれたらたまらないでしょう。
「まず先生は、キャベンディッシュ邸へ使いを出されてはいかがですか。ご家族が到着するまでの間、私が彼女の話し相手になります」
「司祭様が、おっしゃるのなら」
医師と看護師は病室を後にした。
――両親が来るのか。怒られる? いや、泣かれる?
どちらにしても憂鬱だ。司祭と二人きりの病室に沈黙が落ちた。
「そういえば自己紹介がまだだったね。俺の名前は、アルフレッド・リンドバーグ。アルと呼んで」
「ミミ・キャベンディッシュです」
「よろしくね、ミミ」
いきなり呼び捨てとは。司祭は椅子を寝台のそばへ引いてくると、腰掛けた。
「いろいろと大変だったね」
「まぁ……はい」
「首のところ、痛いだろう?」
「痛い……です。でも自分でしたことなので」
司祭アルフレッドは悲しげな表情で私を見ていた。
「なんですか、その顔」
「俺が君の立場だったら、同じことをしただろうと考えていたところ」
「えっ」
「俺は男性だから、傷つけられた女性の気持ちを完全に理解することは出来ないと思う。でも、気持ちは分かる。俺なら首をくくるよ」
「失敗しましたけどね。失敗した分、しっぺ返しが来ます」
「何を言っているんだい」
「自殺をしようとしたから、皆が私を心配してくれるなんて……そんなことあるわけないじゃないですか」
気持ちが分かる。僕なら同じことをした。上辺だけ気持ちに寄り添う、彼の言葉が不愉快だ。
「私はこれからたくさんの人に説教をされるでしょう。二度と自殺をしないように他者の目に監視され、一方で好奇の目に晒されるのです」
「きみのことを、悪女だと書き立てていた新聞や雑誌かい?」
「そうです。彼らに、爆弾を送りました」
「ば、爆弾!?」
「比喩です。今に分かります。明日にでも」
コンコンと病室の扉が鳴った。私のかわりに「どうぞ」と司祭が声をかける。看護師がおずおずと顔をのぞかせた。
「キャベンディッシュ卿と奥方様がお見えになりました」
「え? もう? 意外に早かったですね」
司祭は目を丸くした。
「図書館の司書が、ミミ様が病院へ運ばれたことを真っ先に知らせたそうで……」
親戚の司書だ。彼に悪いことをしてしまった。
看護婦の背後から駆けるような足音が聞こえる。両親は病室へ飛び込み、力強く私を抱きしめた。
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