【コミカライズ化!】リンドバーグの救済 Lindbergh’s Salvation

旭山リサ

1-5 ★ 大爆発 大炎上

 自殺未遂の直後は、誰だって心配される。
 心配された時間は短かった。あの手紙が予定通り配達されたからだ。

 私は【恨みつらみ申し上げます】とあっぱれな手紙を王子に送り、王国中にばらまいたのだ。

 手紙の内容を知り、両親は魂の抜け殻のようになっていた。私との距離感に悩んでいるようである。

 自殺未遂から二日が経過した。「もうどうにでもなれ」とやさぐれた気持ちだ。朝日が眩しい。まるで写真機の閃光のようだ。外の光を遮断しようと寝台を立ち、カーテンの引き紐に目が留まる。これは良い。使える。

 紐を抜いて、せっせと首縄を作る。死ぬのを諦めるものか。私が自ら死ぬから復讐が完成するはずだった。あの司祭に見つかり、助けられたせいで、全ての計画がおじゃんとなった。命の恩人に感謝の念一つも抱かない私は愚か者かもしれない。だが今は、誰かに「ありがとう」と言える気持ちが微塵もわいてこないのだ。

 コンコンと部屋の扉が叩かれる。作りかけの縄を慌てて毛布の中に隠した。

「何か、御用?」
「お客様がお見えになっております」

 扉の向こうで女中が答えた。

「会いたくありません。お帰りいただいて」

 雑誌社、新聞社、王家の使者。
 誰であったとしてもお断り。窓の外、塀の向こうから、記者達のざわめきが聞こえる。

 ――ああ、なんて憂鬱な朝なのかしら。

「ご主人様と奥様が通されました。貴女にも会わせたいと」
「お父様とお母様が?」
「はい。リンドバーグ様とおっしゃる司祭だそうですが」

 なんと命の恩人がやってきた。

 ――嬉しくない。なぜ来たし?

 彼も「爆弾」の意味を知っただろう。「自殺未遂の可哀想なお嬢さん」とはもう思っていないはずだ。

「気分が優れないの。申し訳ないけれど、今日は帰っていただいて」

 ここまで言われたら普通の客人は、
「ご気分が優れないのなら、日を改めて」
 と、遠慮するはずだ。私は寝台に横になり、毛布の中でせっせと首縄作りを再開した。
 すると再びコンコンと扉から音がした。

「ミミ。おはよう、アルフレッドです」

 なんと恩人は遠慮せずに、未婚の女子の寝室へ直接やってきなさった。

「は? え? ちょっと、待って!」
「失礼します」
「ちょっと待って!」

 止める声を無視して、司祭が笑顔で入室した。

「やあ、ミミ」
「やあ、じゃないわよ! 勝手に入ってこないでください」
「司祭の勘で、今日の朝あたりに君がもう一度自殺を試みそうな気がしたから、やってきた」
「し、司祭の勘って……」
「悩みを聞くのが仕事のようなものだからね。あっちのカーテンには紐があるけど、こっちのカーテンの紐が無い。俺の推理では、おそらく消えたカーテンの紐は君の布団の中」
「なっ、ばっ、そんなわけないでしょう!」
「少し布団の中を拝見……」
「破廉恥! 自分が何をおっしゃっているか、分かっています?」

 寝台へ近付いてきた司祭に布団をめくられぬよう、私は自分へ引き寄せた。だがその行為こそが、そこに何か隠していると認めているようなものだった。

「まぁ、いいか。怒るうちは元気の証拠」

 司祭は寝台のそばの椅子に腰掛けた。

「まだ自殺したいの?」
「……」
「諦めてないって顔だね、コレの件で?」

 司祭はポケットから折りたたんだ朝刊の一枚を出して広げた。

「皮肉節たっぷりの君の【遺書】が、王国全土に出回っているんだけど、どういうこと?」

 新聞の見出しはこうだ。



【ミミ・キャベンディッシュの遺書事件】
 ミミ嬢の自殺未遂当日、彼女の遺書が関係者、公共機関、当新聞社にも一斉配送された。この件について、王室は沈黙を貫いている。ミミ嬢は退院し、自宅で療養中である。



「爆弾の意味が分かったよ。こりゃ言葉の爆弾だね」
「大爆発、大炎上。結構、結構」

 私は腕組みし、首を縦に振った。

「これを読んだ時は腰が抜けたよ」
「引いたでしょ?」
「いや……不謹慎かもしれないけど、笑った」
「はい? 笑った?」

  司祭の言葉に耳を疑った。

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