【コミカライズ化!】リンドバーグの救済 Lindbergh’s Salvation

旭山リサ

7-4 ★ フランク・エーデルワイス

 大使館に保護されてまたたく間に四日が経過した。

 帰国の途に就こうにも、マーガレット王女様の身の安全が確保されないことには、大使館を離れることはできない。チャールズも事が収まるまで大使館に留まってくれるという。ありがたいことだ。

「ザルフォークの首都を観光したいところだけど、ちょっと無理そうね」

 大使館の前に詰めかけた、人、人、人。俺たち夫婦の誘拐事件は、ザルフォークの新聞の一面を飾ってしまった。チャールズが大使館に滞在していることも併せて報道された為、話題の兄弟王子をひと目見ようと人が押しかけたのだ。身動きを取ろうにも取れない。新しい情報も入ってこないのでは気が滅入ってしまいそうだ。

「ミミ、見つけたよ!」

 内庭でミミとお茶をしていると、チャールズが笑顔で飛び込んできた。

「なにを見つけたの、チャールズ?」
産婦人科医さんふじんかいだ。評判の名医がいる」

 大使館の周囲が人でごった返しているので、これでは医者は呼べないとごまかし続けていたが、チャールズはあきらめなかったようだ。

「すぐに呼んで、今夜にでもてもらおう」

「き、気を遣わせて申し訳ないわ。でも私、もう体調は大丈夫。全然平気よ」

「それでも大事を取っててもらうに越したことはない。兄上もそう思うでしょう?」

 罪悪感がつのる。弟の厚意を無下むげにできない。考えようによっては、ミミの健康診断をねててもらうのも良いかもしれない。

「ご歓談中のところ失礼致します」

 庭に、秘書のジーニーが現れた。

「チャールズ殿下、アルフレッド殿下。モンスーン王室から使者が見えているのですが」
「モンスーン王室からだって?」

 俺は思わず聞き返す。もしやエーデルシュタイン関連のことだろうか。

 ――シモンが内密に調査をすると言っていたけど……。

 王室から使者が来るとはどういうことだ。

「チャールズ殿下、アルフレッド殿下との面会を望まれています」

「僕たち兄弟に? なぜ」

「なんでも内密の話だそうで。モンスーン王室となるとマーガレット王女殿下は確執かくしつがございますし、ここにかくまっていることは極秘事項ごくひじこうです。王女殿下の目につかない、奥まった応接室へ通しました。そこで面会されるのがよろしいかと」

「では私がマーガレット王女様の相手をするわ。二人がモンスーンの使者と話している間、鉢合わせしないようにすれば良いでしょう」

「そうしていただけると助かります、ミミ様」

 ジーニーはミミへ一礼した。

「マーガレット王女様はどこにいるかご存じ?」

「図書室に行かれるのを先程見かけました」

「分かったわ。それじゃあ、アル、チャールズ。あとで詳細を教えてね」

 ミミは内庭を出て、図書室の方角へ去った。

「アルフレッド殿下、チャールズ殿下。使者を応接室で待たせていますので、どうぞ」

 ジーニーの後について応接室へ向かう。中へ入ると、使者らしき男と、ケビン大使が歓談かんだんを交わしていた。

「アルフレッド殿下、チャールズ殿下。こちらモンスーン王室の使者、フランク・エーデルワイス殿です」

「お初にお目にかかります、殿下。突然お呼び立てして申し訳ございません」

 フランクという名の使者は、胸に右手を添えて腰を折った。灰色の髪の、屈強くっきょうそうな体つきの男だ。普段からきたえ上げているのだろう。

 ――壁際かべぎわにいるのは、この使者の護衛だろうか。全員ものすごく強そうだ。

 使者一人に対して、護衛が六名。よほど大事な用を任されてきたのだろう。

「内密のご相談とのことですので、私は退席致します」

 ケビン大使が部屋を後にする。

「前もって了承も得ず、大使館の戸を叩いたことを何卒なにとぞ容赦ようしゃいただきたい。ヴェルノーン王室のご兄弟がこちらにご滞在のうちに、と気が急いて」

「遠路はるばるご足労そくろうを」

 チャールズの言葉に「いえ……」と使者はかぶりを振った。

「幸いザルフォークの首都と、モンスーンの王都は近い距離にあります。どうしてもお二人に訊ねたいことがあって」

「訊ねたいこと、というのは?」

 チャールズが訊ねると、フランク使者は視線をひざに落とした。両手が小刻みにふるえている。

「エデン王国のマーガレット王女殿下が出した、例の手紙のことでございます」

 ――ああ、あの……ハンター殿下の好色さを余すことなく伝えた告発か。

「どう冤罪えんざいを晴らせば良いのでしょうか」

冤罪えんざい?」

「尻軽だの軽薄だのと身に覚えのないことを書かれて……で、殿下は憔悴しょうすいなさって……おります」

 使者フランクは頭を抱えて、重い溜め息を吐いた。

【つづく】



 次話の更新は【6月6日 木曜日】を予定しています。

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