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キリトリセン~芸術的勇者~

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最終話「それから」

 体に軽いブランケットのようなものが乗せられる感覚に、私は目を覚ました。

 夕暮れの村。粉ひき小屋の隣にある私の家。そして、今は落ち着いた服を着ている、金色の髪の私の美しい妻。

「あらあなた、起きてらっしゃったの?」

「いや、ミヒロ。キミが触れてくれたから、私は夢の世界から戻って来れたよ」

 窓際に置いてあるロッキングチェアから体を起こし、私は妻を抱き寄せ唇を交わす。
 背中を伸ばしてテーブルの上の水差しから直接水を飲み、私はのどを潤した。

「お行儀悪いですよ、あなた」

「冒険の間はずっとこうだったじゃないか」

「えぇ、でも……そうですね、15年も続いた生活ですものね……」

 今ではその冒険の生活の倍も、ここでこうして生きている。魔王討伐の褒美として与えられた財宝で何不自由ない生活を送っていたが、ただ一つ、この退屈にはなかなかなれなかった。

 魔王を切り取ってから、私にはもう「キリトリセン」は見えなくなっていた。
 残党狩り程度ならば「キリトリセン」が見えなくても、長年鍛えた剣の腕で何とかなったが、その後の軍を率いるような仕事は丁重に辞退した。
 あの線の見えない私など、その辺に居る少々腕の立つ剣士程度のものだ。もともと私に剣の才能など無い。
 あるのは芸術作品に対する愛と、情熱だけだったのだから。

 私は最高のオブジェを完成させたことで、その芸術に対する渇望すらも無くしてしまった。
 平たく言えば満足してしまったのだろう。

 おかげで、私はこの美しい妻を切り取らずに、幸せに生きることが出来ている。
 それは、とてもいい事だと私は思った。

「明日は孫たちが顔を見せに来てくれるそうですわ」

「そうか……それは楽しみだ」

 ただ一つ、私には気がかりなことがある。
 一人息子が嫁を貰い、5年前に娘を授かったのだ。
 その孫娘の顔が、初めて出会ったミヒロの姿と……そしてあの魔王の姿を髣髴ほうふつとさせる。

 快活で太陽のような少女だったミヒロ。
 艶やかで月のような少女だった魔王。

 その2人を合わせた以上に美しく愛らしい孫娘に、私は彼女たちに抱いていた以上の愛情を感じている。
 そしてその愛情は、あの「キリトリセン」を産んだ私の渇望と、とても良く似た感情だった。

――完

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