ある男とある梟の旅行記

テオリア星人

気負い山篇 ep.1

気負い山は冬の峠。
必要最低限の気を持たないと、自然に殺されてしまう。
のし、のし。のし、のし。
パタパタ、パタ。
一人の男と、一羽の梟が、峰の一つを超えてやってきた。
男「いや、国の大騒動。各地で乱世乱世。」
梟「ほっぽー(北方)」
男はしばらく腰を下ろし、気負うことなく休んだ。
男「まさしく休暇。存分に充足。」
梟「ほー(惚ー)」
必要最低限の気を保ちながから、英気を養った男は、麓の不自由村へ向かって歩き出した。
夕暮れになり、不自由村へ到着した男は、村人の良心により一晩泊めてもらうことに。村人の家の中で暖をとりつつ、話が弾む。
村人「へぇ、全国行脚を。」
男「ええ。ただ不思議なことに、いつお伺いしても、やっぱりここら辺は東北地方なんです。」
村人「はははっ。世の中には不思議なこともあるもんですな!」
男「乱世乱世。」
梟「ほほー(歩々ー)」
ドッ、っと会話が明るくなって、その日は眠った。
次の日、男が立つ前、事件は起きた。
村人が町役場で、次の町への通行許可証の発行を進めてくれている時のこと、役場の部屋の一角から怒号が聞こえてきた。
上司「ですからね、君の仕事ができてないのはですね、あなたの人間性がですね、仕事にですね、影響をですね、及ぼしですね、チームワークを乱してですね、いるわけですね。…わかってますかね?」
部下「…はい、申し訳ありません。」
上司「怖いね、人間てのはね。」
遠くで見ていた男は役場で起きた状況を見て、村人へ話しかけた。
男「部下なすすべなし。世知辛き労働環境。」
村人「しっ、彼はここの1番のやり手だ。聞こえたら次の町への許可証が発行できなくなりますよ。」
梟「ほーほ(放ー暴)」
男「…そんなら、そこに見えるのはやっぱりパワハラなんだ。」
男がつぶやくと、上司が部下へ一層語気を強めて言葉を放った。
上司「サルじゃあないんだ。そんな感じだけども?」
村人「さぁ、次の町への許可証がもらえました。行きましょう。」
男は少しうつむき、黙ってその場を後にした。
村人は門の前で男に「くれぐれも気をつけてください。知ってると思いますが、この気負い山を越えるのは大変な気苦労だ。村々にも心労が絶えない。あなただけはせめて気を確かに過ごしてください。」
男「最後は、度胸。」
梟「ほ(咆)」
短い挨拶を交わし、男はまた、気負い山を登る。

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