ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
458話「契約提示」
あっという間に三日が経過する。なんだかんだやっていると、時間が経つのは早いもので、バルバトス帝国との約束の日が来てしまった。
あれから、各国に点在する商会のうちコンメル商会とグレッグ商会については、各商会で原材料を調達するための冒険者クランのようなものを立ち上げ、それぞれ【白銀の団】と【黄昏の団】と名付けた。それぞれを象徴する旗を作ってやると、何故かメランダとカリファが異常なまでに泣いて喜んでいたが、元傭兵としては特定の決まった集団ができることは何か彼女たちの琴線に触れる部分があったのだろう。
それから、冒険者に必要な剣や防具などを作ってやったり、冒険者ギルドに事前通告のために根回しをしたりといろいろやっているうちに、気付けば三日という時間が過ぎていた。
「待たせたな。約束の時間だ」
「……」
瞬間移動で前回皇帝を話した玉座の間に現れると、そこには皇帝や宰相を始めとするバルバトス帝国の主要な貴族たちの姿があった。どうやら、あの後貴族たちを交えての話し合いが行われたらしく、俺が現れても驚きはなかった。
「それで、どんな結論になった?」
「それについてだが――」
「陛下、ここからは私が」
皇帝に話し合いの結果がどうなったのか問い掛けると、皇帝の話を遮るかのように一人の男が出てきた。その姿は歴戦の戦士を思わせるほどの大男で、おそらくは帝国の中でもかなりの実力を持っていることが窺える。
そのまま成り行きを見守っていると、突如男の視線がこちらに向けられる。その視線には敵意が込められており、あまり歓迎はされていないらしい。
「ほう、俺の威圧に耐えるか」
「あんたは?」
「バルバトス帝国ベルモンド侯爵家当主バデラー・フォン・ベルモンドだ」
「ローランドだ。冒険者をやっている」
この言葉を何度言ったか覚えていないが、自己紹介をしてくれたので、こちらも簡単な自己紹介をしておく。俺の返答に片眉を吊り上げ怪訝な表情を浮かべたが、今はそれよりも大事なことがあると考えたのか、表情を真剣なものに変えてバデラーが問い掛けてくる。
「俺たちとしては、いきなりやってきた貴様が何者なのかというのが正直なところだ。そこでだ。俺と模擬戦をしてもらいたいのだが、構わないな?」
「まあ、それで気が済むのなら構わない」
「では行くぞ!」
俺の了承を得た瞬間、いきなりこちらに突進してきた。人間としてはなかなかのスピードだが、俺には遠く及ばない。スローモーションのような動きで相手の動きがすべて見えているため、余裕で躱すことができた。
バデラーとしては、おそらくいきなりの奇襲を狙ったようだが、すべての動きが見えている以上俺に対してその攻撃は奇襲になり得ない。
「今のを躱すか」
「そんな緩慢な動きじゃ俺を捉えることはできない」
「言ってくれる」
それから、バデラーの一方的な攻撃が始まったが、先ほども言った通りその動きは常人の域を脱しておらず、すべての動きが見えていた。念のため部屋の中にいた貴族たちを超解析で調べてみたが、これといった強さの人物はおらず、今戦っているバデラーが貴族の中では頭一つ抜き出ているものの、その実力はSランク冒険者のレベルにおさまる程度だ。
バデラーとの攻防が続く中、徐々に彼の表情から余裕がなくなっていく。形式上は模擬戦という形を取っているため、素手での攻撃に限定されているが」、そろそろ体力が切れてしまったようで、彼の攻撃の手が緩んできた。
「はあ、はあ。ば、化け物め!」
「心外だな。己が欲望のために謂れのない理由をでっち上げ、他国に攻め入る方がよっぽど化け物だと思うが?」
「くっ。うおおおおおおおおお」
舌戦でも敗北したバデラーだったが、それでも諦めずに拳を振り続ける。だが、その攻撃が当たることはなく、ただただ虚しく空を切るのみだ。周囲の人間も「あのベルモンド侯爵の攻撃がああも容易く」などという言葉から、この男は帝国内でも一目置かれていることは明白だ。
その男をまるで赤子を相手にするかのようにあしらっている俺を見て、その場にいた貴族たちはようやく理解したらしい。敵に回してはならない人間を敵にしたということを……。
「はあっ」
「もういいか? いくらやってもお前の攻撃が当たらないことは嫌でも理解できたはずだ」
「もうよい。ベルモンド侯爵やめよ」
「へ、陛下っ!? し、しかしっ」
「余はやめよと申したのだ。それとも余の言葉を聞けないほど、余の言葉は軽いか?」
「と、とんでもございませんっ!!」
諦めようとしないバデラーだったが、上位者である皇帝が窘めると、ようやく引き下がった。皇帝が止めなければ、俺にやられるまで戦っていたことは明白だっただろう。
模擬戦であるため、勝敗については関係ないことだが、実質的にバデラーが敗北したことで、周りの貴族たちが騒いでいたが、そんなことを無視しして俺は本来の目的を遂行することにする。
「お前たちバルバトス帝国の言動は目に余る。よって、俺とある契約を結んでもらうことにした」
「契約?」
「確認してくれ」
そう言いつつ、俺はどこからともなく現れた一枚の紙切れを皇帝に渡す。そこに書かれている内容は以下の通りだ。
・他国に対して軍事的な接触並びに介入の禁止(ただし、善行の場合はその限りではない)
・他国に対して政治的(暗躍)な接触並びに介入の禁止(ただし、善行の場合はその限りではない)
・今後は他国に対して友好的な国交を心掛ける
具体的ではなく抽象的にしているのは、契約の穴を突いてきた場合の布石にするためと、善行的な行動を取った場合でも契約に抵触してしまう可能性があることを考慮したためである。端的に言えば、他の国に迷惑を掛けるなというただ一点であり、国を治める者として守らねばならない当然のルールだ。
そのルールを無視して今まで散々好き勝手に他国に介入しまくっている帝国としては、積み重ねてきたものを奪われた形となってしまったのだろうが、他人の迷惑の上に成り立っているものなど最初からなかったことにしてしまっても何も問題はない。
「ローランド殿。一つだけよろしいでしょうか?」
「なんだ?」
皇帝と共に俺が渡した紙切れに記載された内容を確認したのか、宰相が問い掛けてくる。その内容は実に的を射たものであり、契約という言葉を聞いた時点で確認しておかなければならないことでもあった。
「この契約を破った際の罰則が記載されておりませんが、どういった罰則が科せられるのでしょうか?」
「ふふふふ。さすがは宰相といったところか。そこに気付くことは素晴らしいぞ」
「あっ、ありがとうございますっ」
その点に気が付いたことについて素直に称賛すると、宰相が頬を上気させる。だが、宰相が気付いた点は、本当にファインプレーだった。
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