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ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

456話「次のステップへ」



 バルバトス帝国の皇帝との話し合いが終わった俺は、一度シェルズ王国の王都ティタンザニアへと戻ってきていた。目的は国王の報告ではなく、帝国に条件を付きつけるまでまだしばらくの時間があるため、その間にできることをやっておこうと考えてからだ。その目的とは、配置換えである。


「というわけで、奴隷商会に行くぞ」

「何がというわけなんですか?」


 俺がやって来たのは、王都にある俺が出資している商会のコンメル商会だ。俺の姿を見た従業員が、すぐに商会長のマチャドのところまで案内してくれる。そして、開口一番俺はマチャドに奴隷商会に行くことを告げる。


 俺が姿を現すと、俺の言葉に怪訝そうな顔を浮かべるも、素直に俺の指示に従って外へと出る準備をしてくれる。それから、詳しい事情説明をしないまま贔屓にしているドンドレ奴隷商会へとやってきた。


「これはこれはローランド様にマチャド様。ご無沙汰しておりやす。本日はどういった奴隷をお探しでしょうか?」

「かくかくしかじかぐるぐるぽろぽろ」

「なるほど、かしこまりやした。すぐに条件に見合う奴隷を見繕ってまいりますので、こちらの部屋でお待ちください」


 俺を目敏く見つけたドンドレが短い挨拶と共に用向きを聞いてくる。奴隷商会にやって来る人間の目的は一つしかないため、少ないやり取りで済むように配慮してくれたのだろう。


 そんな彼の気遣いに俺も遠慮なく手短にこちらの条件を提示してやると、にやりと口の端を歪ませながら俺とマチャドを応接室へと通してどこかへ行ってしまった。うちの家族や一部の人間にのみ通じるやり取りなのだが、何故ドンドレがそれを理解できるのかは未だに解明されていない。これもまたファンタジーなのだろうか? ……違うか。


 しばらく待っていると、数十人の奴隷を引き連れたドンドレが戻ってきた。パッと見てみると、俺が提示した条件に当てはまる奴隷ばかりの様子だ。もう一度言うが、何故わかるんだ?


「ローランド様のお望み通り、接客と料理と戦闘に秀でた者たちにごぜぇます。比率も接客が七、料理が二、戦闘が一ということでしたので、そうなるように連れてまいりやした」

「パーフェクトだドンドレ」

「感謝の極みでごぜぇやす」


 まさか、持っている能力の比率まで理解して連れてくるとは思わず、俺は素直にドンドレを称賛する。俺の言葉にだた恭しく一礼するのみのドンドレにプロとはこういうものなのだろうかというどうでもいいことが頭を過ったが、すぐに頭を切り替える。


 俺がドンドレに提示したのは、人員の補充で前回クッキー販売を行った際に提示した条件と同じものであった。接客の経験がある者、料理の経験がある者、戦闘に心得のある者を七対二対一の比率で見繕うこと、そして性別が女性であることという条件だった。その意味があのかくかくしかじかにはあったのだが、ものの見事にドンドレはこちらの提示した条件の人材を連れてきたようだ。


 ドンドレが連れてきた人材は、前回と同じくらい十数人くらいの奴隷たちで、その種族は人族が大半を占めていたが、一人二人ほど獣人も混じっている様子だった。


 ドンドレを信用していないわけではないが、念のため超解析で調べてみたところ、特に問題となるようなところはなく、精々が見た目が少し不健康そうに見えたり、少し空腹状態の奴隷がいたりという奴隷としてはあまり珍しくない状態の者ばかりで、これなら後で治療なり食事を出すなりするだけで問題が解決するため、すぐに清算してもらうことにする。


「じゃあ、全員貰っていくぞ。いくらになる?」

「……ありがとうごぜぇやす。さすがは稀代の英雄様。豪快な買い物でございやすな」

「すぐに手続きをやってくれ。前と同じで契約者はこいつだ」

「あのーローランド様? 事情が呑み込めないのですが?」

「とりあえず、今は彼女たちと契約を交わしてくれ。後で説明する」


 今は奴隷との契約が先決とばかりに、有無を言わさずマチャドに奴隷契約を結ばせる。そのまま、ドンドレといくつか言葉を交わし、契約した奴隷たちを引き連れて奴隷商会を辞去すると、たまらずマチャドが話し掛けてくる。


「それで、どういうことですか?」

「新たな仕入れ先を確保しておこうと思ってな」

「仕入れ先?」

「今販売している商品の原材料は、俺の手によって賄われている。でも、それじゃあ俺がいなくなった時に立ち行かなくなるのは明白だ。そこで、俺の手による原材料の供給ではなく、それ以外からの仕入れ先を今のうちに確保しておこうと思ったわけだ」


 実質的な商会の代表は各商会の商会長が行っているが、取り扱っている商品の原材料や加工品については俺の工房にいる職人ゴーレムが請け負ってくれているのが現状だ。そのため、俺がいなくなった後、ゴーレムたちがそのまま動き続けるのか疑問に思うのは当然のことであり、仮にそうなった時の対策を取る必要性が出てくる。つまりは、工房以外からの仕入れルートの確保である。


 現状商会の人間主体で生産している商品は、ぬいぐるみと木工人形、そしてシュシュが主流となっている。これでも、俺の手から離れて商会だけで商品の仕入れから加工までを請け負うようになってきてはいるものの、それでも今後の商会を存続させていくためにはさらに商会主体での生産が必要となってくる。


「それと今回の奴隷購入に関係があるのですか?」

「ああ、大いにある。そうだ。一応聞いておくが、今屋台で雇っている奴隷たちを解放しても問題ないな?」

「はあ。特に問題ありませんが」


 先ほど購入した奴隷たちをマチャドに任せ、俺は一人クッキーと唐揚げを販売している奴隷たちの元へと向かった。

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