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ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

453話「運搬作業(兵士)」



「ここら辺りか」


 国境から飛行魔法と瞬間移動を駆使して移動した結果、数十分という僅かな時間で帝都近郊の荒野にまで辿り着く。帝都はその場所から大体一日歩いた先にあり、逆にその場所から再び国境に向かうとなると、鈍重な足並みの軍隊では半月以上の時が掛かることは明白だ。


 念のため帝都周辺のぐるりと周回し、帝都から軍の姿が見えない場所を選んだつもりだ。
 ここならば、帝都から兵士たちの姿を遠目からも確認ができないため、俺の動きを悟られることもないだろう。


「時間も有限だし、すぐに始めるとしよう。……【ディメンジョンゲート】」


 周囲の安全を確認し、俺はその場所にディメンジョンゲートを展開する。突然現れたゲートは虚空の闇に包まれており、初めてそれを見る者にとっては不気味な様相だ。


 そして、さらにその不気味さを加速する出来事が起きたのは、俺がディメンジョンゲートを開いて数秒も経過していない僅かな時間だった。なんと、虚空から這い出してきたかのようにゲートからゴーレムが現れた。その肩には、まるで荷物を運ぶかのように武装した兵士を担ぎ上げており、ちょっとした引っ越し作業を見ているかのようだ。


 こちらの存在に気付いたゴーレムが軽く一礼すると、すぐに空いているスペースに兵士を降ろしていく。それが終わると、すぐに踵を返したゴーレムは再びゲートに向かって行き、虚空へと消えていく。


 それから、入れ代わり立ち代わりに兵士を担いだゴーレムがひっきりなしにゲートから現れ、兵士を降ろしては再び虚空へ消えていくという光景が目に飛び込んできた。おそらくは、ゲートが国境に出現したのを確認したプロトがゴーレムたちに指示を出した結果だと当たりを付ける。


 十数万という規模の人間を一所に移動させるという作業は、言葉で表せば簡単に聞こえる。だが、大の大人を一人担いでの移動ともなれば、それなりの重労働を強いられることとなるのは想像に難くない。


 しかしながら、疲れを知らないゴーレムにかかれば、ただの単純作業と成り下がってしまうようで、特に何の問題も起こることなく兵士の運搬が完了してしまう。


 実質的には、帝都近郊に移動した時間の二倍程度の時間、つまりは一時間前後という短時間で兵士の運搬が完了してしまい、そのあまりに呆気ない結果にこれほど簡単に終わってしまっていいのだろうかと思わず首を捻った。


「ご主人様、すべての兵士の運搬が完了しましたムー。他にご指示はありますでしょうか?」

「そうだな。向こうにあった活動拠点を撤去をやってくれ」

「かしこまりました」


 俺の言葉に従ってゴーレムに指示を出すと、待機していたゴーレムの内の数千体が、ゲートに向かって行った。しばらくして、解体されたテントなどの機材を担いだゴーレムたちが戻ってくると、俺の目の前にそれを並べ始めた。


 時間的な効率を優先した結果、最終的にはすべてのゴーレムを使って活動拠点の解体が行われ、多くのテントや兵站などの物資が所狭しと並べられた。


 その間に兵士たちが起き出してくることはなく、まるで死んでいるかのように眠っている。実際は、俺が放った眠りの魔法が強力過ぎたがために起き出してくる者がいないだけなのだが、これほど大掛かりな作業を行っている中、誰一人として目を覚ましてこないというのは、かなり不可解な光景である。


「ご主人様、解体作業完了しましたムー」

「ご苦労」


 兎にも角にも、すべての工程が完了し、これで兵士たちを国境から遠ざけることに成功する。だが、これでは根本的な解決にはなっていない。


 このまま兵士たちを放っておいた場合、この国のトップに事の顛末が知れることとなる。だが、多少頭の回転の速い人間であれば、今回の一件がかなり力を持った存在が絡んでいることに気付くだろう。しかしながら、他国に無遠慮に攻め入るような人間がこのまま黙って引き下がるとは思えない。再び侵攻を企て、さらには今回の首謀者に対しての対策も講じてくることは火を見るよりも明らかである。


 それはセコンド王国やセラフ聖国、そして先のアルカディア皇国でも知れるところであり、彼らは決して己の行動を省みることはない。だからこそ、結界を使い他国と強制的に断絶することによって一時的に面倒事を回避しているのだ。要は、臭い物には蓋をしろである。


 今回もそれを実行すべきかとも考えたが、この方法には致命的な欠点が存在する。それは、閉じ込めている手段が結界だということだ。今まで結界による処置を施してきた俺だが、その結界も決して万能ではない。幸いなことに、俺の結界を破ることができる存在がたまたまいなかっただけの話であり、その結界も五百年という期限付きのものだ。


 人生にいおいて五百年という時は長く、下手をすれば百年生きられるかどうかというほどに途方もない期間だ。だが、これが国という存在から見た場合、果たして長いと言い切れるだろうか。


 さらに加えて、その五百年という期間内に結界を解除してしまう使い手が現れないとも限らない。詰まるところ、俺がやった行為は問題の先延ばしであって、根本的な問題の解決とは言い難いのだ。結界が機能しているうちは手を出すことはできないが、結界の期限である五百年が過ぎれば、問答無用で結界が消え去ってしまう。そうなった時、閉じ込められていた連中がそのまま大人しく国を治めていくだろうか。


「国ごと潰せれば楽なんだがな」

「やりますかムー?」

「それじゃあ身も蓋もないし、俺が悪者になってしまう。重要なのは、国の上層部が自身の行いを省みて、自分たちが犯した失態を取り戻すことに心血を注げるかどうかだ」


 俺の呟きを聞いたプロトが問い掛けてくる。これが人間であれば冗談の一つで済ませられるが、相手は自我があるとはいえゴーレムだ。俺がやれと言えば言葉通りにプロトはやり遂げてしまうだろう。だが、そうなっては俺が国を潰した悪者として歴史に名が刻まれてしまう。ただでさえ、英雄として祭り上げられており、何かしらの歴史書に名が残る可能性があるのに、悪行で名が残るなどまっぴらごめんである。


 しかしながら、結界だけでは国を反省させる戒めの鎖として弱く、かといって国自体を潰すには度が過ぎた行為であり、それでは新たな国ができたところで同じことを繰り返す可能性も高い。であればどうするのか。


「やはり、交渉しかないか」


 そう結論付けた俺は、ゴーレムが解体した物資をストレージに仕舞い込みゴーレムも回収する。そして、モンスターに襲われないよう時間経過で解除される結界を兵士たちを守るようにして発動させ、そのままある場所へと向かった。

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