ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
447話「支配国と被支配国の結末」
~ Side アルカディア皇国 ~
「というのが、事の顛末にございます」
「……で、あるか」
ローランドがアルカディア皇国の国境線に沿って結界を張ってから数日後、コレットはすぐさま皇都アヴァロンへと取って返し、アルカディア国境で起きたことを皇帝ダルバスへと報告した。
「コレットよ。その少年は、こう申したのだな? 結界を張った理由は、我々の行いに対する罰であると」
「その通りにございます」
ダルバスの問いに膝を折ってコレットは答える。それを聞いた彼は、玉座に座したまま目を閉じ何事かを考えている。一方でそれを聞いたガレッゾ宰相は、苦々しい顔をしながらコレットの報告に感想を零す。
「それにしても、まさか国全体を結界で覆ってしまうほどの術者がこの世に存在していようとはな……。さすがに、予想だにしなかった事態だ」
「奴の話が本当であるならば、結界が解けるまでの期間は五百年、アルカディア皇国に属する人間は結界の外から内へは入れるが、内から外へは入れないとのことです」
「ふっ、籠の中の鳥とはまさにこのことよの。その結界、お主でも破れないほどのものであったか」
「残念ながら、私ではどうにもなりませんでした。それよりも、重大なのは奴の実力です。私の剣技が全く通用せず、手も足も出ませんでした。結界よりも寧ろ奴自身の戦闘能力の方が脅威かと」
アルカディア皇国に突如として出現した結界により、支配下に置いた所領と分断される形となってしまい、今後の動きを懸念する宰相に対し、ローランド自身の実力を脅威と見るコレット。武官である彼女と文官でありガレッゾでは、同じ出来事でも物の見方が異なり、まったく別の解釈となってしまう。
様々な可能性を考えた結果、ガレッゾは今後他領の連中がアルカディアに対し反旗を翻し、以前のような状態へ戻ると考えていた。アルカディアの脅威が取り除かれた今、他国の人間たちが結界から出てこれない国の人間に従う道理はなく、寧ろアルカディアに対し他国が連携を組んで報復のため攻め込んでくる可能性すらあったのだ。
その一方で、コレットが考えていたのは、実際に彼女が対峙した結界を張ったと主張する人物ローランドである。実際に戦ってみた彼女から見て、彼との実力差は歴然であり、かの者が侵略目的でアルカディアに攻めてくればひとたまりもないことを痛感していた。
戦闘において数の暴力というのは脅威であるが、たった一人で数千数万の軍勢を相手取ることができる一騎当千の強者もまた、魔法という概念が存在するこの世界においては脅威なのだ。
ましてや、国一つを結界で覆い尽くしてしまうほどの力を保持し、尚且つアルカディア皇国でも最強と言われている自身を打ち負かすほどの実力者ならば、アルカディアが保有するすべての軍隊をぶつけたところで、被害を拡大させるだけでかの者に傷を付けることは困難だとコレットは結論付けた。
そして、ガレッゾとコレットの両者の見解が一致しているところがあり、これはかの者が出した警告ではないのかということである。つまりは“これ以上余計なことはせず大人しくしておけ”という無言のメッセージであり、かの者からアルカディアに対する最後通告のようなものであると肌で感じ取っていた。
「あいわかった。これより結界が張られているアルカディア国境付近に要塞を建設し、報復に出てくる他国の抑えとする。結界については後日調査団を派遣し、その実態を調査することにする。今は、守りを固めるのが最善である」
「「御意」」
今まで黙っていた皇帝が、コレットの報告から現状を精査し、今後の方針が決まったらしく、二人にそう宣言する。客観的に見てダルバスの判断は確かに最善であり、情報量の少ない現状で行える効率的な対応策とも捉えられる。だが、その実結界を張った人間についての調査や、今後件の人物が自国に対して武力行使に出た際の具体案を言及していない。しかし、ダルバスの中で結界を張った人物がアルカディアに対し、侵略行為を行う可能性は低いと結論付けていた。その一番の理由が、結界を張るという行為そのものだ。
アルカディアでも一、二を争うほどの武芸者であるコレットを生かして帰したことも理由として挙げられれるが、件の人物が何故結界という回りくどい罰を与えたのか。本当に罰を与えるのであれば、自らの手で武力行使を行い、アルカディア皇国そのものを地図上から消し去ることもできたはずだ。それをしなかったということは、件の人物がアルカディアを滅ぼす意思がないということの表れであり、本当にただ五百年という間軍事的な介入を含めた他国との交流を絶たせる目的で結界を張ったということになる。
そんな方法を取る以上、件の人物がアルカディアに対してそれ以上の制裁措置を行う可能性は低いと結論付けたダルバスは、不明瞭となっている結界についての情報収集と、この機に乗じて他国からの報復行為による軍事侵攻に備えるべく、結界を調査するための調査団の派遣と、国境付近に新たに他国からの侵攻を迎え撃つための要塞の建設を指示したのだ。
皇帝の出した指示に反論はなく、二人ともそれに従う。こうして、大陸を統一するに至ったアルカディア皇国であったが、実際皇国がべラム大陸を支配していた期間は半年にも満たなかったとのちの歴史書では語られている。その歴史の裏では一人の少年が張った結界が関係していたのだが、その事実は歴代の皇帝にのみ密かに伝えられていくことになる……。
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~ Side ルドルフ ~
「今こそ好機。このままアルカディアに討って出るべきだ!」
ローランドがアルカディアを結界で封じ込めてから数十日後、各国の執政官がラガンドール区を治めるルドルフのもとへと集まった。議題は今までべラム大陸を支配していたアルカディア皇国が正体不明の結界に覆われており、皇国の支配が消えてしまったことについてだ。
ローランドと直接対峙したルドルフは、彼からもたらされた情報を各区の執政官に伝えており、その情報が回り切ってしばらくして件のアルカディアでの結界騒ぎが明るみとなった。
そのことについて公式の場を設け、今後のアルカディアの対応についてどうすべきかというところで一人の執政官が声を上げる。今まで辛酸を舐められ続けている国としては、報復行為に出るのは当然の権利であり、かの執政官の言うことも頷ける。
「ダメだ」
「何故だルドルフ!? 貴様の国とてアルカディアに思うところはあるだろう?」
アルカディアに対して報復の侵攻を行うことを提案する執政官に対し、真っ先に否定したのはルドルフだった。どうして彼が頑なに報復行為を却下するのか。理由は彼の口からすぐに判明する。
「アルカディアの惨状があの男の手によってもたらされたものであるならば、これは我々に対するメッセージとも取れる」
「メッセージだと?」
「“アルカディアには罰を与えた。よって、これ以上の介入は必要ない”と俺にはそう言われている気がしてならないのだ」
「それは貴様の個人的な見解だろう」
ルドルフに食って掛かる執政官の意見ももっともであり、彼が対峙した男から直接聞いたわけではない。だが、対峙したことがあるからこそルドルフは彼がそう言っているように思えてならないのだ。
「俺は攻めるぞ! アルカディアの連中に直接罰を与えねば気が済まない!!」
「貴殿の言うことも理解できる。だが、もし俺の言っていることが正しかった場合、アルカディアの二の舞になる可能性だってある」
「っ……」
ルドルフの言葉に、執政官は途端に黙り込む。彼の言っていることは確かに個人的な見解が多分に含んでおり、件の男に確認したわけではない。だが、それでも絶対にそうではないという確証がない以上、仮にルドルフの言っていたことが正しかった場合、アルカディア同様行動を起こした国も同じ末路を辿る可能性もあるのだ。
ルドルフの話を聞いて、他の執政官たちも思うところがあったようで、押し黙ってしまい、その場に重苦しい空気が流れ込む。そして、その空気を打ち破るかのようにルドルフが発言する。
「とにかく、今は詳細な情報がない。実際に行動を起こすにしろそうでないにしろ、現状の把握が必要になってくるだろう。今はそれに心血を注いだ方が建設的だ」
「確かに、今の我々は知らないことが多すぎる」
「少なくとも、アルカディアの呪縛からは解放された。幸い国境などの境界線は以前と変わっていないから、区画呼びから元の国名に呼び方を戻しても問題ないだろう」
「そうだな」
それから、各国が再び国として組織をまとめ上げていくことを宣言し、その場はお開きとなった。その後、件の男の存在を恐れアルカディアについては手出し無用ということで決着がついた。
こうして、アルカディアの支配から解放された国々は元の状態に戻り、各国が手を取り合って栄華を極めたとのちの歴史書で語られることになるのであった。
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