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ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

446話「ローランドVSコレット」



「シッ」


 コレットが力づくでと宣言した瞬間、十数メートルという距離をあっという間に詰められ、剣の切っ先が俺の首元に付きつけられていた。その圧倒的な膂力は常人では見切ることはできず、一体いつ接近されたのかすら理解できないほど常人離れした動きだった。


 彼女が付きつけている剣は所謂レイピアというもので、刺突に特化した武器であり、斬るというよりも突くということを主体としている戦い方のように見受けられる。


「お前が結界を張ったというのなら、今すぐ結界を解いてもらおうか」

「何度も同じことを言わせるな。一度張ったものをはいそうですかと言って元に戻す馬鹿はいない」

「ならば、少々痛い目を見てもらうとしよう」


 その言葉を皮切りに、コレットから敵意が向けられる。その威圧はかなりのもので、それだけで一般の兵士であれば動くことすらできないだろう。俺は、そんな彼女の動きを観察しつつ、超解析のスキルを使用して彼女のステータスを覗き見た。その結果がこれだ。



【名前】:コレット・フォン・ヴァルヴァザード

【年齢】:21歳

【性別】:女

【種族】:人族

【職業】:アルカディア皇国第二騎士団騎士団長(【氷の騎士】)


体力:520000

魔力:820000

筋力:SC+

耐久力:SC+

素早さ:SC-

器用さ:SD+

精神力:SC+

抵抗力:SC+

幸運:SB-


【スキル】

 闘気術Lv5、格闘術Lv7、並列思考Lv3、威圧Lv4、掃除Lv4、料理Lv3、洗濯Lv7、パラメータ上限突破Lv1、

 精神苦痛耐性Lv6、限界突破Lv5、


【状態】:なし



 ほう、なかなかの強さである。実力的にはSSランクの冒険者や俺が契約している召喚獣たちと同等クラスの強さを持っている。これは、意外な逸材を見つけたかもしれない。


 そして、意外や意外にも掃除や料理などといったスキルを持ち合わせているため、見た目の綺麗さとは裏腹に案外家庭的な女性だということが窺える。


 スキル欄に【精神苦痛耐性】があることから、かなり苦労を強いられてきたらしく、努力家な一面も垣間見える。要は“でも涙が出ちゃう。女の子なんだもん”である。


「シッ」

「おっと、今度は本気で当てに来たか」


 先ほどの刺突は相手を威嚇する目的で放っていたため、寸止めすることがわかっていた。だが、今回は明らかに込められている殺気の量が違ったため、当てに来ていることが理解できた。だが、そんな俺の冷静な判断とは裏腹に、コレットが目を見開いて驚愕の表情を浮かべる。


「今のを躱すだと。どうやら、ただの子供ではないようだな」

「誉め言葉として受け取っておく。それで、まだやる気か?」

「無論だ!」


 そこから、怒涛の攻撃を繰り出すコレット。その一つ一つの攻撃が的確に俺の急所を狙った攻撃だとわかる。だが、そんな強力な攻撃も俺の前では尽く空を切る。


 最初はムキになっていたコレットも、自身の攻撃が意図的に躱されているのを悟ると、驚愕と焦りの色に変わっていく。そして、そんな状況の中、コレットが一つカードを切る。


「ふんっ」

(身体強化か。まあ、今の状態では攻撃が当たらないと踏んでの選択だろうが、それじゃあ俺には届かない)


 身体強化を使ったことで、先ほどとは比べ物にならないほどの膂力で迫るが、それでも俺を捉えることができないでいた。元々、パラメータの桁が一つ違う上、こちらは未だに身体強化などのブーストを使っていない。まだまだ、戦力に余裕を残しているのだ。


「何故だ! 何故当たらない!?」

「簡単なことだ。俺よりもお前の方が弱い。ただの純粋な実力差による結果だ」

「そんなはずははい! ……こうなったら仕方がない。全力で行かせてもらおう。【限界突破】!!」


 俺の言葉を信じることができないコレットが、ついに全力を出した。【限界突破】のスキルによってすべてのパラメータがSS+へと強化される。常人ではもはや捉えきれない動きから繰り出される乱れ突きは、一つ一つが必殺の攻撃であるものの、それでも俺の身体を貫くことは叶わない。


「奥義! 【刺突乱舞】!!」

(奥義? なんか中二病っぽい技だな)


 などと考えていると、先ほどよりも数段上のスピードで刺突が飛んでくる。奥義と呼ぶだけあってその技の練度は洗練されており、目にも止まらぬ速さの刺突が的確に俺の身体を狙って飛んでくる。だが、結局のところただ刺突を連続で繰り出しているだけの攻撃であり、どうしたって刺突と刺突の間に隙が生じてしまう。


 常人では見切れないほどの間隔で飛んでくる刺突でも、俺であればまるでスローモーションのように一撃が鈍く、コレットの攻撃の方向を見てから避けることができるほどに余裕があった。


「はあ、はあ……な、何故」


 あれだけの攻撃をしながら、何故自分の攻撃がただの一撃も当たらないのかということに驚いているコレットだったが、すでに彼女には言ったはずだ。だが、理解できていないようなので、俺は敢えてもう一度だけ口にしてやった。


「同じことを何度も言わせるな。俺よりもお前の方が弱い。お前の攻撃が当たらないのは、ただの純粋な実力差による結果だ」

「そんなはずははい!! 私よりも強い人間がいるなどあってなるものか!!」


 コレットにとって受け入れがたい事実なのか、俺の言葉に激しい反応を見せる。今まで実力で生きてきた彼女にとって、実力差で負けるという経験が少なかったのか、彼女の中ではありえないことであると思っているようだ。


 だがしかし、現実は時に厳しいものであるからして、コレットの攻撃が当たらないのは、彼女よりも俺の方が基本的なパラメータが上であるというただただ純粋な能力差が結果として出ているだけなのだ。


「はあああああああああああ」

「ほいっ」

「ぐはっ」


 いつまでも彼女と鬼ごっこをしているつもりは毛頭ないため、コレットが刺突を繰り出したタイミングで、レイピアの刀身の付け根部分を掴みながらそのまま彼女の懐に入り込み、がら空きの腹に加減した拳を突き立てた。


 加減したといっても、コレットの勢いを刈り取るには十二分だったらしく、彼女の体躯が区の字に折れ曲がる。そして、そのまま糸の切れた人形のようにその場に力なく倒れ込んだ。


 しばらく、地面に倒れ込んだコレットを見下ろしていたが、それもすぐに飽きたため、彼女が使っていたレイピアを片手で拾い上げ、もう片方の手で彼女自身を引き摺りながら結界の方へと向かって行く。


 そのまま結界を通って行くと、武器を構えた騎士たちがこちらに敵意を向けており、今にもこちらに襲い掛かってくる勢いだった。


「貴様! 団長を放せ!!」

「言われなくともそうするつもりだ。ほら、受け取れ」

「ぐっ、う、うぅ……」


 俺はこちらに向かって叫ぶ騎士目掛けコレットと彼女が使っていたレイピアをそのままボロ雑巾のように投げてやる。すると、すぐにレイピアを手に取り、健気にもレイピアを杖代わりにしながら立ち上がった。騎士たちが呼びかける声も聞こえていないといった様子で、俺を睨みつけてくる。


「き、貴様は一体なにものなのだ……?」

「そんなことよりも、いくつか話しておくことがある。まず、この結界についてだが……」


 俺は、この結界を張った時の結界の解除方法と結界を張った理由を伝えてやった。アルカディア皇国に属する人間が内から外に出られないことや、結界が消えるまで五百年の時が掛かることなど必要な情報を丁寧に教えてやると、それを聞いたコレットが叫び出す。


「ふざけるな!! 何の権利があってこんなことをする!!」

「お前たちは、少々やり過ぎた。だからこそ、お前たちには罰を与えなければならないと判断したまでだ」

「貴様は、一体何者なんだ!?」


 コレットの問いに俺は答えるかどうか少々迷ったが、彼女とはもうこの先会うこともないだろうと思い、名前を教えてやった。


「俺はローランド。ただの冒険者だ」

「冒険者だと」

「とにかく、これで俺の用は済んだ。これで失礼させてもらう」

「ま、待て!」


 コレットの叫びを受けて弓を構えていた人間から十数本の矢が撃ち込まれるが、すぐに俺が発動させた魔法による結界によって矢が叩き落とされる。それを見て、近接系の武器を持つ者が突進してくるも、その時にはすでに結界の外に出ており、誰一人として俺に攻撃を当てることはできなかった。


「アルカディア皇国第二騎士団騎士団長コレットよ。今回のこと、しっかりと皇帝に伝えろ。そして、他国に侵略したこと、その長き時をもって後悔するがいい」


 言いたいことを言い終えた俺は、未だにこちらに向かって叫んでいるコレットを無視して、飛行魔法でその場を後にした。


 こうして、無事アルカディア皇国本土を結界で覆うことができた俺は、本来の目的を果たしたため、一度アロス大陸へと戻ることにしたのであった。

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