ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
445話「結界発動」
~ Side コレット ~
時はローランドがアルカディア皇国本土を目指して数日後、国境付近を越境しようとする集団がいた。
「コレット騎士団長。ザイマール区に隣接する区画線が見えてきました」
「わかった。準備が整い次第これよりザイマールへと入る」
部下である騎士の報告に凛とした声で答える女性がいる。アルカディア皇国第二騎士団団長のコレットという人物である。
年の頃は二十代前半の赤い艶のある長髪にすべてを見透かしたような瑠璃色の鋭い眼光を持ち、雰囲気は覇気を纏っているかのような威圧感を周囲にまき散らしている。かと思えば、その整った美貌と世にいるすべての男を虜にするのではないかという豊満な体つきは、彼女の普段の戦いぶりからは想像もつかないほどにかけ離れていた。
その冷徹なまでの見た目や言動と、人並外れた美しさを持つことから人々は彼女を【氷の騎士】と呼び恐れられている。
仮に彼女の性別が男であった場合、まず間違いなく第一騎士団の団長になっていたと言われているほどの実力を持っており、その力はSSランクのモンスターと互角以上に渡り合えるほどだと噂されている。
そう言われているのには理由があり、彼女がまだ騎士団の団長になる以前、SSランクのモンスターと戦ってこれを撃退しているのだ。出会った時点で生きることを諦めろと言われているほどに強大な存在であるはずのSSランクモンスターとまともに戦えるというだけで、彼女の才覚がどれほどのものであるかは想像に難くない。
そんな彼女が現在アルカディア皇国中央区から隣接するザイマール区へと移動をしようとしていた。目的は、反乱分子として今も抵抗を続けている組織を鎮圧することだ。
アルカディア皇国が大陸統一を果たしてからというもの、コレットはこれといった活躍を見せておらず、戦場でのみ結果を残してきた彼女にとってそれ以外の何かで国に貢献する選択肢を持たなかったのだ。
最近では、その美貌に心を奪われた男たちから縁談の話が舞い込んでいるものの、自分よりも実力で劣る男の子供を産みたいという気にもなれず、他国に戦争を行っていた頃と比べてコレットは肩身の狭い思いをしていた。
そんな中、皇帝直々に反乱分子の鎮圧という勅命に彼女はこれ幸いとばかりに飛びついた。すでに敗戦国と成り下がった国々に彼女の脅威となり得る存在など皆無であったが、それでも面倒な貴族のしがらみや群がって来る男どもから逃げられるとあれば、戦争の事後処理ともいうべき鎮圧戦でも、喜んで現地に赴くということを今のコレット選択した。
騎士たちの準備が整い、いざザイマール区へと入ろうとしたその時、突如として周囲の様子が一変する。突然の出来事に戸惑う騎士たちだったが、コレットだけは冷静に状況を分析していた。
(あの薄い膜のようなもの……まさか、結界か。っ!? いかん、このままでは閉じ込められる)
戦場で常に戦ってきた彼女の勘が目の前で出現するものを見て即座に結界であることを看破する。そして、その結界にひとたび覆われてしまったらそこから出ることも叶わないということも瞬時に理解する。
「はあっ」
「だ、団長!」
すぐさま乗っていた馬を走らせる。部下が何か言っているが、今はそんな状況ではないため、コレットはそのまま結界へと突っ込む。そうこうしている間にも、結界がかつて他国との国境だった場所に沿うようにして張り巡らされていく様子に、彼女にも焦りの色が浮かぶ。
「ふっ」
そんな中、全力疾走で走る馬の上に立ち、走る馬を踏み台にしてコレットは大きく跳躍した。圧倒的な身体能力により、膜状になっている結界の壁を蹴って跳躍し、完全に結界が国境を覆い尽くす前に外へと飛び出してきた。
(危なかった。もう少しで閉じ込められるとこだったな)
咄嗟に飛び出したことだとはいえ、自分の勘に従って動いた結果、その判断は正しかったようで、すべての国境に沿って結界が覆い尽くした。結界に近寄って扉をノックするように叩いてみると、それはまるで鉄のように硬くなっており、とてもではないが破壊できるような代物ではないことが伝わってくる。
すぐにコレットは結界の破壊を諦め、結界を張ったであろう人物を探し出そうと振り返ると、そこにいたのは意外な顔をした少年が立っていた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「地図が正しければ、この辺りになるはずだが」
ラガンドール区ゲッシュトルテを出立して約二日後、執政官の部屋で見せてもらった地図に従い、俺はアルカディア皇国の本土があるとされる中央区の境界線までやってきた。元は国境線ということもあってか、ここまでやってくる際に関所のような城塞がいくつか確認できた。
とりあえず、いろいろと寄り道をしてしまったが、べラム大陸へとやってきた目的……俺のモンスター農園を攻撃した愚か者に罰を与えるという報復行為を行うべく、さっそく行動に移る。
その方法とは単純で、アルカディア皇国の領地と他国の領地の境界線に沿って結界を張るだけという簡単な作業であり、特に難しい工程は一切ない。かつて同じ方法でセコンド王国とセラフ聖国を閉じ込めた身としては、すでに三回目ということもあり、スムーズに準備を進めていく。
今回の結界の条件としては【アルカディア皇国に属する人間】と【内側から外側に出られない】という条件を付け、結界内に一度入ったアルカディアの人々を外に出さないという名目で結界を張ることにする。期間は前回と同様五百年で、国境周辺に結界を維持させるための魔石をいくつか設置することで、自動的に結界を維持させるという仕様にした。
「うし、じゃあさっそく結界起動!」
準備が整ったので、すぐに結界を発動させる。すぐさま薄い膜状のようなものが現れ、それが次第に国境に沿ってアルカディア皇国全土を覆い尽くしていく。そんな様子をボーっと眺めていると、結界が完全に覆い尽くしてしまう直前で小さな隙間から何かが飛び出してきた。
よく見ると、それは人間だったらしく、鎧に身を包んだ騎士のようだった。顔と体つきからして女性らしく、端正な顔立ちだが、どことなく性格が強気なイメージを抱いてしまう女騎士だ。
こちらに気付くことなく、たった今皇国を完全に覆った結界を叩いて確認している。そして、不意に彼女が振り向き、こちらと目が合った。俺がきょとんとした顔をしながら彼女の動向を窺っていると、姿勢を正した彼女がづかづかとこちらに向かってきて開口一番こんなことを聞いてきた。
「まさかとは思うが、この結界を張ったのは貴様か?」
「そうだと言ったら?」
「元に戻してもらおうか」
「一度張ったものを、はいそうですかと元に戻す馬鹿はいない」
「ならば、力づくで解除させるまでだ!」
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