ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
443話「あなたのお宅へお邪魔します……」
「ありがとうございました!」
商業ギルドへ向かった俺は、薬草採集の時に狩ったモンスターの素材を売り払う。その時少し気になったのは、買取り担当の一般職員が対応してくれるはずだったのを、俺がやって来たと知ったミョンベルとファゴットが職員の仕事を奪って対応したことくらいだ。
個人的には買取りをしてくれるのであれば、末端の職員だろうと幹部クラスの職員だろうとどちらでも構わないのだが、組織的には部下の仕事を奪った形になり、本来彼らがするべき仕事が滞るのではないかと思った。
取引内容については、モンスターの素材買取りだったが、前回提供した品物を依頼主に出したところいたく気に入ったということで追加の買い取りができないかという打診があったため、それも提供しておいた。
そんなわけで商業ギルドでのあれこれを終わらせ、昼食を挟みつつ頃合いのいい時間帯まで街をぶらついたのち夕方になる時刻に冒険者ギルドを訪れる。
「依頼の報告に来た」
「わかりました。では、ギルドカードをお願いします」
職員の指示に従いギルドカードを提示後、今日採ってきた薬草を提出し依頼達成を報告する。薬草の数は端数などの余分な数はなく、依頼内容に記載されていた必要数のみだ。
特に怪しまれることもなく、依頼達成の手続きはつつながく完了し、微々たる報酬を受け取って冒険者ギルドでの用事も終了したので、宿へと帰還することにした。
そこからは特にやることもなかったが、最近鍛錬を怠っているということもあって、夕食の時間の小一時間ほど魔力の鍛錬を念入りに行い、夕食後は就寝の支度をしてすぐに床に就いた。
さらに翌日も翌々日も似たようなルーティーンで活動を続けていたのだが、特筆すべきイベントは何も起こらなかった。
さらにその翌日、このまま薬草とモンスターの素材を商業ギルドに卸すだけの生活を続けるというのもアレなため、ここからは真面目に潜入活動のための情報収集を行うことにする。
さすがにアルカディア皇国の中心部に隣接する場所だけあって、いろいろと濃い情報が流れてくる。現在アルカディアは目立った行動を取ることはなく、鳴りを潜めているようだが、元々は好戦的な気質を持っている国であるため、庶民の間では足元を固めるための準備を整えているのではないかと噂が飛び交っていた。
大陸を統一したとはいえ、現在支配圏にあった国々の上層部や組織自体の枠組みは今も残っているため、未だにアルカディアに抵抗を試みる反乱分子は一定数存在している。皇国としては、そんな連中をのさばらせておくほど余裕がないため、規模は小さいが鎮圧のために今後派兵を行う予定らしい。
しかも伝え聞く話では、その軍自体は貴族の私兵ではなく国直属の国営軍が主体となって動く予定で、特に第二騎士団団長のコレットという人物が中心となるらしい。
「コレット?」
「ああ、アルカディアの騎士団の中でも少ない女性騎士で、大陸中に名を轟かせる有名な人物だな。その見目の美しさと、ひとたび戦場に赴けば生還者はいないとされる戦いぶりから【氷の騎士】と恐れられている」
「氷の騎士ねぇ。氷の魔法を使うとかか?」
「いや、そんな話は聞かないが、どちらにせよ恐ろしい騎士様だよ」
そう締め括った露店の店員の顔には、明らかな恐怖が浮かんでいた。それだけ、そのコレットとかいう人間の悪行が響いているのだろう。元々、調査した場所がアルカディア皇国の所領ではなく他国だった地域だからというのも理由だろうが。
(これは、少し急いで中央区に移動した方がいいかな)
何度も言うが、俺は現在アルカディア皇国に潜入している身である。そう、こう見えても潜入しているのだ。そして、その潜入での俺の目的は、セコンド王国やセラフ聖国のように反省を促すことであり、かの二国にやったことをこのアルカディア皇国でもやるつもりなのだ。それがなにかといえば、籠の鳥である。
大規模な結界を国境に張り巡らせることで、その中に閉じ込めてしまおうという魂胆であり、今回もそれを行うつもりだ。だが、さすがの俺も大陸一つをすべて覆い尽くしてしまうような超結界を張ることはできないため、元々アルカディア皇国だった土地のみを結界で覆うべく、こうしてわざわざべラム大陸までやってきたのだ。
「であれば、今夜あたり出掛けるとしよう」
誰にともなく呟いた俺は、情報収集を切り上げ、来たる夜に向けて準備を進めた。
そんなわけで、外が闇夜に包まれ人々が寝静まった頃、俺は行動を開始する。
宿の人間にも気付かれないよう瞬間移動を使って外へと脱出すると、俺は気配を殺しつつとある建物へと向かって行く。その建物とは、王城である。
正確には元王城ということで、国王が住んでいた場所なのだが、今は執政官という形で国のあれこれを仕切っていると聞いている。俺はある目的のため、その執政官に接触することにしたのだ。
人気のない真夜中ということもあって、日中は人通りのある場所も静けさに包まれている。そんな中を一人歩きながら都市の中心部に位置する王城へと辿り着く。
「見張りか。であれば……【スリープ】」
入り口には見張りの兵士が二人立っており、明らかに眠気を堪えている様子が窺える。俺は、二人に向かって睡眠を誘発するように魔法を使用し、しばらくすると舟をこぎ始め、最終的にその場に座り込んで眠ってしまった。
眠り込んだ兵士を尻目に、簡単に王城へと侵入に成功する。ちなみに、兵士たちは一分ほど経てば起きるようにしてあるから、他の人間が侵入することもないだろう。
巨人族でも余裕で歩くことができそうな大きな回廊を進み、気配を探りつつ歩を進める。道中見張りの兵士が立っている場所がいくつかあり、おそらくは元王族たちが休んでいるのだろうと当たりを付ける。
「あそこっぽいな」
その中でも一際大きく、一際豪華な扉の部屋に辿り着いた。おそらくはそこに執政官が休んでいるのだろうと予想し、王城の入り口で使った手口で同じように部屋の中に侵入する。
部屋の中は、どうやら執務室となっており、部屋の奥には隣の部屋へと続くであろう扉が存在している。扉の奥に気配があり、おそらくはそこで誰かが眠っているようだ。
俺としては、目的を達成できれば執政官と接触する必要もないため、俺はさっそく部屋を家探しする。音が外に漏れないよう遮音の結界を張り、できる限り迅速に目的のものを探していく。
「……ないな」
探すこと数分、机の中やら壁際にあった棚にある書類なども見ていくが、そこに目当ての物はない。俺が今回王城に侵入したのは、アルカディア皇国が大陸統一を果たす前に敷かれていた国境線がどうなっているのかがわかる地図であり、それを見るためにやってきたのだ。
アルカディア皇国のみを結界で覆うためには、ある程度国境線に沿った形で行いたい。そのため、かつてアルカディア皇国以外の国々が国として機能していた頃の地図が見たかったのである。
正式な手順を踏んだところで、地図どころか執政官に会うことすらかなりの時間を要してしまう。それならば、秘密裏に潜入して誰にも気づかれずに執政官と接触し、地図を見せてもらえばいいと考えた。
もっと言うのなら、執政官にすら会うことなく地図のみを閲覧できればよかったのだが、さすがに国の重要機密らしく表立った所には置かれていなかった。
「そこにいるのは誰だ」
(まずい、気付かれたようだな)
そうこうしているうちに違和感に気付いたのか、隣の部屋で寝ていた人物が起きてきた。暗がりで顔は良く見えないが、四十代くらいの中年男性らしく鋭い目つきで部屋を見回している。
(仕方がない。予定通り執政官と接触するか。【ブラインド】、【ボイスチェンジ】)
「むっ、め、目が」
「初めまして。国王……いや、執政官殿」
こうして、執政官とのやり取りが始まった。
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