ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
437話「商業ギルドの相談事」
「初めまして、ボクがここのギルドマスターのミョンベルだ」
「……」
そう言って横柄な態度で自己紹介してくるのは、ウサ耳を持った獣人族の少女だった。灰色の長髪に碧眼を持った若い獣人の娘で、背も低く俺よりも十センチ程度高い百六十センチにも満たない小柄な体型をしている。その関係で胸部装甲も絶壁というわけではないが、慎ましやかな膨らみしかなく、スレンダーという言葉が頭に浮かんできた。
あれからファゴットの案内で商業ギルドの応接室へと通された俺は、しばらくそこで待っていた。そして、ノックもなしにいきなり扉が勢いよく開いたと思ったら、先ほどの少女が量の拳を腰に当てながら宣言するように言ってきたのだ。俺を応接室に案内したファゴットが、その後ろから申し訳なさそうな顔で入ってくる。
内心で呆気に取られている俺を置き去りに、ミョンベルと名乗った少女はさらに言葉を重ねていく。
「君が例のギルドカード持ちのローランド君か。なかなかどうして、美少年ではないか。これは五年後が楽しみ――ふぎゃっ」
「そろそろ黙りましょうかギルドマスター? ローランド様が困惑しているじゃありませんか」
「……」
さらにトンデモ発言を続けようとするミョンベルの頭に拳骨を落としたのは、俺を商業ギルドまで案内してくれたファゴットだった。その一連のやり取りを見ただけで普段の二人の関係性を理解してしまい、ファゴットが苦労人であることが窺い知れる。
一方のミョンベルといえば、いきなり拳骨を脳天に落とされたことを抗議しようとファゴットを睨みつけるも、拳を顔の辺りまで掲げながら「何か文句でもおありなのですか?」と微笑むファゴットに言い知れぬ恐怖を感じ取ったようで、「なんでもないです」と言って引き下がった。おいおい、立場が弱いぞギルドマスター。
「こほん、ローランド様申し訳ございません。普段はこうですが、話はできると思いますので、ここは一つ目を瞑っていただければ幸いです」
「むぅ、その言い方はさすがにひどすぎないか? ボクだってやる時はやるんだぞ!」
「であれば、常にそういった言動を心掛けていただきたいものですね? 商業ギルドを纏めるギルドマスターとして」
「そんなことよりも、ローランド君。君に相談したいことがあるんだ」
ファゴットの追及をごまかすかのように、ミョンベルが俺に話を振ってきた。ファゴットの「話を逸らす才能をもっと他の才能に費やしていただきたいものですね」という小言を黙殺してミョンベルが語り始めた。
「実は、あるお方から商業ギルドに対して依頼があった。その方は、ラガンドール区執政官の娘の一人であるだが、その依頼がかなり厳しいものなんだ」
「どういった依頼だ?」
「“なにか面白い商品はないか?”という依頼なんだが、元大公の姫君の眼鏡に適う面白い品がそうそうあるわけもなく、困っているのだよ。そこで、ローランド君。あの堅物ファゴットが推す君であれば、何か姫をあっと言わせるような珍しい品を持っているのではと考えたんだ」
「誰が堅物ですか? あなたがお気楽な思考過ぎるだけです。この間の商談も結局はなあなあでお流れになったじゃありませんか。どうやら、反省の色がないと見える。これは後で説教が必要なようですね?」
「と、とにかくそういうわけだから、何か珍しい品やこれといったものを持っていないだろうか? もちろん、その分買取りには上乗せさせてもらうと約束する」
ファゴットの圧を巧みに躱しながら、ミョンベルが俺に頼み込んでくる。だが、ここで気になったことがあったので、彼女の依頼を聞く前に聞いてみた。
「なぜ、俺ならそういったものを持っていると思ったんだ? 俺とあんたらは初めて会うはずだが」
「ファゴットが言ってなかったかな? 商業ギルドのギルドカードには、ギルド職員しか読み取れない特別な目印があってね。当然、君のカードにも印が入っている」
ミョンベルの言葉に、俺はしまっていたギルドカードを取り出して細部を観察してみる。表部分は名前とギルド員の格を表すギルドランクが表示されている。商業ギルドのギルドランクは冒険者ギルドのランクとは異なり、ランクによって営業可能な業務形態が異なる。
例えば、商業ギルドのランクは下はEランクから上はAランクの五段階評価となっているのだが、一番下のEランクで可能なのは、商業ギルドが管理する営業スペースでの商いのみとなっており、その取り扱える量にも制限が設けられている。
グレッグ商会を立ち上げた当時もこの制限があったが、瞬く間に店が繁盛し始めたため、早い段階でランク昇級を果たしていたのだ。ちなみに、ランク毎に以下のような制限が設けられている。
Eランク:街の中にある営業スペースのみ許可(販売数量に制限あり)
Dランク:行商と営業スペースの許可(販売数量に制限あり)
Cランク:小規模の店舗営業の許可(販売数量に制限あり)
Bランク:中規模の店舗営業の許可(制限なし)
Aランク:あらゆる営業形態での商いが可能
グレッグ商会の立ち上げに際し、商業ギルドに土地の斡旋をお願いしたことでギルドランクが一気に上昇し、土地の取引が完了した時点でCランクになり、店が繁盛してすぐにBランクにまで到達してしまった。
そして、いつの間にやらAランクになっており、商業ギルドにとってかなりの上客となってしまっているらしい。おそらくは、クッキーや唐揚げのレシピを委託販売に回したことで貢献度が上がったと見える。
「このごにょごにょとした記号がそれか?」
「そうだね。詳しくは言えないが、その印で我々はその商人がどういった人間かということをある程度把握していることになる。ギルドの貢献度や逆にギルドに不利益を与えた者など、良い要素も悪い要素もそのすべてがその印に集約されている」
ミョンベルの説明に俺は納得する。これならば、初めて訪れた人間でも、ギルドに所属している人間であれば、今までどういったことをやってきたのかを読み取ることができる。これならば、その目印を基準として取引を進めることができるだろうし、事前情報で相手が厄介な相手かどうかも察知することもできるということだ。
「それでどうだろう? 何かこの辺りにはなさそうな珍しい品物はないかい?」
「何でもいいのか?」
「構わない。重要なのはここらであまりお目に掛かれない珍しいものということだからね」
「なるほど」
そう締め括った彼女の言葉を聞き、俺は考えを巡らす。重要なことは、今回の取引で関わっているのが元王族であるという点だ。バルルツァーレの一件についても、厄介事に首を突っ込んだ結果、予定よりも早い段階で次の拠点に移動しなければならない羽目になった。命の危険がある以上、そういったトラブルについては人命が何よりも優先されるため、後にやってくる面倒事の処理が大変なのは仕方のないことだ。
それでも、後々面倒なことになるのならば見て見ぬ振りをするべきでない。助けられる能力があるのに助けないという選択を取るのは、力ある者としての怠慢であると俺は考えている。
だからといって、自ら進んでそういったことに首を突っ込むのもいかがなものかという考えもある。そのため、詰まるところ先のバルルツァーレの事件のように、姿を見られずに助けるという些かヒーローらしくない方法で助けざるを得ないのだ。
一方で、今回の場合はどうだろうか。別に相手が命の危機に瀕しているわけでもなく、早急に解決しなければならない問題というわけでもない。つまりは、ただ暇を持て余している元姫が道楽で暇つぶしができることを追い求めているに過ぎない。
このまま上位層の人間と関わりを持つことは、面倒事を押し付けられるというリスクがある。それを回避することは重要なことであり、スローライフを信条にしている俺にとっては特に注意せねばならないことだ。
しかし、これは同時にチャンスでもある。上位層であれば金払いも良く、上手く立ち回れば、目立たずに金銭を獲得できることもまた事実である。実力を隠したまま単価の安い薬草をちまちまと納品するのも悪くはないが、人間目の前に儲け話が転がっていれば、その話に飛びついてしまうのは仕方のないことだと思う。所謂自然の摂理である。
「珍しい品物に当てはまるかどうかはわからないが、ここらでは売っていないであろう品は持っている。ただし、それを売るにはいくつかの条件を守ってもらう事になるが、構わないか?」
「その条件とは?」
「まず――」
後の面倒事を回避するための策として、俺はミョンベルたちにいくつかのとある条件を提示していく。その奇妙な条件に、眉を寄せて怪訝な表情を浮かべる二人だったが、特に理不尽な条件ではないため、二人とも快く条件を呑んだ。
そして、俺はいくつかの品を売り払い、先の条件を含んだ売買契約を結んだ。すぐに作成された契約書にサインをし、契約書の控えも念のため作ってもらい、品を売った金を受け取って俺は商業ギルドを後にした。
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