ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
433話「王女の推理力」
~ Side ミリス ~
ローランドがヴァイオレットオーガから救い出した二人を旧王都近くの街道に置き去りにしてしばらくのこと、彼が自身の正体を知られたくないという理由で掛けた【ブラインド】の魔法が解け、二人が視界を取り戻した。
「こ、ここは」
急に視界が戻ったため、その太陽光で目がしばしばとしているミリスだったが、すぐに仕える主のことを思い出し、近くにいた王女に声を掛ける。
「姫、ご無事ですか!?」
「え、ええ。問題ありません。ここはどこですか?」
「おそらくはバルルツァーレ近郊の街道ではないかと。あそこにバルルツァーレの城壁が見えているので、間違いありません」
見慣れた都市の城壁が目に入ったことで、ローランドの言っていたことが真実であったことを二人は確信する。だが、そうなってくると少々困ったことが出てきた。それは、ここまでのことをされておきながら王族として何もせずにいることである。
「こうしてはおりません。急ぎ私たちをお救いくださったあの方を見つけねば」
「しかし、我らはその恩人殿の姿は見ておりません」
「わかっております。おそらくは、私たちを救った後のことを考えて正体を知られないようにしたものでしょう。ですが、だからといってこのまま黙って恩だけを受け取るなど許されません。姿は見えませんでしたが、幸い私は耳が良い。声の質から考えて十二、三歳の少年であると私は見ています」
「さすがは姫。ではさっそくバルルツァーレ内の該当する人物を招集して――」
「いいえ、あまり公に動けば、かの人物は行方がわからないまま逃亡するでしょう。周囲にも正体を悟られないよう動いている可能性が高いです」
戦闘という一点において他の王族よりも才がある姫君は、あの短い時間でローランドという人物像を的確に捉えていた。そして、彼の使った嘘の方便である転移の魔道具を所持しているということを考えれば、王族が自分を探しているという話が耳に入れば、そのまま逃亡する可能性は高いと姫は結論付けていた。
だからこそ、彼の捜索には慎重に慎重を重ね動く必要性があるのだが、ここでローランドは致命的なミスを犯していた。それは、声である。
いくら姿が見えなくとも、声変わりしていない少年の高めの声音というものは大体聞けばわかるものだ。ましてや、耳のいい姫にとっては声を聞いただけでその年齢もほとんどぴたりと言い当ててしまう。助けた相手がそんな能力を持っているとはローランドも夢にも思わなかっただろう。彼の解析スキルでもその情報は出なかったため、姿さえ見られなければ問題ないと判断してしまったのだろうが、それだけでは不十分だったようだ。
それに加えて、ローランドが普段から目立った行動を取りたがらないという気質も言い当てられてしまっており、これでかなり候補が絞られてしまっていた。
「ミリス。冒険者ギルドのギルドマスターにこう伝えなさい。“最近腕の立つ成人していない少年に心当たりはないか?”と」
「冒険者ギルドでございますか?」
「ええ、そうよ。あの恐ろしい化け物をもろともしない実力は本物よ。その腕っぷしを利用して生きているのなら、冒険者か傭兵をやっている可能性が高い。でも、傭兵だと実力者の名はすぐに知れ渡ってしまう。だけど冒険者なら自分の実力を隠して活動することも不可能ではないわ。ソロで動いているならなおさらね」
「なるほど、さすがは姫です。そのご慧眼感服いたしました」
主の鋭い推察にミリスは心の底から感嘆する。あの少ない情報の中で、的確に相手の正体を見極め、相手に悟られず外堀を埋める様子に彼女はますます王女に傾倒していく。
「必ずやあの方の尻尾を掴んでみせます。元ディノフィス王国第一王女マレリーナ・フィル・ディノフィスの名とお婆様の名に賭けて!」
どこかで聞いたような言い回しだが、それを指摘できる人間がいないため、ただただ彼女に向かってミリスが頭を垂れる光景があるだけだ。
しばらく沈黙が場を支配したのち、改めてミリスが「バルルツァーレへ帰還いたしましょう」という提案をして、二人は一度王都へ帰還した。ローランドが置いていった王女の護衛の亡骸は後で王女たちの指示を受けた騎士たちによって回収された。
こうして、圧倒的な考察能力を持つマレリーナの手によって、ローランド包囲網が確実に敷かれていくのであった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「おお、マリーよ。戻ったか!! 狩りから戻らぬと家臣から聞かされた時には肝を冷やしたが、無事で何よりだ」
「ただいま戻りました。お父様」
バルルツァーレの王城の一室までやってきたミリスとマレリーナの主従二人は、事の次第をマレリーナの父であるカルヴァンに報告する。
元ディノフィス王国国王カルヴァン・フィル・バイセウス・ディノフィス。アルカディア皇国との戦争に敗北する以前は、文武に秀でた武賢王として名が知れ渡っていた名君であり、名実ともに優れた為政者であった。
その武の才をマレリーナは色濃く受け継いでおり、その才を活かして定期的にモンスターを狩ることで貢献していたのだが、今回の一件で高ランクのモンスターとかち合ってしまい、危うく死ぬところであった。
マレリーナの報告に驚愕のあまり椅子から何度も立ち上がる一幕がありつつも、彼女は事の顛末をカルヴァンに伝えた。もちろん、自分を助けてくれた恩人である少年のことも含めて。
「その少年のお陰で生き延びることができたと」
「はい。でなければ、今私はここにおりませんでした」
「その少年には褒美を与えねばならないが、マレリーナの話では姿を見ておらぬのだろう? 声から少年と断定したのだろうが、それだけではこの都市内で該当する一人に絞り込むことなどできぬぞ」
今は国の政を代行する執政官に甘んじているが、カルヴァンとて元は国一つを治めていた国王だ。マレリーナの報告内容から、彼女がいかにして姿の見えない相手の年齢層を割り出したのかはすぐに思い至った。家族である彼ならば彼女の耳の良さは理解しているだろうし、他の人と比べてその性能が高いということも把握している。
だが、それでも少年という一つの情報だけではたった一人の人物に辿り着くには漠然とし過ぎており、カルヴァンとしてはもう少し情報が欲しいところであった。
「お父様、その点についてはある程度当たりを付けております。私の予想では、その方は冒険者である可能性が高いと思われます」
「その根拠は?」
「まず、私たちが殺されかけた相手をいとも簡単に倒してしまう実力からして、その力で生計を立てているはず。つまり、冒険者か傭兵のどちらかです。ですが、私たちに姿を見られないよう細工をした人物が、力を示せば目立ってしまう傭兵をやるとは思えません」
「なるほど、道理だな」
「一方、冒険者であればソロでの単独活動も可能であり、簡単な依頼であれば実力がなくとも日々の糧を得ることは難しくありません」
「故に、お前は件の少年が冒険者だと判断したわけか」
「このあと、冒険者ギルドに使いを出し、ギルドマスターに問い合わせてみるつもりです」
「その方が良いだろう」
といった具合に自身の推察をカルヴァンに聞かせると、彼も娘が出した結論に同意する。常人が聞けば荒唐無稽も甚だしい考えであり、実力者の世捨て人や通りすがりの旅人などの可能性もあるのだが、何の因果か今回は彼女たちの推察が的を射てしまっている。
さらにローランドにとって不幸なのは、今朝方まで冒険者ギルドに顔を出しており、SSランクの冒険者の嫌疑を掛けられていたために冒険者ギルドと揉め事を起こしたばかりだったということであった。そのため、その噂が彼らのやり取りを見ていた冒険者から他の冒険者へと伝わってしまっていたのだ。
今彼らが件の少年の情報を求めて動けば、まず間違いなく冒険者ギルドでの一件が耳に入って来るだろう。そして、その騒動に関係する少年の存在も……。
かくして、ローランドの知らないところで、着々とマレリーナたちの魔の手(?)が伸びようとしていたのであった。
余談だが、そんな状況の中ミリスはどうしていたかといえば、父親と話を詰めているマレリーナをうっとりと眺めていた。どうやら、彼女の忠誠は崇拝に近いものらしい。
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