ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
430話「またしても面倒事」
「ブモォオオオオオ」
「猪か」
都市から徒歩四十分くらいの場所にある森で薬草の採取を行っていると、突然猪型のモンスターが草陰から出現する。解析で調べると、以前戦ったことのある【ワイルドダッシュボア】だった。
特に苦戦するような相手ではないが、一旦作業を中止し、モンスターと向き合う。相手もこちらがやる気だということを悟ったのか、猪特有の地面を擦るような仕草を取って今にも突進してきそうな勢いだ。
しばらく膠着状態が続いたかと思ったその時、先に動いたのはワイルドダッシュボアだ。気合の籠った雄叫びを上げながら勢いよくこちらに突進をしてきた。
「ほっ」
「ブ、ブモォ?」
そんな突進を俺は片手で受け止める。たかだかDランクのモンスターの突進如きで今更俺がどうこうなるわけもなく、いとも簡単に止められた。ワイルドダッシュボアも何が起こったのか理解が追いついておらず、呆然としたような声を出していたが、次の瞬間にはその顔から驚愕が伝わってきた。
「悪いな。そういうことだ」
それがワイルドダッシュボアが聞いた最後の言葉であり、俺は驚いている奴の横っ面に拳を突き立てた。数百キロはあろうかという巨体が、まるで重さを感じないとばかりに宙に投げ出される様は、異様の一言に尽きる。そして、そんな重さを持った相手が地面に叩きつけられた時の衝撃はかなりのものであり、地響きのような衝撃と共にちょっとしたクレーターができあがってしまう。
すでにワイルドダッシュボアは事切れており、ピクリとも動かない。そんな奴に向けてか、俺はぽつりと呟いた。
「たまには体術もやっておかないとな。魔法の方が簡単で楽だが、魔法が効かない相手が出てきた時のためにも、今以上に体術が重要になってくるだろうからな」
そう言いつつ、俺はワイルドダッシュボアをストレージ仕舞い込みすぐに分離解体で素材に分けていく。そして、再び薬草採集の作業を再開した。
それから、まるで引き寄せられるかのようにモンスターたちが襲い掛かってきたが、そのほとんどがCランク以下の雑魚ばかりであり、俺に指一本触れられることなく命を散らしていった。
そんなことが短時間で一度ならず数度も続けば、いくら鈍い人間でもわかってくる。そう、これはおそらくスタンピードの前兆だと。
スタンピードといってもその規模はピンからキリまであり、発生する条件もその時の場合によって異なってくる。今回の場合は、ある特定のモンスターが変異し、それを脅威に感じたモンスターがその個体から逃亡したケースに当てはまる。実際、周囲一帯の気配を探ってみると、数十キロ先に他のモンスターよりも明らかに格の異なるモンスターがいることがわかった。
そのモンスターから遠ざかるようにモンスターたちが都市の方へと生息域を移動してきており、このままだと数百匹のスタンピードとなって都市にぶつかる可能性がある。
「体術の訓練……と思えば少しはモチベーションが上がるか?」
現時点で俺がこの状況をどうにかする義理も義務もないが、数百匹とはいえモンスターの暴走であることに変わりはない。一応冒険者としてギルドに報告する規則はあるが、今いる都市の冒険者ギルドと相性が良くない。
人間とスタンピードのどちらが面倒かを天秤に掛けた時、戦闘面においてはスタンピードに軍配が上がるが、精神的な疲労を考えれば圧倒的に人間の方が面倒である。
「よって、今からスタンピード掃討作戦を実行する!」
誰にともなく宣言すると、俺はさっそく周辺に固まっているモンスターの群れを駆逐していった。駆逐してやる。駆逐してやる。駆逐してやる。
それなりにモンスターを掃討しつつ、スタンピードの原因を作っているモンスターを調べると、どうやら相手はレッドオーガの変異種であるヴァイオレットオーガというSランクの個体のようだ。
ここで、モンスターのランクと冒険者のランクについて言及するが、SランクのモンスターとSランクの冒険者を比較した際、一対一で戦った場合勝利するのはSランクのモンスターだ。それだけSランクのモンスターは通常レベルとしては脅威であり、Sランク冒険者が数人がかりでようやく討伐できるほどの強さを持ち合わせている。
尤も、何事においても同じ格でも質が異なるというものは存在しており、スタンピードの規模と同様にSランク冒険者にもピンからキリまで存在している。限りなくSSランクに近いSランク冒険者もいれば、実力はAなのに何故かSランクを持っている冒険者というのもいるにはいる。ちなみに、ガブラスは下から数えた方が早いSランクだ。
「ん? これはまた……」
モンスターを蹴散らしつつ目標のヴァイオレットオーガへと近づいていると、新たな気配を探知した。その反応が弱々しいものであったため、接近しないと気付かなかったことから、おそらくは瀕死の状態であると推察される。気配からして、人間のものと思われる。
「まーた厄介事の予感だな。これだから異世界ってやつは」
誰にともなく悪態をつくと、俺は気配を消しながら地面を蹴って駆け出す。移動すること数分で現場に到着すると、生き残っていた人間の一人が巨大なこん棒で叩き潰される瞬間だった。
改めて気配を探ると、生き残っているのは二人でどちらも女性らしい。そして、詳しい解析の結果一人は女騎士で、もう一人はなんと元王国の王女らしい。
なぜこんな辺鄙な森の中に王女様がと疑問に思ったが、ステータス的にはBランク程度の実力があるようなので、おそらくだが狩りの途中だったのだろう。
「ひ、姫様。ここは私が食い止めます。ですから、お逃げ下さい!」
「な、何を言っているのだミリス。私一人逃げ延びたところで何になる」
「あなたはこの国の王女です! 何があっても生き延びねばなりません。例え、この先どれだけの犠牲が出ようとも」
生き残った二人が、主従関係でよくありそうな寸劇のようなものを始めている。その間も、ヴァイオレットオーガは彼女たちに一歩ずつ迫ってきている。
助けた方がいいのはわかるが、前回のように俺が助けたことはバレてはいけない。そこで今回はある魔法を使うことにした。
「【ブラインド】」
「な、何だ!?」
「め、目が見えない」
それは、相手の視界を奪う魔法という闇属性でよくありそうな魔法だが、今回は俺の姿を見られないようにするためという目的のために使わせてもらう。その効果は絶大で、突如として起こった出来事に二人とも困惑している様子だったが、構うことなく俺は二人に声を掛けた。
「そこでじっとしていろ」
「な、何者だ!?」
「そんなことはどうでもいいことだ。死にたくなければ、そこから動かないことをおすすめする。【ウインドウォール】」
女騎士が誰何の声を上げる中、俺は二人を風の結界で覆い、ついでとばかりに音を遮断する効果も付けておいた。これで何が起こっているのかはわからないだろう。
さて、後顧の憂いを断ったところで、俺はヴァイオレットオーガと対峙する。これから、楽しい楽しい狩りの時間の始まりだ。
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