ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
427話「黒幕の思惑」
~ Side ????? ~
「というのが、事の顛末にございます」
「で、あるか」
ローランドがべラム大陸に潜入してちょうど二週間後、ある人物のもとに他大陸への侵攻が失敗に終わった報告書が届けられた。その者こそ、べラム大陸の覇者にして現アルカディア皇国皇帝ダルバス・ガイ・ゴデスティバ・アルカディアその人である。
べラム大陸を統一した現在、さらなる勢力を伸ばそうとアロス大陸に向けて侵略の軍勢を送り込んでいたが、送られてきた報告書の内容は惨憺たる結果だった。その中でもいくつか荒唐無稽な内容が含まれており、真偽を確かめる必要があるのだが、現地へ赴くにしても、その確認だけで相当な時間を要してしまう。
「ガレッゾ宰相。大陸攻めは、やはり時期尚早であったか」
「仕方ありますまい。勢いづいた貴族連中を大人しくさせるには、一度痛い目を見る必要がございます。そういった意味でも、今回の遠征失敗は必要なことかと」
「それではまるで最初からこの遠征が失敗することを前提としていると聞こえるではないか」
「もとより、成功する可能性が低かったのは事実でございます」
第三者がいないことをいいことに、今回の遠征の本当の狙いを宰相がぶっちゃける。大陸統一を果たしたとはいえ、アルカディアに反抗する勢力が掃討されたわけでもなく、未だ水面下ではアルカディア本国と敵対する反乱分子は残存している。
地固めが万全でないにもかかわらず、他大陸に攻め入るというのは考えなしもいいとこであり、客観的に見て冷静な判断を失っているとしか言いようがない。だが、一度良い思いをした人間は再びその感覚を味わいたいがために欲をかく生き物であり、それを止めるには今回のように失敗して痛い目を見なければ理解しようとしないのだ。
だからこそ、ガレッゾ宰相と皇帝は一計を案じ、増長した貴族共を大人しくさせるために今回の遠征を許可したのである。
二人とて、この遠征が成功するという可能性を信じてはいたが、戦いに次ぐ戦いを行ってきたことで疲弊した兵士たちでは、侵攻したとしても占拠することはできないだろうと予想していた。そして、彼らの予想通り侵攻は失敗に終わったというのが今回の顛末である。
「いかがいたしましょう?」
「これでしばらくは、侵略などという馬鹿なことを言ってこなくなるであろう。その間に国内の地盤を固めてしまう必要がある。その旨を通達し、これを最優先事項として行うようにせよ」
「御意。……それにしても、高ランクのモンスターが出たと報告書にありましたが、他大陸はそのようなところなのでしょうか」
「たまたま……というにはタイミングが良すぎると言いたいのか? こちらの動きを読んでの策だと?」
ガレッゾは今回の一件が失敗することを前提に策を練ったつもりだが、こうもあっさりと自国の軍が追い返されたことに違和感を覚えていた。それこそ、こちらの動きをあらかじめ読み、そのタイミングに合わせて高ランクモンスターが率いるモンスターの群れをぶつけてきたと思えるほどに。
実際は、たまたまローランドが借り受けた土地にモンスター農園を作っており、そこにたまたまアルカディア軍が攻め込んできただけなのだが、腹黒い貴族との駆け引きを日常的に行っている彼らからすれば、何か裏があるのではないかと勘繰ってしまうのは仕方のないことであり、今回も偶然を装った策略なのではないかという考えが先行して思いついてしまうことは無理からぬことだった。
「反乱分子に属する間者は捕縛しているが、他大陸の間者が捕まったという話は出てきておらぬのではないのか?」
「そう聞いてはおります。ですが、現地に赴かなくとも目視や盗聴が可能な魔道具があるやもしれません」
「それを用いてこちらの企みを知ったということか。それが事実であれば由々しき事態だな」
「それについても詳しく調査いたします」
現在彼らが話しているのは玉座の間であり、そこはありとあらゆる魔法的な現象を無効化する結界が張られている。だからこそ、こうして二人して本音を語っているのだ。
他大陸については一旦そういった形で調査をすると結論付け、次の問題に目を向けることとする。その問題とは、先ほどから話に出ている反乱分子についてだ。
大陸統一を果たしたアルカディア皇国だが、未だに反抗する勢力を鎮圧できているのかといえば、否定せざるを得ない。そもそも、統治については元々他国の人間だった者に任せきりの状態であり、いつ内部分裂を起こしても不思議でないのが現状なのだ。
そのことを危惧してか、定期的に監査の人間を各方面に寄こしており、その報告から問題ないと判断されているが、その水面下では確実に反旗を翻す準備を着々と進めていると皇帝も宰相も考えている。人の心とは表面上のものよりも内面の方がえげつなかったりするのだ。だからこそ、腹黒いなどという言葉が存在しているのだと彼らは考えている。
「ところで、逃げ帰ってきた兵士についての処遇ですが……」
「それについては、各々の貴族たちの裁量に任せる他あるまい」
今回の遠征で編成された軍は、そのほとんどが貴族たちの余剰戦力によって構成されており、皇帝に仕える国軍は一兵たりとも出陣していなかった。そのことからも、この遠征が貴族の無理強いによるものであり、皇帝の本意ではないということは明らかである。
遠征が失敗した以上、それを後押しした貴族たちがどう言い訳するのか、皇帝も宰相も内心でほくそ笑んでいた。彼らも、大国を治める要人だけあっていい性格をしている。
兎にも角にも、皇帝や国の直属でもない兵士の裁量権は、貴族たちが所持しているため、二人ともすべて彼らに丸投げとすることを選んだ。だが、それもまた彼らが仕組んだ罠の一つだったりするのだ。
これで、貴族たちが逃げ帰ってきた兵士に何かしらの処罰を与えた場合、その指示を出した貴族たちにも何かしらの罰を与えなければならなくなる。かといって、無理を言って兵を出した以上、何も処罰なしという訳にもいかない。つまり、貴族たちは自分たちにできるだけ責任を被らず、戻ってきた兵にも周囲が納得のいく罰を与えなくてはならないという絶妙な方法を絞り出さなければならないのだ。
「おそらくは、謹慎と降格処分になるだろうのう」
「でしょうな。あやつらめの頭のなさは、ほとほと困りものでございます」
「さりとて、処分しようにも国の安定化ができておらん現状では、猫の手も借りたいほどの忙しさだ。潰すにはまたとない機会だが、ここは見逃す他あるまい」
「ですな。まったく、忌々しい限りです」
どうにもならない現状に、示し合わせたように顔を歪める皇帝と宰相。それだけ貴族という存在が無視できないほどの勢力となっており、国の支配者であるはずの皇帝ですら命令することは難しい。
しかしながら、貴族側も国の頂点である皇帝を疎ましく思っていても国が傾くほどの失態を犯さない限り、断罪することはできない。それほどまでに王や皇帝というのは唯一無二の存在でもある。
お互いがお互いを牽制し合い相手の弱点を探る日々が続いており、それだけでも相当な神経を擦り減らす。両者にとって実に嫌な睨み合いと言える。
「この話ももう終わりにしよう。何か明るい話題はないのか?」
「そうですな。聞いた話では、辺境のディノフィス区で始まった政策が治安回復に絶大な効果を発揮したとか」
「ほう、一体どのような?」
「なんでも、住居を持たない者に自身の住居を作らせ、その過程で特定の才能を見いだされた者は、その才能で定職に就き実質的に都内の治安回復に繋がったとか」
「それはめでたいことだ」
「それに加え、都市の外の治安についても、行商人に化けさせた騎士たちを囮にして盗賊たちをおびき出し、そのまま一網打尽にすることで討伐率が格段に上がったと聞き及んでおります」
「ふむ、我らもそれに倣ってやってみるか?」
「検討の余地はございますな」
なんと、ローランドがカリファに提案した策が巡り巡って皇帝の耳にまで届き、実施されることになろうとしていた。後日、本当にその政策が施された結果、べラム大陸全体の盗賊が激減し、以前とは比べ物にならないほどに治安が良くなったのだ。恐るべきは、それを思い描いた存在である一人の少年だが、その事実を知る者は少ないため、彼の存在が明るみになることはなかったのである。
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