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ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

425話「違和感」



「指名依頼?」


 ご無沙汰だった冒険者活動に勤しんでいると、突然ザシカから俺に指名依頼がきていると告げられる。この数日、毒耐性や麻痺耐性などの状態異常系のスキルを上げようと、薬草採取関連の依頼を受けていた。そのことが災いしたようで、俺個人に指名の依頼が舞い込んできてしまったのだ。


 冒険者にとって名指しで依頼されることは、名前を売り込むと同時に冒険者として客観的に認められたという指標であり、一流の冒険者になったかどうかは指名依頼をされたことがあるかどうかと考えている者も少なくはない。


 だが、あまり目立った行動を取ると身動きができなくなってしまうため、俺としてはあまり歓迎できない事案ではある。


「はい、実は以前ギルドに依頼を出した薬師の方で、あなたが採ってきた薬草が適切な方法で採取されていることに感銘を受けたそうなんです。ですので、今回もできればあなたに依頼したいということらしいのです」

「なるほどな」


 冒険者は基本的荒くれ者の集団であり、主に要人の護衛やモンスター討伐といった荒事を主体とした依頼が多いため、薬草採集などの細かな作業を行える人材が極端に少ないことは今までの経験で知っていた。だからこそ、俺を指名してきている薬師もそういった事情から指名依頼を出したのだろう。


「もちろん、指名依頼ですのでその分報酬金が上乗せされておりますし、指名依頼をこなすことでランクの昇級も早まるので、あなたにとっても悪い話ではないかと」

「うーん」


 それは逆に困るのだ。ギルドカードを幻術で偽造している以上、ランク昇級となれば詳細にギルドカードを調べられることになる。そこで偽造が発覚すれば俺の本当のランクが公になってしまうだろうし、最悪の場合ランクを偽ったということで登録の抹消もあり得る。


 まあ、商業ギルドにも登録しているので、最悪冒険者活動ができなくなったところで、素材の持ち込み先が冒険者ギルドから商業ギルドに変わるだけの話だ。そうなれば、損をするのは冒険者ギルドであるため、仮に俺のランクがバレたところでお咎めなしになる可能性は高い。


 かといって、馬鹿正直に「私の本当のランクはSSランクなんですぅー」などと喧伝するつもりはないため、ここはいろいろと調整が必要になってくる。


「その依頼。指名依頼ではなく、通常の依頼として受けることはできないか?」

「え?」

「できれば、ランク昇級はしたくない。だから、今のランクのまま冒険者活動できる方法を取りたいんだ」


 俺の言葉に戸惑うザシカだったが、俺の嘘の事情を知って納得はしつつもどこか不思議な顔をしていた。だが、俺の質問にはちゃんと答えてくれた。


「できるかできないかで言えばできます。一応、同じ依頼者の方が別口でも依頼を出しているようですので。ですけど、報酬金は下がってしまいますよ?」

「それで構わない」

「わかりました。では、通常依頼を受けるということで受理しておきます」

(うっし。これで俺が逆ランク詐欺をやっているのがバレない)


 ザシカから通常依頼で出ていた薬草採集の依頼を受けることができた。内心でガッツポーズをしながらも、真顔で対応する。


「ありがとう、では行ってくる」

「行ってらっしゃいませ」


 問題なく手続きが完了したことで安心した俺は、意気揚々と薬草依頼へ出掛けた。その依頼完了の報告の際、トラブルが待ち受けているとも知らずに。






     ~~~~~~~~~~~~~~~~~~






 ローランドが依頼に出掛けたのを見届けたザシカは、改めて彼の言動に違和感を持った。通常指名依頼は冒険者にとってとても栄誉なことであり、断る理由など皆無に等しいからだ。冒険者の間では常識とされているにもかかわらず、その指名依頼を受けずランク昇級にも興味がないことを不審に思ったザシカは、彼についてギルドマスターのオイトに相談することにした。


「というわけなんですけど」

「なるほどな」


 ザシカの話を聞いたオイトは、ある一つの可能性を見い出す。その可能性とは、ランクを偽っている可能性だ。通常、ランク昇級をする際、冒険者ギルドは特殊な水晶にギルドカードを掲げることで情報の更新を行う。そして、ギルドカードはその特殊な水晶を通しているため、カード自体に偽造を施すことは不可能とされてきた。だが、何事にも例外はある。


「おそらくそいつは、ギルドカード自体に細工をしてるんじゃなくて、我々の目を欺く形で偽造しているんだろう」

「どういうことですか?」

「例えば、ギルドカードの情報をいじくって改ざんするとどうしても違和感が残ってしまって、目視ですぐにバレてしまう。だが、幻術でカードに書かれている内容を別の内容のものとして認識させればどうだ」

「そんなことができるんですか?」

「高位の光魔法と闇魔法持ちならできなくはない。あるいはそれに準ずる魔道具を持っているとか、やり方はいくらでもある」


 ギルドカードの偽造の不可について話すオイトに対し、ザシカが怪訝な表情を浮かべている。未だ解明されていないことの一つであるギルドカードだが、偽造することは不可能であるというのがギルド関係者の中での定説であり、ザシカもまたそれを信じている一人だった。


 それ故に、オイトの話した内容に半信半疑になるのは当然であり、ギルドカードにそのような抜け道があることなど初耳であったため、その表情は芳しくないものへと変わっていく。


「それを見破る方法ってあるんですか?」

「ある。ギルドカードを水晶に掲げて情報を更新すればいい。あの水晶はギルドカード自体に特殊な魔法を付加する役割を持っているから、仮に幻術などの魔法がかけられていた場合、それを上書きして本来の情報が表示されるようになっているんだ」

「そうなんですね」

「ああ、だから。次にその冒険者が戻ってきたら、俺のところに連れてこい。そこで化けの皮を剥がしてやろうじゃないか」


 そう言いながら、にやりと口端を上げたオイトにザシカは件の少年に対して申し訳なさを感じていた。違和感に気付いてしまったとはいえ、優秀な冒険者であることに変わりなく、できればこれからも定期的な薬草採集をお願いしたいところであったというのに、もし彼がランクを偽っているというのならば、ギルドとしても何かしらの対応をしなければならないのだ。


「では、私はこれで失礼します」

「おう」


 そう短く返答したザシカはそのまま部屋を後にする。そして、オイトは彼女が持ってきた情報を改めて精査する。


(しかし、ザシカの話ではEランク冒険者となっていたらしいが、ランクを偽りたいのなら、普通はもっと上のランクを表記させるはずなのだがな)


 冒険者ギルドのランクシステムは難易度の高い依頼は高ランクの冒険者が、難易度の低い依頼は低ランクの冒険者が受ける仕組みになっている。これは、冒険者という職業が命に係わる職業であるため、それ相応の実力が求められることに起因する。


 実力のない人間に難易度の高い依頼を割り振っても、無駄に命を散らすことになるだけだ。であるならば、実力に見合った人材に依頼を割り振ることで、冒険者が命を落とす確率を低くすることができる。それが冒険者のランクの本質だ。


 だが、難易度の高い依頼というのは成功報酬もまた高いわけで、そういった依頼を受けたいと考える人間はどこにでもいる。だからこそ、邪な考えを持っている者は、己のランクを偽って実力の見合わない依頼を受けようとするのだ。だが、件の人物はどうだろうか?


 ザシカの話から、かの少年が昇級したくないという口ぶりから、一見すると今の待遇に満足しているからこそ上のランクに上がりたくないと捉えられなくもない。だが、オイトはその考えをすぐに棄却する。ザシカが感じたように違和感を感じたからだ。


(実はかなりの実力を持っていて、それを公にしたくないからランクを下の方向に偽っているとすれば、辻褄は合うな。……ん? 待てよ。そういえば、最近新たに他大陸からSSランクの冒険者が誕生したって通達が回ってきたが、確かそいつはまだ成人してない少年って話だったな……)


 そのことに思い至ったオイトは、額から汗が流れ落ちる。SSランクは人類にとって最高戦力の一つに数えられるほどの実力者であり、ローランドがSSランクになる前は世界でたった三人しかいない存在であった。そのことからも、SSランクがどれだけ重要なランクとして扱われているかが理解できるだろう。


(ま、まさか本当にSSランク冒険者とでもいうのか……いや、待て。確か、通達のあった書類の中に詳細が書かれていたはずだ)


 そのことを思い出したオイトは、すぐに書類の山から該当するものを引っ張り出す。そして、そこに書かれている新規のSSランク冒険者の情報を確認する。




【新規SSランク冒険者について】


 下記の者が新たにSSランクの冒険者となったことをここに記載する。それを踏まえて各ギルドは対応すること。


 SSランク冒険者 ローランド【二つ名:依頼屋(クエストブレイカー)】 年齢:十三歳




「間違いない。ザシカの言っていた冒険者の名だ。ということは、件の冒険者はSSランク冒険者であることを隠すためにギルドカードを偽造しているということか……」


 改めて結論を口にすると、思っていたよりもしっくりとくる理由だった。これならば、Eランク冒険者として身分を偽ることにも違和感がなく、目立たずに行動ができる。


「どちらにせよ、調べてみればわかることだ」


 そう言いながら、ザシカが例の冒険者を連れてくるのをオイトは待ち続けるのであった。

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