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ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

419話「暗躍と意図せぬ関わり」



 ~ Side ロドリゲス ~

「おのれぃー、ディノフィスの残党めが!!」


 そう言いながら、ロドリゲスは座っていた椅子の肘掛けに拳を叩きつける。腕のいい職人の手によって作られたそれは存外に頑丈だったようで、逆にロドリゲスの手が赤く腫れてしまうという結果のみを残した。


 そのことにすら苛立ちを覚えるロドリゲスだったが、今は自分の思惑を邪魔してくれた男についてどう復讐するべきか思案を巡らせる。


「旦那様、お呼びによりまかり越しましてございます」

「おぉ、待ちかねたでおじゃるよオリバー」


 そんなロドリゲスの態度を軟化させたのは、バグズビー家の執事であるオリバーであった。だが、歴史あるアルカディアの伯爵家であるバグズビー家の中でも、オリバーは執事という立場にありながらその実務をこなすことはほぼ皆無だ。というのも、彼が執事とは名ばかりの武闘派の駒であったからだ。所謂、暗部のようなものである。


 バグズビー家は、脅威となる派閥の貴族を潰すことに特化した家柄であり、表沙汰になっていないものを含めれば、両手の指では足りないくらいに裏でいろいろなことを行ってきている。アルカディア皇国としてはその能力は脅威ではあるものの、皇国もその能力を駆使して他国との情勢の足掛かりとした側面を持っているため、思うところはあるがバグズビー家に対して強く出ることができないのが現状だ。


 現当主のロドリゲスもそれを十重に承知しており、彼が裏でやってきたことは決して褒められたものではないが、それがなければアルカディア皇国が大陸統一という悲願を達成できなかったという声も少なくないため、伯爵家とはいえ立場的にかなり優遇されている貴族家という自負があった。


「それで、旦那様。今回の私の仕事の内容をお聞かせ願えますかな?」

「あのガルガンドールとかいういけ好かない男の娘を攫って来るでおじゃる」

「かしこまりました」


 やはりというべきか、公衆の面前で面子を潰されたことを根に持っていたロドリゲスは、あろうことかデノス本人ではなく、その家族に魔の手を伸ばそうと画策したのだ。


 というのも、デノスの妻との間に生まれた娘は母親の血を濃く受け継いでいるようで、見目麗しく縁談の申し込みが後を絶たないと評判の令嬢だった。当然、その噂はロドリゲスの耳にも届いており、それほどまでに美しいのであれば自分のものになる資格があるということで、今回の策を思いついたのだ。


 面子を潰されたデノスに仕返しができ、尚且つ自分は美しい令嬢とよろしくできるというなんとも下世話で下劣な考えではあるが、ロドリゲスにはそれを成せる権力と従えている部下がおり、彼自身もそういった裏工作を行ってきたため、今回も上手くいく算段はついていた。


「では、行ってまいります」

「うむ、よろくでおじゃる。ぐふ、ぐふふふふ。今から楽しみでおじゃるよ」

「……」


 主人からの指令を受けたオリバーは、下卑た笑いを浮かべた主人を一瞥すると、何も言わず部屋を後にする。そして、しばらく歩いて部屋から離れたところで、オリバーがぽつりと呟く。


「いつまでも、貴様の思う通りになると思うなよ……」


 意味深な台詞と口にしたオリバーは、主人の命令を遂行するべく屋敷の外へと出ていった。オリバーが口にした言葉にどういった意味があるのかはわからないが、少なくとも彼が心の底からロドリゲスに忠誠を誓っているわけではないようだ。


 それからしばらくして、ガルガンドール家から一人の令嬢が誘拐されたという一報が寄せられることになり、決死の大捜索が行われるのだが、後に一人の少年がその事件に深く関わることになるとは夢にも思わないのであった。






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 旧王都の街を散策した翌日、俺は裏路地の探検を行っていた。目的は特にはないのだが、街の治安やその他の何かを確認する一番の方法として俺が用いることが多く、とても手軽に行るため、かなりの頻度で行うことがあった。


 そのお陰なのかせいなのかはわからないが、かなりの高確率で面倒事に巻き込まれる可能性が高く、その点を見れば避けるべきなのだが、その分得られる情報も濃密なものとなることも多く、ハイリスクハイリターンという状況になることがしばしばあるのだ。


(む、これは)


 そして、どうやら今回はハイリスクの部分が仕事をしたらしく、俺の感覚操作に反応があった。俺が持つスキルの一つである感覚操作は、気配察知と気配遮断というスキルの上位スキル索敵と隠密を統合したスキルとなっており、敵を察知する能力並びに気配を殺す能力においてはかなりハイレベルな仕様となっている。特に注目すべきは、気配察知に関する能力だ。


 感覚操作を使えば、気配を感じ取ることはもちろんのことその気配がどういった姿形をしているのかも感覚的に把握ができ、それが人なのかモンスターなのかも自在に把握が可能だ。そして、今俺が捉えている気配がどのようなものなのかといえば、ソファーのような椅子に両手を縛られ、口に布を噛ませられた状態で座っており、貴族の令嬢が身に着けるようなドレスを着た少女がいることがわかったのだ。


(どこかから連れ去られてきた貴族の令嬢か、はたまたそういった趣味があって放置プレイを楽しんでいるのか。むぅ、判断が難しいところだな)


 前者であるのなら、助けることに意味はある。だが、仮に後者だった場合、お楽しみ中のところを邪魔したということで理不尽な苦情を申し立てられる可能性があるのだ。尤も、後者である可能性よりも前者の可能性が高いため、常識的に考えて助けに入った方がいいという考えに変わりはない。後者だった場合は、朝っぱらからそんなプレイをやっている方がどうかしているというこちらの言い分の方が正論になるので、彼女が特殊なプレイ中であっても問題ないはずである。


 このまま考えていても仕方がないので、連れ去られて拘束されている令嬢として扱うこととし、俺は彼女が閉じ込められている部屋の壁際に立つ。そして、そこから人ひとりが通れるくらいの大きさの穴が開くように魔力を込めた指で壁をなぞると、その壁に線が入っていき、最終的に某国民的アニメの秘密道具のように通り抜けができる風穴が開いた。


 気付かれないように風魔法を使って音を遮断しつつ、自身も透明化の魔法で姿を消しているため、俺が侵入してきたことに気付いた様子はない。部屋の中には、感覚操作で確認した通り、十代中頃くらいの少女が口を布で塞がれ両手を縛られた状態でソファーに座らされていた。目には涙を溜めていることからおそらくは誘拐されたものと見て問題ない。


 まだ、そういったプレイに嬉し泣きをしている可能性も0.なんパーセントかは残されていたが、それでも状況的には助けるべきということで、音もなく彼女の背後に回り込んでそのまま彼女の目を塞いだ。


「んっ!?」

「動くな。いくつか質問するから首を縦か横に振れ。わかったな?」

「んっ(コク)」


 いきなり視界が塞がれたことで驚いた様子の少女だったが、俺の声に敵意がないことがわかると俺に指示に従って首を縦に振る。これで質問ができるようになったので、まず聞いておかなければならない重大な質問を彼女にぶつけてみることにする。


「確認だが、この状況はお前の特殊な性癖を満たすためのプレイではないよな?」

「んー、んー(フルフル)」

「だよな。一応聞いてみただけだ。じゃあ、次の質問だ。誘拐されたってことで間違いないな?」

「んっ、んっ(コク、コク)」


 俺がそう質問すると、首を勢い良く横に振る。どうやら、お楽しみ中ではなかったらしい。


 これで懸念すべき点が解決したところで、本来確認するべきことを確認すると、彼女からそれを肯定する答えが返ってくる。これで、彼女がどこぞの貴族の令嬢であり、何かの目的のために誘拐されたということが確定した。そうなってくれば、後は元の家に帰してやれば済む話であるため、俺はすぐに行動に移る。


「いいか、今から安全な場所に移動するから肩の力を抜いていろ」


 俺が彼女にそう指示を出し、部屋から脱出する前に侵入経路である穴を塞ぎ、そこから侵入してきたという証拠を隠滅したのち、瞬間移動を使って安全な場所へと移動した。

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