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ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

412話「貴族の令嬢?」



「さて、行くとしよう」


 昼食を食べ終わった俺は、さっそく街へと繰り出す。街の様子は至って普通に見えるものの、人通りの少ない路地の気配を探ってみると、少なくない人数の気配が感じ取れた。おそらくは、家を持たない人間がスラムのような組織体を形成して生活しているのだろうと推測される。


 当然、そんな人間がいるということは治安が悪いということであり、ここでも大陸統一という弊害が出てしまっているようだ。


 天下統一や世界征服などという言葉は存在するが、その大層な言葉の裏では治安の悪化や国としての実態など、状況としてはあまり良くないのが現実だということだ。とどのつまり、国というのは一つにするよりも一定の領地を一定数の人間が治めた方が効率がいいということだ。


「あっ、すまない」

「いや、こちらも余所見をしていた。申し訳ない」


 などと、考え事していると人とぶつかってしまった。ぶつかったのは、気品ある妙齢の女性で、身なりや仕草からかなり身分の高い人間であることが窺える。差し詰めどこぞの貴族の令嬢といったところか。


 とにかく、ぶつかったのはこちらに非があるので、素直に謝罪の言葉を口にしておく。彼女も特に気にした様子はなく、こちらの謝罪を受け入れてくれた。


「では、これで失礼する」

「待ってほしい。見たところ君はこの街の人間ではないのだろう? よかったら、街を案内しようか?」


 さて、どうしたものだろう。相手が貴族に属する人間だということは、口にする言葉がそのままの意味ではなくその裏に別の意味が込められていたりする。あるいは、俺が実力者だと見抜ける何かを持っていて、わざと声を掛けてきた可能性も捨てきれない。


 彼女の顔を見やると、微笑みを浮かべ心情を読み取りにくい表情を浮かべている。このまま断ってもいいのだが、身分の高い者からしか得ることができない情報があるのもまた確かであるため、ここは彼女の策に敢えて引っ掛かってみることにした。


「あなたがそうしたいというのであれば、お言葉に甘えるとしよう」

「そうか、なら付いてきてくれ」


 そう言って、女性は俺の少し前を歩きながら街のことを説明しながら案内する。一見すると、特に怪しい点はなく、ここの露店で売ってる食べ物が美味しいだのこの広場は待ち合わせの場所として有名だのといったよくある説明だ。


 だが、雰囲気的に何か俺に話したいことがあるようで、説明の中に遠慮気味な感情が見て取れた。一体何を企んでいるのかと思っていると、突然ぽつりと彼女は話し始める。


「君はこの街を見て何を感じる? 思うことを話してほしい」

「そうだな。特に問題のないように見えるが、少しばかり裏路地の住人が多い気がする」

「……やはり、気付いてしまうか。実はそのことで困っていてな」


 彼女が話し始めた内容によると、俺が考えていた通り大陸統一という偉業を達成したアルカディア皇国だが、国として大きくなりすぎてしまったことで、道中の盗賊の増加や都市内にいるスラムの人数が飛躍的に増加したらしい。そして、それに伴い都市の内外問わず犯罪率が急激に増えており、対応が追いつかないそうだ。


 前世の世界でも、犯罪率が高い治安の悪い国は存在した。その原因として挙げられるのが、取り締まる警察の規模よりも犯罪者たちの規模の方が大きく、仮に取り締まったとしてもその取締りに対する報復行為が横行してしまい、下手に取り締まれないといった現状だ。


 対策としては、人員を増やし取り締まる側の絶対数を増やすということだが、そのためには莫大な資金が必要となるため、現実的に実現が難しい課題となっていた。


「彼らに仕事を与えればいい。例えば、自分たちが住むことになる住居を彼ら自身の手で作らせるとかな」

「なるほど」

「住居完成後は、何かしらの事業を発表してそれに参加してもらうという形で再雇用をして一人でも多くの人間を労働者にする。もちろん、労働待遇が悪辣なものはご法度で、できるだけクリーンな雇用条件で雇うことが重要だな」

「ふむ」

「そして、そのための財源を捻出しなければならないが、増税はせずこれもまた管理側が新たに何かの事業を発足し、運営する必要性が出てくるといった具合か」

「き、君は一体何者なんだ?」

「ただの冒険者さ」


 俺が詳しいことを話す気がないと悟った彼女は、それ以上の追及はやめ当初の予定通り案内を続けてくれた。彼女の説明で大体の建物の場所がわかったので、結果的に彼女がいてくれて助かった。


 彼女の案内の道中も、街の外にいる盗賊たちの対処の方法やどのルートを重点的に警らさせるかなどのアドバイスを行った。彼女にとっては目から鱗だったらしく、俺の言葉にしきりになるほどと頷いていいた。


 最後の建物を案内し終わったところで、彼女の案内が終了となるが、ここで初めて彼女が自分の名前を明かした。


「私の名前はカリファ・フォン・アシュフォードだ」

「ローランドだ」

「……何か困ったことがあったら、城を訪れるといい」

「わかった。何かあればそうさせてもらう」


 カリファの自己紹介に俺も名前だけ告げておき、彼女とはそこで別れた。去り際に「さっそく、言われたことを実行せねば」と言っていたが、この街を治める人間と顔見知りなのだろうか。


 厄介事の匂いがしてきたが、こちらとしてもいろいろと貴族しか知り得ないような情報――機密事項以外で――を得ることができたので、俺としては必要な接触だったと納得することにした。その後何か起これば逃げるか対処することも視野に入れつつ、気付けば夕方になっていので、俺は宿へと戻り、その日は夕食を食べて早めに休むことにした。

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