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ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

408話「街の散策」



「というわけだ」

「あの時そんなことが起きていたのか。だが、困ったな。これでは、報告ができん」

「ありのままを報告すればいいじゃないか」

「報告したところで信じてもらえるわけがない! 霧の魔法で冒険者たちの視界を奪っている間に、雷魔法でモンスターの群れを壊滅状態にしつつ、自分は姿を暗ましたという内容を誰が信じる? 直接本人から聞いた俺だって半信半疑だぞ」


 アロスに事の顛末を話した結果、返ってきた答えはこれだった。俺の説明に嘘偽りはないが、報告書に記載できるものではなく、仮に記載したとしても正式に受理される可能性はかなり低いらしい。


 SSランクの冒険者だからそれくらいはできるのではと聞いてみたが、いくら最高峰の冒険者であろうとも、そんな人並外れた芸当ができる人間はいないらしい。


「具体的な内容は記載せず“SSランクの冒険者の協力によって”と詳しい内容を暈して記載するというのはどうだ? 詳しい説明を求められた場合、今から話すことは紛れもない真実だと念押しして説明するという方法を取ればいい」

「はあ、それしかないな。説明を求められないことを祈るとしよう。あと、これを渡しておく」


 俺の提案を受け入れたアロスが、最後に魔法鞄から大きめの皮袋を取り出す。中には大量の金貨が詰まっており、量的にかなりの金額になる。


「これは?」

「追加の報酬だ。最高ランクの冒険者をたった百万ジークで働かせたなどと言われては冒険者ギルドの沽券に関わるからな。せめてこれを受け取ってくれ。相場よりも少ないが、一千万ジークある」

「……そういうことなら、受け取っておく」

「そうしてくれると助かる」


 俺としては百万ジークでも構わなかったが、ギルド的にはあまりよくないことだったようで、ここは素直に受け取っておいた。それから、改めて礼を言われたあと、二日ほど街に滞在することを告げ、アロスとはそこで別れた。これから、書類と格闘することになると嘆いていたが、どんな組織でも最高責任者の仕事というのはそういうものだと言ってやると
苦笑いを浮かべて帰っていった。


 アロスがいなくなったあと、改めて二度寝でもしようかと考えたが、すっかり目が覚めてしまったようで、とりあえず朝食を食べるべく一階へと降りることにする。


 昨日の夕飯時とは打って変わって、客の入りはそれほど多くはなかった。席に着くと、すぐにウエイトレスの女の子がやってくる。あの受付の少女である。


「いらっしゃい、何にしますか?」

「軽めのものを頼む」

「はい、ちょっとお待ちください」


 しばらく待っていると料理が運ばれてくる。料理はよくあるパンと野菜スープで、朝食としてはこの世界でよく食べられているものだ。味も特筆すべきものはなく、普通だったので、もくもくと口の中に入れていく。


 朝食を食べ終わると、さっそく情報収集のため先ほどの少女を呼び寄せ、話を聞かせてもらうことにする。


「そういえば、自己紹介がまだだったな。俺はローランド。冒険者をやっている」

「わたしはサリー。よろしくね」


 簡単な自己紹介を済ませると、俺はサリーと名乗った少女に様々な質問を投げ掛けた。名目上この辺りのことに詳しくないという理由で質問してみたが、彼女は快く答えてくれた。


 この街はべラム大陸の端にある【ソースティア】という名前で、海が近いということもあってか漁業が盛んに行われている。とっていも、港町というわけではなく、あくまでも海に近い街という位置付けであり、海岸線まで徒歩で数時間の道のりだ。


 そして、言わずもがなこの国の名は【アルカディア皇国】という国で、数十年前まで存在していた小国を吸収し、とうとうべラム大陸の覇者として大陸統一を果たした。しかしながら、滅亡した国の勢力は未だ残っており、最近ではもっぱら残党狩りに勤しんでいるとのことだ。


 その残党狩りもひと段落したため、次は世界統一に向けて動き出そうとしていた。その足掛かりとして、アロス大陸のシェルズ王国が最初の標的にされたというのが俺が出した結論だ。


 シェルズ王国側からすればいい迷惑であり、大陸統一したんなら大陸を治めるだけにしておいてくれと文句の一つも言いたいところだが、アルカディア皇国の連中は欲深いらしく、大陸一つの支配だけでは満足できないらしい。


 何故ここまで詳細な情報が得られたのかといえば、大陸統一という偉業を達成したアルカディア皇国の意向にあった。人は何か達成困難なことを成し遂げた際、そのことを誰かに聞いて自慢したいという心理が働く。大陸を手中に収めたことを成し遂げたにもかかわらず、誰にも知られないとなれば、これほど虚しいものはない。


 そこで、まず初めにアルカディア皇国が打ち出した政策が、アルカディア皇国がべラム大陸を統一したという情報を大陸中に伝えるというものであったらしい。だからこそ、大陸の片隅にあるこのソースティアにもその情報は伝達され、いち宿屋のいち看板娘であるサリーでもそういった情報を耳にする機会があったというわけである。


 本を売っている店でもその情報について記載された書籍を取り扱っており、噂としても歴史書の類としてもアルカディア皇国が大陸を統一したという事実を広めたかったようだ。


「なるほどな」

「でも、未だに皇国に滅ぼされた国の人たちが抵抗してるって話を聞くわね。そりゃあ、自分の国を滅ぼした相手の言うことなんて聞きたくない気持ちはわかるけど」

「いろいろ聞かせてくれてありがとう。これは礼だ」


 話を聞かせてくれたお礼として、俺は王都で売っている庶民クッキーをプレゼントした。さっそく中身を確認し、クッキーを一つ口に入れると、その美味さに感動しているのか、目を輝かせていた。


 それから一度宿を後にし、さらなる情報を求め、俺は街を散策することにする。特に変わり映えのしない街並みを眺めつつ、特に目的もなく街を練り歩く。道すがらにある露店や店舗などを見て回り、サリーの時と同じくアルカディア皇国やべラム大陸などの情報を聞いて回る。


 アルカディア皇国の策略が効いているのか、大体はサリーの言っていたことと耳にする情報は同じで、特に新たな情報などは得られなかったが、途中入った本を扱う店でサリーの言っていた本が見つかったので購入しておいた。暇なときに読んでおくことにし、街を歩いていたその時、前方で何やら騒がしいグループを発見する。


「おうおうおうおう、この落とし前どうつけてくれるんでぃ!」

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