ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
406話「間引き? いいえ、自作自演です」
ソースティアの街を出たすぐそばにある平原。そこに二百人ほどの冒険者の姿があった。アロスとの会話で入手した情報の中に、この街が【ソースティア】という名前であることをようやく知ったのだが、その街の入り口から北西に進んだ先にある森林地帯からモンスターの群れが進撃中とのことだ。
そのことに気付いたのは、たまたま森の中にある薬の材料を納品する依頼を受けていた冒険者パーティーが居合わせたからであり、それがなければ対応がもっと後手に回っていただろう。
全員が武器を手に臨戦態勢に入っている中、現場の指揮を執るためにアロスが声を上げる。
「いいかてめぇら。あの森からモンスターの群れがやってくる。それを迎え撃つためバリケードを作るんだ」
アロスの指示により、麻の袋に土を詰め込んだものを積み重ね、一時的なバリケードを作り上げていく。突貫工事甚だしいものであるため、どれだけ有効かは実際のところわからないが、ないよりは幾分マシ程度のものであることはその場にいた誰もが理解している。
そんな中、俺はどこにいるのかといえば、冒険者の中に混じって彼らの行動を観察していた。もちろん、他の冒険者に見つからないよう姿と気配を消した状態でその場にいる。
あのあと、アロスと打ち合わせを行い、俺が襲ってくるモンスターの群れを一掃する手はずとなっているのだが、全滅させてしまっては緊急依頼を出しているギルドの手前、無駄に依頼料を支払うだけという彼の要望から、冒険者に被害が出ない程度のモンスターを残して討伐してほしいという何とも難易度の高い希望を言われてしまったのだ。
ただ全滅させるだけならば、広範囲魔法を一発放てば済む話だ。しかし、ある程度間引いた状態で全滅させないよう残すとなれば話は変わってくる。
「まあ、できるかできないかで言えば、できるんだけどな」
他の冒険者に聞こえないようぽつりと呟く。俺が化け物であることは今までの言動から見れば明白であり、たかだか数百匹程度のモンスターが襲ってきたところで、それが脅威になることはない。それだけの実力を持っている自覚はあるし、何よりもその程度でどうにかなるような人間でないことも理解している。
しばらくして、簡易的なバリケードが完成したのとほぼ同時刻に森からモンスターの群れが現れた。モンスターが姿を現すと、さらにも増して冒険者の間に緊迫した空気が流れる。
「恐れるな! 数が多いとはいえ相手は低級モンスターばかりだ。数の力は引けを取るが、個々の力は我々の方が上だ!」
冒険者の士気が落ちたことを敏感に察知したアロスが、彼らを鼓舞するように声を上げる。そこは長年の経験がものを言うのだろう、それを聞いて冒険者たちの士気がすぐに元の状態へと戻る。
(さて、俺は俺でやるべきことをやりますか。……【ブラインドミスト】)
アロスの依頼を完遂するべく、俺は周囲の視界を奪う魔法を発動する。瞬く間に冒険者たちが濃霧に包み込まれ、その視界を奪った。そんなことが起こればパニックになるのは当然で、何が起こったのかわからないまま全員がその場から動けないでいた。
その状態を見届けたのち、俺は地面を蹴って森の方へと駆け出す。こちらに向かってきているモンスターが俺を視認すると、さらに進撃速度を上げてきた。
「それじゃあ、お疲れ様でした。【結界魔法】、【サンダーエレクトロニカ】」
そのまま黙って見ている訳もなく、俺はすべてのモンスターを包み込んでしまうほど巨大な結界を出現させる。国一つを覆ってしまう規模の結界を二度も構築している俺からすれば、たかだか千匹未満のモンスターを覆う結界を構築するのは難しくはない。
すべてのモンスターを結界内に閉じ込めると同時に、俺は雷属性の魔法を結界内で発動させる。結界の中心に出現した雷の球体から、まるで雷雲から放出された電気の槍のようになって、モンスターたちに襲い掛かる。
「ギャアアアアア」
「グゲゲゲゲゲ」
その場には、電撃が轟く音とモンスターたちが苦痛にもがき苦しむ悲鳴のような鳴き声しかなく、その悲鳴も時間を追うごとに一つまた一つと聞こえなくなっていく。
「おっと、やりすぎると全滅するからな。このくらいでいいだろう」
俺が放った魔法によって絶命したモンスターの数が五百を超えた辺りから、俺は魔法の出力を抑えていく。このままいけば全滅は簡単だが、後方にいる冒険者たちの分も残しておかなければならないため、生き残っているモンスターの数が百匹前後くらいになったところで、魔法を解除した。
結界内には焼け焦げたモンスターの死骸と、電撃によってかなりのダメージを負った動きの鈍ったモンスターのみという状態となっており、これならば万全な状態の冒険者たちならば問題なく戦えると判断した。ってか、ちょっとやり過ぎたかも。……上手に焼けました?
規定以上のモンスターを倒したことを確認すると、結界を解いてその場を後にする。そして、未だ霧に包まれている冒険者たちの視界を元に戻してやるため、先に使ったブラインドミストを解除する。
あれだけの濃霧に包まれていたのが嘘のように晴れていき、冒険者たちの視界が開ける。彼らの視界が戻る前に再び姿と気配を殺し、最後の確認のため、成り行きを見守った。
「い、一体何が……」
「お、おいっ、あれを見ろ!」
「な、なんだ? モンスター共の様子がおかしいぞ」
視界が開けたことで、冒険者たちがようやく周囲を見渡せるようになる。そして、彼らがモンスターに目をやると、そこには異様な光景が広がっている。なんと、モンスターの群れが何かに襲われたかのように瀕死になっており、そのほとんどがすでに死骸となっているではないか。……うん、俺がやって自分で言ってる。これこそまさに自作自演だな。
まさか、異世界に来てまで自作自演という文化を体現するとは思わなかった。だが、これもすべては依頼主の要望であるからして、文句はすべて冒険者ギルド……ギルドマスターに言ってくれ。
などと、考えているとようやく状況を理解し始めた冒険者に向かって、アロスが大声で指示を出す。
「聞け。なんだか知らんがモンスターたちが弱っている今がチャンスだ。生き残っているモンスターどもを駆逐するのだ。俺が先陣を切る気概のある奴は俺に続け!」
どうしてそうなってしまったのかは理解できないが、俺が何かしたことだけは把握しているため、アロスはそのまま突っ込んでいく。それを見た冒険者たちもギルドのトップが先頭に立ってくれている安心感からか、ほとんどの冒険者が彼に続いた。
冒険者たちがモンスターに近づくと、やはり何者かの攻撃を受けてほとんどのモンスターが瀕死状態であることがはっきりと視認でき、どうしてそうなってしまったのか明確な理由はわからないが、ひとまず生き残ったモンスターたちを攻撃していった。
モンスターたちのランクが高くなかったことと、俺が瀕死状態にしていたこともあって、一時間と掛からず生き残ったモンスターたちはすべて討伐された。
ちなみに、俺がここに残った理由は、仮にモンスターの群れが生態系による自然的な発生ではなく、セラフ聖国の時みたいに人工的なものであった場合、追加でモンスターが現れるという不測の事態に備えていたためだ。
しかし、今回は突発的かつ自然的なモンスターの群れだったようで、俺の心配事は杞憂に終わった。
モンスターの群れをすべて討伐したことを見届け、何も問題がないことを確認した俺は、後のことは連中に任せて、そのまま街へと戻ることにした。
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