ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
405話「べラム大陸にSSランク冒険者がいない理由」
「まあ、とにかくだ。今この街に大量のモンスターが迫っている。街を守るためにも是非とも参加してくれ。もちろん、報酬は弾むぞ? それと、そこの小僧は今すぐ俺の部屋に来い」
あれから、何とかシリアス状態へと戻し、アロスが場を取り繕う。冒険者たちも俺とファーキのやり取りで緊張感がなくなったのか、落ち着いた様子を見せている。どうやら、俺の場を和ませる渾身のギャグが通じたらしい。……ん? ギャグですが、何か?
しかしながら、アロス一人は騙されてくれなかったのか、鋭い視線をこちらに向けつつ部屋に来るよう俺に言いつけた。俺の正体がバレたのか、はたまたただ単に悪戯をした餓鬼に鉄拳制裁をお見舞いするのかはわからないが、どちらにせよあまり良いことではないというのは間違いないだろう。
それから、受付カウンターにて緊急依頼の受注の受付が始まった。当然だが、この緊急時に通常の依頼を受ける余裕などはないので、他の依頼を受けることはできない。それでも、俺のギャグの効果かギルドにいた冒険者のほとんどが緊急依頼を受ける運びとなった。
そんなこんなで、俺はギルドマスターの部屋に赴いた。部屋に入ると、俺に背中を向きながら窓の外をアロスが仁王立ちで眺めている。そして、そのまま黙っていると、ゆっくりと彼が口を開いた。
「さっきは助かった。このギルドの代表として感謝する」
「ただの悪戯だ。気にする必要はない。で、そんなことをわざわざ言うために呼んだのではないのだろう?」
「なら、単刀直入に聞く。坊主、お前【依頼屋(クエストブレイカー)】だな?」
何の因果か知らないが、その二つ名は気付いた時にはいつの間にか冒険者の間で浸透していたものだ。名前の由来としては、依頼達成率が百パーセントで受けた依頼を必ず達成させるという理由から付けられたものらしい。
俺としては、達成可能な依頼だけを受けていただけという至極当然なものなのだが、周りの連中からみればそうは思っていないらしく、依頼達成率百パーセントの冒険者ということで、依頼の掃除屋……略して依頼屋という二つ名が付いてしまったのだ。
そして、その二つ名をアロスが知っているということは、俺がSSランクの冒険者であるということを知っているということと同義であり、俺がギルドマスターの部屋に呼ばれた理由は言うまでもなく、モンスターの群れに関してだろう。
「俺はただの冒険者さ。それに、その呼び方を認めたつもりはない。よって、俺はそのクーポンババロアなどというおかしな名前の冒険者ではない」
「クエストブレイカーだ! なんだその珍妙な名前は!? まあ、二つ名についてはこの際関係ない。大事なのは、お前がSSランクの冒険者であることだ」
そう言って、真剣な表情を見せるアロスだったが、次の瞬間には頭を下げて俺に懇願してきた。
「頼む。聞いていた通り、この街にモンスターの大群が向かってきている。このままでは街に少なくない被害が出てしまう。お前の力を貸してくれ」
SSランクとはいえ、俺のような成人してない子供に頭を下げることはいい大人としてはあまりやりたくはないだろう。だが、それでも自分が頭一つ下げることで、街一つが救える可能性が上がるのなら、いくらでも頭を下げるという気概がアロスから感じ取れる。
彼の言葉を受けて改めて思案する。正直に言ってしまえば、街に向かってきているモンスターの群れをどうにかすることは、可能か不可能かの二択で言えば可能である。だが、仮にアロスの、冒険者ギルドの依頼を受けてモンスターの群れをどうにかすると、その先に待っているのはいろいろと面倒臭いあれこれだ。
そういったこともまた、人生には必要なことだと割り切っているとはいえ、自ら望んで突っ込んでいくほど愚かでもなければ、目立ちたがり屋でもないのである。そういうのは、目立つことが仕事の連中に任せればいい。
「依頼受けるのは問題ないが、いくつか条件がある」
「なんだ。できることならば、なんでも言ってくれ」
「まず、俺がSSランクの冒険者であることの秘匿だ。Sランクでもちょっとした騒ぎになるのに、SSランクの冒険者がいるとなれば、騒ぎどころの話ではない」
これは、今回の目的にも関わってくることなのだが、俺がこのべラム大陸にやってきた目的は、モンスター農園を襲撃したアルカディア皇国の動向を探ることだ。
まあ、個人的には新たな場所に行って観光するというのがメインなのだが、潜入する以上あまり目立った行動は避けるべきだ。情報というものはどこから漏れるかわかったものではないし、情報を知っている人間が少なければ少ない程、敵対する組織に情報が伝わる速度が遅くなる。
まあ、モンスター農園を襲撃した連中が国に帰還できていないこの状況で、襲撃が失敗したことを知る術はないのだが、そこはあれだ。ほら、神のみぞ知るってやつだ。 意味がわからないだと? 奇遇だな、俺もだ。
「了解した。お前の情報は伏せることを約束しよう」
「二つ目は、報酬は先払いで百万ジークだ」
「……それだけでいいのか?」
俺の提示した金額に、思わずアロスが聞き返す。基本的に冒険者がギルドから報酬を受け取る場合、依頼を達成しその事実が確認されて初めてギルドから報酬を受け取ることができる。それが通常であるため、依頼を達成する前に報酬を受け取ることはできないシステムとなっているのだ。
だが、何事においても例外というものは付き物で、今回目立ちたくないという事情があるため、初めから報酬を受け取りその後の手続きは依頼達成後にすることで、依頼を完了させた後そのままとんずらすることもできるというわけだ。
先払いのデメリットとして、報酬だけ受け取って依頼を達成せずにそのままいなくなるという場合がある。その可能性を考慮に入れ、通常ではありえないほどの破格の値段を提示した。
アロス大陸におけるSSランク冒険者の一般的な報酬額は大金貨数百枚からであり、その単位が白金貨になることも珍しくはない。だというのに、今回俺が提示したのはたったの百万ジーク、アロス硬貨換算でたったの小金貨一枚なのだ。
「先払いでもらう以上、俺が依頼を達成せずに持ち逃げする可能性を考慮しての金額だ。後払いなら一億ジークになる」
「まあ、それくらいはするだろうな。世界に四人しかいないSSランクなのだから」
「この大陸には、SSランクはいないのか?」
「ああ。それはこのべラム大陸の事情と関係があってな」
アロスの返答に気になったことがあったので、俺は素直に聞いてみた。何でも、べラム大陸は今まで大きな戦争が連続して起きており、それを主導で行っていたのがアルカディア皇国だ。そして、長き戦いに終止符が打たれ、べラム大陸のほぼ全土がアルカディア皇国のものとなってしまったらしい。
かつてはSSランクの冒険者もいるにはいたらしいのだが、戦争によって貴重な人材が失われ、べラム大陸の冒険者ギルドはSSランクの資質を持った人材をアロス大陸に逃がす段取りが組まれるようになったのである。
「なるほど。関係ない話だが、アロスという名前のあんたが、アロス大陸の話をすると、なんだかややこしいな」
「ああ、それも関係なくない話でな。俺の爺さんのそのまた爺さんのさらにさらに爺さんの爺さんの代からその取り決めが始まったとかで、アロス大陸に関連付けた名前を付けるようになったんだ。ちなみに、俺で十二代目だ。俺の親父が、もう似た名前を付けるのが面倒だってんで、そのままの名前を付けちまったっていう話だ」
どうやら、アロスの一族は代々冒険者ギルドのギルドマスターを務めており、べラム大陸でSSランクの資質を持つ者を見極め、アロス大陸へと逃がす役目を担っているらしい。
他にもこの大陸についての詳しいことを聞き出したかったが、今も着々とモンスターの群れが接近中のこの非常時に話し込んでいる場合ではないということで、早々に先払い報酬の百万ジークを受け取る。
「……本当にこれだけでいいのか?」
「ああ。そのかわり、俺の痕跡をできる限り残さないでくれ。それを報酬の代わりとしてくれて構わない」
そんなこんなで、俺が納得しているということで、最終的にはアロスも百万ジークの支払いで合意してくれた。
それから、モンスターの対処について詳細な打ち合わせをしたのち、俺はアロスの部屋を後にし、現場となっている街の外へと向かった。
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