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ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

404話「冒険者ギルドと新しいアレ?」



 マニール商会との取引を完了させた俺は、ほくほく顔で冒険者ギルドへとやってきた。三百二十万ジークという大金を手に入れることに成功した今の俺だが、今まで所持していた金銭からすれば、微々たるものでしかないため、ここからさらに金を増やしていきたい。そんな時に役に立つのが、冒険者ギルドである。


 冒険者ギルドは、街の住人からの依頼による雑用から、特定の地域に分布する素材やモンスターを入手または討伐するという一言で表せばなんでも屋の側面が強い職業だ。


 時には命の危険がある依頼を受けることがあるため、荒事に慣れているならず者がやる仕事としても広く知れ渡っているが、中にはまともな連中も一定数存在している。そのため、一概には何とも言えない。


 こちらの大陸の冒険者ギルドは、特に変わったところは見受けられず、いつもの受付カウンターと酒場が一緒になったよくある内装だ。


 俺が中に入ると、冒険者たちの視線がこちらに集まったが、俺が子供だと知るとすぐに興味を無くしたようで、視線を元に戻す。今まで子供だからという理由で絡んできた奴もいたので、今回もテンプレ的なものがあるのかもしれないと思っていたが、予想に反して何もなかったため、少々肩透かしを食らった。


 まあ、個人的には何もないことに越したことはないので、何もないならそれでいい。こちらに敵意を向けてこない限りは何かするつもりはない。俺は平和主義者なのである。


 とりあえず、例のアレがこの大陸でもあるのかと思い、さっそく該当する受付嬢を探してみる。だが、俺が期待したものとは裏腹に、どうやら眼鏡で巨乳なお姉さんも愛らしいコルコルした後輩の姿もいない様子だ。


 まだこの大陸すべての街を回ったわけではないので、この一か所で結論付けてしまうのはどうかとは思うが、この街にはアレはなかったようだ。


「あのー、さっきから何を見ているのですか?」

「ん?」


 俺が不審な行動を取っていることを訝しくに思ったのか、受付にいた女性職員が声を掛けてきた。よく見ると、端正な顔立ちをしており、体つきも眼鏡巨乳お姉さんとタメを張れるくらいに豊満だ。これは、かなり人気の受付嬢さんだろう。


「いや、この土地に初めて来たんでな。俺の目にはいろいろと珍しく映っているだけだ」

「そうでしたか。ようこそ冒険者ギルドへ。ギルドカードがございましたらご提示をお願いします」


 俺の説明で納得してくれたのか、先ほどの不審なものを見る目は霧散した。美人のそういう視線は、偏った癖を持っている方達からすればご褒美なのだろうが、まともな神経を持つ人間ならあまりいい気分ではない。……なに? まともな神経を持つ人間じゃない? HAHAHA、ちょっと言っている意味がよくわからないな。


 受付嬢の言葉に従ってギルドカードを提示する。もちろん、本来のランクが記載されたものではなく、ちゃんと偽装をしたギルドカードを提示しておく。馬鹿正直に提示して余計な面倒事を抱え込む必要性はない。これも立派な処世術である。


 幸いなことに、ギルドカードが偽物であるかどうかの判定は、魔道具などの魔法的なチェックではなく、職員による目視での確認だったため、俺のギルドカードが細工されたものであるということは気付かれなかった。ギルドとしては、俺の偽装を見破れなかったことは問題だろうが、ギルドの規約には“幻術を使って本来記載されている内容以外の情報を職員に誤認させてはいけない”という記載はどこにもないのだ。


 多少なりとも曲解した解釈であるという自覚はあるが、こういったことはバレなければ問題になることはないのだ。そう、バレなければ……。


「ローランド様ですね。初めまして、私はこのギルドの職員をやっているマリへルと申します」

「ローランドだ。よろしく」


 身分確認が終わったタイミングで、受付嬢が自己紹介をしてくる。うーん、マリヘルというのか。この名前は聞き覚えがある。確か、前世でよくやっていた国民的RPGに登場するヒロインがそんな名前だったような気がする。


 などと、相手からすれば何のことか訳のわからないことを考えていると、マリベルが俺の用向きと問い掛けてくる。


「ローランド様、本日はどういった用件でしょうか?」

「ああ、そうだな。今日は――」

「た、大変だ! モンスターの群れがこの街に向かってる!!」


 俺が彼女の問いに答えようとしたのを遮るように、ギルドの入り口から叫び声が上がる。どうやら、外へ出ていた冒険者だったらしく、息を切らしながらも正確に情報を伝えてきた。それを聞いた瞬間、場の雰囲気が一転し、張りつめた緊張感が漂う。


「モンスターの群れ? 数は?」

「数は千には届かない。いたとしても六百から八百くらいだ」

「どんなモンスターがいた? 種類は?」

「主にゴブリンやオークなどの二足歩行型が多い。だが、中にはウェアウルフやハイコボルトのすばしっこい奴もいて厄介だ」

「面倒だな」

「話は聞かせてもらった。これよりギルドからの緊急依頼を出す」


 情報を持ってきた冒険者に他の冒険者がそれぞれ問い詰めていると、ギルドのバックヤードから大柄な男が現れる。纏っている雰囲気からしてギルドマスターなのだろう、彼の一声で騒然としていた場が静まり返る。


「依頼主は当然ギルド、つまりはこの俺アロス様からということになる。各々実力を鑑みて依頼を受けてほしい。ただし、ガホとカイラとメルヒン。お前らは強制参加だ」

「えぇー、そりゃねぇよギルマス!」

「そうよそうよ。あたしたちにも依頼を受けるかどうかの権利はあるじゃない!」

「オイラ、腹減っただ」


 緊迫した雰囲気が、三人組冒険者の叫びで和やかになる。というか、アロスにガホにカイラ、メルヒンって……どこかで聞いたような名前なのは気のせいなのか?


 俺の予想が正しいのであれば、あと一人足りないのだが、あの放蕩息子の金髪王子はいないのだろうか?


 モンスターの群れよりも、足りない残り一人の所在が気になり出した俺だが、それはすぐに解決することになる。


「おう、早いとこモンスター共を殲滅して素材を持って帰ってきてくれよ」

「ファーキか。仕事はもう終わったの――」

「金髪じゃない……だと。というか、ハゲとるやないかい!」


 あまりの衝撃的な登場に思わず心の声が出てしまった。まさか、解体を受け持つ職員が残りの一人だったとは……。しかも、金髪ではなく頭はスキンヘッドとそこの法則は受け継いでいるという謎な状態に叫ばずにはいられなかったのだ。


 あまりに脈絡のない叫びに全員の視線がこちらに向く、そして当然の帰結というべきか、俺が発した叫びにスキンヘッドのファーキがあの返しを口にする。


「ハゲてねぇよ! いつも言っているが、これは剃ってんだ!!」

「剃ってようがなんだろうが、髪の毛がないことに変わりないだろっ!!」

「ぐっ」


 俺のもっともらしい突っ込みに、耐え切れなくなった冒険者たちが腹を抱えて笑い始める。


 結果的にモンスターの群れの襲撃という悲劇から、髪の毛がないという事実を突きつけられてぐうの音もでない男の喜劇へと成り下がってしまうのであった。

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