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ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

395話「商会の裏事情とプレゼント」



「いいですねそれ! やりましょう!!」

「……」


 さっそくグレッグに相談してみたが、開口一番にそのようなことを言われてしまった。それを鵜呑みにして事を進める気はなかったので、さらに深く突っ込んでみると、こう切り返された。


「そもそもの話ですが、現在坊っちゃんが関わっている商会で取り扱っている商品は、坊っちゃんが卸してくれる商品のみとなっております。ブレスレットの装飾品や木工人形とぬいぐるみなどが主だった商品で、最近になってようやくクッキーや唐揚げなどといった食品に手を出し始めたといったところです」

「つまりはどういうことだ?」

「端的に言えば、取り扱っている商品が少なすぎるのです。商品の種類的には十数点ほどがございますが、大手ともなれば百を超える種類の商品を取り扱っているところなどザラにありますよ?」


 要約すれば“もっと取り扱う商品を増やしたい”といった思いを抱いていたが、商会として取り扱う商品は俺が卸す商品に限定されるため、新たなルートを確立するのを躊躇っていたようだ。


 だが、俺はそんなことを言った覚えはなく、他のところで仕入れてしまうとその分コストが掛かってしまうため、自分で用立てた方が掛かる費用を抑えられるというだけの話だ。


 実際、装飾品の一つであるシュシュに関しては、原材料となる布地は他の店から仕入れており、その分がシュシュの代金に上乗せされているのが現状だ。


 だから、各商会が独断で新たな仕入れルートを確立しようともなんら文句はない。ただ、自分で用意した方がお金がかからないというただ一点のみがネックとなっているだけなのだ。


「そういうことだから、これから仕入れたい物があるならそちらの判断でやってもらっても構わない。ただし、今扱っている商品はほとんど俺が用意しているものだから、店頭に並ぶ際には、今まで通りの価格で販売すると赤字になることだけは考えておいてくれ」

「わかりました」


 商会の運営については各商会長に押し付け……もとい、丸投げ……否、任せている。だから、赤字を出すも黒字を出すも責任者である商会長の手腕次第だ。


 尤も、俺が立ち上げるきっかけを与えた商会は俺というバックが存在する。俺がいる以上一回や二回失敗したところでそれを取り返せるほどの利益が上がっているため、商会の運営についてはイージーモードと言っていいだろう。


 グレッグもそうだが、他の商会にも同じことを言い含めると、納得の表情を見せた。俺とて不死身ではない。俺にばかりおんぶに抱っこでも困るのだ。


 それはそれとして、結局新たに作った装飾品については他の商品と同じく新商品として各商会で取り扱うことが決定した。念のため俺が関わっている他の商会にも確認を取ったが、そこでもグレッグと同じ返答だった。寧ろ、もっと商品を増やした方がいいと要望が出たくらいだ。


 そこは先ほども言った通り、商人としての手腕を遺憾なく発揮してほしいということで、何か有用な商品があれば各商会で仕入れと販売を行ってほしいと通達しておいた。


 とりあえず、新たな装飾品を商会で売るということは決定したので、グレッグとは簡単な情報の共有を行ってそこで別れた。


 次に俺が向かった先は、シェルズ王国の国王の執務室だ。目的は、転売事件の一件におけるティアラたちの報酬を支払うためである。


 元々、大金貨一万枚という超高額の報酬金を提示したが、彼女たちの要望は無償による労働だったため、断固として金銭や貴重品などの対価となる物を受け取ろうとはしなかった。


 冗談交じりに「体で払おうか」と言いかけたが、それはさすがにマズイと本能が感じたため、寸でのところで思い留まった。どことなく、ティアラたちが肉食獣の目つきになっていたのも、そのマズさを感じる要因となっていた。


 さっそく国王に三人を呼び出してもらったが、今日も今日とて三人で集まってお茶会を開いており、彼女たちの仲の良さが窺える。


「ローランド様お呼びでしょうか?」

「ああ、今日はお前たち“だけ”に渡す“特別”な贈り物があってな」

「私たちだけ……」

「特別……」

「……」


 俺の言葉にティアラ、ファーレンの順に呟き、武人気質のローレンに至っては、感無量といった具合に目を瞑って何かを噛みしめている様子だ。プレゼントを贈る側としては、喜んでくれることは冥利に尽きるのだが、そこまで大したものではないところが逆に何か申し訳なさを感じる。


「今回は、女性というよりも年頃の娘という点に絞って選んだつもりだ。受け取ってくれ」

「……それでしたら遠慮なくいただきます」


 今回俺が渡すプレゼントが、転売騒動の一件に対する報酬であることは三人とも気付いているようで、本音は受け取りたくはない様子だ。だが、俺が口にした“だけ”と“特別”という言葉に惹かれているのか、最終的には受け取ることを選択した様子だ。俺としても受け取ってくれた方が助かるので、彼女たちの判断は素直に有難い。


 そういうことで、俺はストレージから三つのプレゼント箱を取り出す。しっかりとカラフルな紙に包装されたもので、それをリボンで結んであるという典型的なプレゼント箱だ。


 一見するとビックリ箱のように見えなくもないが、今回はドッキリを仕掛けるつもりはないので、正真正銘のプレゼント箱なのだが……。


 そんなことを考えていると、プレゼントを受け取ったティアラたちが開封の儀に移っていた。さすがはやんごとない身分の方々であって、ティアラとファーレンの二人が綺麗に包装紙を外していく。武家の出であるローレンはそういった作法を気にもせず、包装紙をビリビリと破いていくというワイルドな開け方をしている。


 そして、包装紙に包まれた箱を開けると、そこには一匹の真っ白なぬいぐるみと対面する。俺が作った毛玉スライムだ。


 ふさふさの白い毛が生えたモンスターの毛皮を使用し、毛玉のような丸みとスライムのような柔らかさを兼ね備えたぬいぐるみだ。


「ローランド様これは?」

「俺が作った毛玉スライムだ」

「とっても柔らかくてかわいいです」

「これはいいものですね」


 箱の中身について問い掛けるティアラと、さっそく手触りを確かめようとするファーレンとローレンとにリアクションが別れた。最終的には、ティアラもぬいぐるみを気に入ってくれたのでよかったのだが、ここで予期せぬ来客があった。


「あらあら、何やら騒がしいですね」

「お母様」


 国王の部屋にやってきたのは王妃のサリヤだった。彼女とは、ちょくちょく会うのだが、大概国王に対する夫婦漫才を見せられているからか、王妃というよりも知り合いの奥さんという印象が強い。


 そんな彼女だが、一国を治める国王の妃だけあってたまに核心を突くような指摘をすることがあるのだ。


「ところで、騒いでいた原因は三人が持っているぬいぐるみかしら?」

「三人には世話になったからな。そのお礼に贈らせてもらった」

「そう、いいわねぇ。ローランド様、私にも一つくださいませんか?」

「うん? このぬいぐるみをか?」


 サリヤの突然の申し出に思わず聞き返す。女性とはいえ、二児の子持ちである彼女がぬいぐるみを欲するということがあまり大人の女性としてイメージしにくかったからだ。そんな俺の内心を悟ったように彼女は言葉を続けた。


「私とて立派な大人ではありますが、だからといってぬいぐるみを愛でてはいけないという法はありません」

「確かに。だが、困ったことにこれはあくまでもティアラたちだけに贈った特別なものだ。彼女たちの許可なく第三者に与えることはできない」


 サリヤの言葉は尤もであり、否定する理由はない。だが、この毛玉スライムはティアラたちのプレゼントだ。だから、俺はサリヤに言外で伝えた。


“このぬいぐるみが欲しければ、ティアラたちの許可を取れ”と……。


 俺の隠れたメッセージを受け取ったサリヤが、さっそくティアラたちへと詰め寄る。その雰囲気はまさに王妃としての気品と権威に満ち溢れていた。


「ティアラ。お母さんもこのぬいぐるみが欲しいのだけれど、もらってもいいかしら?」

「は、はい。もちろん構いません」

「ありがとう。私はいい娘を持って幸せだわ。あなたたちもそれで構いませんね」

「「は、はい」」

「ありがとう。というわけで、ローランド様。娘たちの許しは得ました」


 言葉は丁寧なのにもかかわらず、その有無を言わせぬ立ち居振る舞いはまさに王妃としての才覚を十二分に発揮していた。だが、それがたかがぬいぐるみ一つを手に入れるためという理由なのが何とも言えないところである。


 俺としても、ティアラたちが許可した以上は王妃にも同じぬいぐるみを出さないという選択肢はなく、素直に王妃にも毛玉スライムをプレゼントする。


「どうぞ」

「ありがとうございます。ああ、とても柔らかくていい手触りだわ」


 ひとしきり毛玉スライムの感触を楽しんだサリヤは、俺や国王に一言挨拶をして部屋を出で行った。まるで嵐のような出来事に、その場にいた全員が唖然とするのであった。


 余談だが、王妃にプレゼントして妹にはしないというのは可哀想だということで、ティアラの妹であるシェリルにも毛玉スライムをプレゼントすることになったことを付け加えておく。

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