ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
394話「女の子がもらって嬉しいもの」
工房へとやって来た俺は、さっそく新たな商品開発に向けて作業を開始する。今回は多くの鉱石が手に入ったため、生み出す商品も限られてくるのだが……。
「ここは“少女”という点に絞って作った方がいいな」
偶然なのか、今回贈り物を行う相手は十代であり、まだまだ女性というにはほど遠い年齢の人物ばかりだ。となってくれば、贈り物で喜ばれる物も宝石などの貴金属より他の物がいいと考える。
下手に指輪やネックレスなどの装飾品を渡してしまうと、重く受け取られかねない可能性があり、特に指輪などはあまり親しい異性に軽々しく贈るものではない気がする。
それで勘違いされても困るし、この世界にも指輪=婚約指輪または結婚指輪という概念が存在する。それがある以上、気のない相手にそういった物を贈るということは避けるべきだろうし、何より……。
「最初から指輪だと、次贈り物をする時のハードルが上がってしまうだろうからな」
できるならそのような機会が頻繁に起こらないことを祈るばかりだが、そういう思いとは裏腹に起きてしまうのが世の中の摂理というものだ。
だからこそ、今回はちょっとした簡単なものを贈るべきだが……。さて、どうしたものやら。
「ぬいぐるみか」
少女、勘違いされにくい、簡単という条件に見合うものといえば、やはりぬいぐるみだろう。そして、今回は少し趣向を凝らして、実在しない生き物……所謂ファンタジーな生き物を作ってみることにした。
まず用意するのが、白毛を持つモンスターの皮だが、これはすぐに該当するモンスターがいたのですぐに用意できた。そして、中の空洞を埋めるための綿毛と今回手に入れた水晶。材料はこれだけになる。
モンスターの皮を楕円形または球体状になるよう縫い合わせていき、中の空洞に綿毛を詰め込む。目の部分となる位置をくり抜きそこにぴったりになるよう研磨した水晶を嵌める。取れにくくするために接着剤代わりとなる粘着性のあるモンスター由来の粘液を使用し、嵌め込んだ水晶が取れないようにする。
そこまでできれば、白毛の部分を手触りのいい長さにカットし、縫い目がほつれていないかなどのチェックを行えば完成である。
「じゃーん、毛玉スライムの完成だ! といっても、毛玉スライムなんて生き物はいないんだけどな」
なんということでしょう。ただのモンスターの皮と水晶だったものが、匠(俺)の技術によって新たな物を生み出してしまったではあーりませんか。
もにゅもにゅとした柔らかさと、手触りのいいふさふさの毛が何とも心地いい。元々使われているモンスターの毛皮の質が良く、中の綿毛との相性も悪くないようで、ぬいぐるみとしてはもちろんのことちょっとした癒しアイテムとしてもその効力を十分に発揮してくれることだろう。
その見た目はまさにスライムだが、実物のスライムとは違い不定形ではない。そこはぬいぐるみとしての限界らしく、楕円形を留めている。
完成品をしばらくいじくって満足した後、確認のために同じ工程で作っている最中プロトが声を掛けてきた。
「ゴシュジンサマ、ナニヲツクッテオラレルノデスカムー?」
「……ぬいぐるみだ」
「ソレハショクニンゴーレムデフヤサナイノデスカムー?」
「……ああ、そうだな。そうしてくれ」
「カシコマリマシタムー。スグニジュンビイタシマスムー」
作業に集中していた俺は、プロトの問いにおざなりに返答する。そして、残りの二つを仕上げ、ティアラたちにプレゼントするぬいぐるみが完成する。
だが、まだ材料が残っているということと、さらに品質や工程の簡略化を行えないか試行錯誤した結果、新たに数十個の毛玉スライムのぬいぐるみが出来上がった。
そうこうしているうちに、気が付けば再びプロトが傍に立っていて、何かの準備ができたことを告げる。
ぬいぐるみの作業に夢中で話を聞いていなかった俺だったが、案内された光景を見て理解した。それが、毛玉スライム(仮称)を生産するためのラインであるということを……。
見たところ、ぬいぐるみに使ったモンスターの毛皮を加工するためのラインのようで、今は素材がないため稼働はしていないが、どことなく待機している職人ゴーレムが寂しそうに見える。試しに毛玉スライムの素材をいくつか提供してみると、すぐに稼働を開始し、俺とほとんど変わらない品質のものが出来上がってきた。
俺としては、この毛玉スライムの需要自体があるかわからないため、生産ラインを構築するつもりはなかったが、ここまで来てしまっては使わないわけにはいかず、再びダンジョンに赴いた。
ただのお使い程度の作業であるため詳細は省くが、大本の素材となる白い毛並みのモンスターの毛皮を持っているモンスターは、ダンジョンの百階層を超えたところに生息する相手だ。そのため、俺以外では定期的な調達は困難だが、俺の戦闘ゴーレムであればそれが可能となるため、モンスターの毛皮の調達は彼らに一任する。
さらに、ぬいぐるみの中身である綿毛もまたダンジョン産の綿毛であり、こちらは採取をメインとするゴーレムに対処させることで、あっという間にすべての素材がタダで手に入ってしまった。
これで、この無意味な毛玉スライムのぬいぐるみの量産体制が整ったことになるのだが、残念ながら需要がない商品の生産ラインを整えたところで、あまり意味はない。
「まあ、一応何かの役に立つ可能性を考慮して残しておくか」
何が起こるかわからないのが人生であり、商いというものであるからして、生産ラインを確保しつつ、プロトに指示を出して一日に数体程度の生産に留めるようにしてもらった。
ティアラたちのプレゼントであるぬいぐるみについてはこれで一旦終了させ、続いてダンジョンで手に入れた鉱石の使い道について考えることにした。
「まあ、普通に考えたら装飾品だよなー。それ以外となると、騎士や冒険者とかが使う装備品か、ニッチなところを狙うなら、各職業に合わせた専門器具とかもありかもしれんな」
今回のダンジョン攻略で、金や鉄などの今まで入手ルートが確保できていなかったものが手に入ったことで、できるこが増えた。それはいいことではあるが、逆に選択肢が増えたことで仕事量も増えた気がするのは俺の勘違いではないだろう。
ともかく、各鉱石を使った装飾品とそれなりに品質のある武具を作ってみたが、どれも超解析でかなりの高額取引が可能というお墨付きをいただいた。それはいいことではあるのだが、装飾品はともかくとして現在俺が出資している商会は、どこも武具は取り扱ってはいない。ただでさえ、今も忙しく働いてもらっている商会の人間の仕事を増やすことに繋がることは目に見えており、新たなジャンルの開拓となるため、また新しい人材を雇うことになるのは目に見えている。
「これは、各商会の商会長たちに相談する必要が出てきたな」
新しい商品を売るということは、悪いことではない。だが、売り出す商品の分野によっては今までとは勝手が違う商品に、従業員たちに負担が掛かってしまう可能性があるのだ。
個人的にはホワイト企業を掲げている――と、俺は思っている――各商会としては、ブラック寄りな業務形態になることはできれば避けたいところなのだ。
とにかく、一度相談する必要があるため、俺は一度グレッグ商会へと足を運ぶことにした。
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