ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
390話「根回し」
「どーも」
「お前か、今日はなんだ?」
瞬間移動でやってきたのは、いつもの執務室だった。そこには眉間に皺を寄せ、何やら書類作業を行う一人の中年男性がおり、明らかに期限が悪そうである。
言わずもがな、その中年男性というのはシェルズ王国の国王その人であり、一国の頂点に君臨するこの国最高の権力者だ。
今回の相手は権力を行使してくるであろう貴族が関わっている。であるならば、目には目を、歯には歯を、権力には権力をの精神をもって事に当たらせてもらうことにしたのだ。
「ティアラはいるか?」
「ほう……ついに娘の婚約を受け入れる気になったか」
「笑えない冗談だ。それよりも、ティアラをここに呼んでくれ」
この国王……ゼファーは俺を有能な人物であると認めており、ティアラという駒を使って何とか王家に取り込もうと画策しているようだが、俺には一切関係のないことであるため、すげなく断っている。その他にも、柵となる爵位や領地についても同じことが言えるので、こちらも断固拒否だ。
せっかく貴族の次期当主を弟に押し付け……もとい、譲って自由を手に入れたのに、、自らその自由を捨てるような愚かな真似はできない。尤も、そういった柵以外に商会や孤児院の運営などにも関わっているため、貴族とは違った柵があるような気がしなくもない。
要は自主的な柵か強制的な柵かの違いであり、その違いでしかない。だが、それが絶望的に大きな違いでもあった。
「そういえば、お前のところの商会で面白い商品が出たと聞いた。確か、ミックスジュースとかいう飲み物だと聞いたが」
「ああ、飲むか?」
どこからか小耳に挟んだらしい国王がそんなことを聞いてきたので、宣伝ついでに取り出してやると、顔を綻ばせながら取り繕うようにして口にする。
「すまんな、なんだか催促したようで」
「問題ない」
「では、いただこう。んぐ、これはっ……美味いな」
どうやら、王である国王の口にも合ったらしく、そんな感想をいただいた。しばらく、待っていると突然執務室の扉が勢いよく開かれた。何事かと視線を向けると、肩で息をしたティアラがおり、その姿から俺の呼び出しがあったと聞いて飛んできたようだ。
「はあ、はあ……こほん、呼び出しによりまかり越しました」
「あ、ああ」
辛うじてそう返した俺だが、まったくもって取り繕えていないティアラの姿に王女とは王族とは一体何なのだろうなと疑問が浮かぶ。そう思い視線を国王に戻すと、俺の視線の意味を理解した国王が苦笑いで言い訳染みた台詞を紡ぐ。
「ティアラもお前に会いたかったのだ。だが、迷惑になるからと押し掛けるようなことはしなかった。……何度かそういうことはあったがな」
「……」
最後の台詞は聞きたくなかったが、彼は彼なりに俺に気を遣っていたらしい。とりあえず、備え付けのソファーに座りまずは当たり障りのない世間話をしつつ様子を見る。
そんなやり取りをしていると、何故か遅れてやってくるようにローレンとファーレンが現れた。どういうことかと思っていると、ティアラがその疑問を解決してくれた。
「今日はこの二人と一緒にお茶をしておりましたの。今後の対策についての定例会ですけど」
「その対策が何なのかは聞かないことにしよう。じゃあ、さっそく本題に入らせてもらう」
王家のいろいろな思惑を聞かされてしまったような気がするが、それをすべてなかったことにして彼女たちに呼び出しの要件を伝える。すると、王女らしからぬ不釣り合いな台詞が返ってきた。
「潰しましょう! 今すぐ私の権限において商会ごと……いいえ、その加担している貴族も同罪ですわ」
「落ち着け。そんな下らないことで王家の威光を使おうとするな!」
俺が詳しい状況を説明すると、目を据わらせたかと思ったら過激なことを言い始める。そもそも、一国の王女が潰すとか簡単に言うんじゃない。国としての品位が疑われるぞ。
俺としてはそんな風に諫めたつもりだったのだが、逆にこちらに対して反論する勢いでティアラが言い始めた。
「何を言っているのです? こんな時に権力を使わないくていつ使うというのですか!? それに、ローランド様だってそういった力に頼りたいからこそ私に話を持って来たのでしょう?」
「そ、それはそうなんだが。くそう、否定したいのに実際そうだから反論できん」
そう口にすると、「そうでしょうそうでしょう」とばかりに胸を張ってティアラはドヤ顔を披露する。そんな彼女に対し、恨みがましい目を向けていると、話を聞いたローレンとファーレンも今回の一件に参戦したいという申し出があった。
「話を聞くと、そのお役目は王族であるティアラ様でなくとも十分ということでしょう?」
「でしたら、私たちも参加させてくださいませ! 是非とも、ローランド様のお役に立ちたいのです!!」
その気持ちは有難いのだが、彼女たちとて一貴族の人間だ。当然、何かの役割で動くからにはその見返りを求めてくるだろう。そして、その見返りは決して軽いものではないし、軽くしてはならない。
「なら、報酬として大金貨一万枚を支払うというのはどうだ?」
「何ですって?」
かといって、その対価を払うものがなく、とりあえず一人当たり大金貨一万枚を提示してみたのだが、三人とも突っぱねやがった。金額が足りないのかと思い、二万枚、三万枚と金額を吊り上げてみたものの、その度に彼女たちの顔が険しくなっていくのが見て取れる。どうやら悪手だったらしい。
すると、突然目の前の机をバンと叩いたかと思ったら、ティアラが怒った様子で俺に詰め寄ってきた。女の子が怒っている姿であるため、怖くはないがどこか有無を言わせぬ圧迫感があるのは気のせいではないだろう。
「ローランド様! そんな冷たいことを言わないでくださいまし!!」
「そうです。私たちは、あなた様にいろいろと救っていただきました。その恩返しがしたいのです!」
「恩返しに対価を求める者などおりますでしょうか? そんな恩知らずな人間に私たちはなった覚えなどありません!」
ティアラ、ローレン、ファーレンの順にそんな言葉が返ってくる。いきなりそんなことを言われて面を食らってしまった形となったが、よくよく考えれば、彼女たちにはいくつかの貸しがあったことを今になって思い出す。
しかし、元から返してもらう気のない貸しだったため、あまり思い出せなかった。ならば、その貸しとやら今回の件で返してもらうとしようか。
「なら、タダ働きでいいんだな?」
「「「はい!」」」
まあ、元気なお返事でいらっしゃること……。まあ、そういうことなら、彼女たちの厚意に甘えるとしようじゃないか。
それから、詳しい打ち合わせを行い、来たる決戦に向けての作戦を練った後、その日はそれで終了となった。余談だが、そのあと彼女たちにもミックスジュースを振舞ったのは言うまでもない。
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