閉じる

ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

389話「ギルドと結託」



「な、なな、何故、あなた方がここにおられるのです!?」


 そう叫びながら狼狽える貴族を、俺は冷ややかな目で見つめていた。その経緯を説明するために今から数日前の出来事を話していこう。


「……共同販売?」

「そうです。コンメル商会と商業ギルドで同時にミックスジュースを販売します。コンメル商会では今まで通りの価格で、商業ギルドではその金額に多少上乗せした価格で販売をすることで、その価格を適正の価格として周囲に知らしめ、法外な値段で販売している商会の牽制とするのですよ」


 キャッシャーの提案とは、商業ギルドを抱き込んで一連の転売を行っている連中を一網打尽にするというものだった。確かに、彼ら商業ギルドと手を結んで行動を起こすということはいろいろとメリットがある。


 まず、この世界において商業ギルドとは、商い関連すべてのことに精通している総本山のような場所であり、商人を名乗る以上商業ギルドに関わらずに商いを行うということはほぼ不可能に等しい。


 商人は必ず商業ギルドに登録を行い、自分がどのような商いを行うのか申請をしなければならず、これを怠った商人はギルドから目を付けられるだけでなく、登録している商人たちにも信用がないということで相手にされなのだ。


 商いというのは信頼や信用が重要といっても過言ではなく、商業ギルドに登録しているということが一種の信用を得るステータスとして周知されていたりする。だからこそ、商業ギルドに登録していない非正規の商人はもぐりとして認知され、正規の商人は相手にはしない。そういった人間と関わりがあるということ自体が商人にとって醜聞となるからだ。


 そんな組織と共同で何かを行うということは、商人としてある一定の信頼と信用を獲得できているという証拠である。だが、商業ギルドに登録している商人全員が信頼と信用に足る人間かと言われればその限りではないため、ギルドに登録しているからといって商業ギルドと協力して商いを行うということ自体簡単にできるようなことではない。


 もちろん、卸業として商人が持ち込んできた商品を買い取ってギルドが販売するということは行われるが、それ以上の関係性はなく、ただの売買取引でしかない。しかしながら、商人とギルドが協力体制で一つの商いを行うということはあまりなく、それこそ余程の実績がある商人でなければ実現しないことだ。


「いいのか? うちの商会はまだできて日が浅い。そんな商会を信用してしまって、ギルドとして示しがつかなくなるんじゃないか?」

「僅かな時間で、これほどまでの実績を積んでおきながら何を言っておられるのですか。コンメル商会は、今や王都でも指折りの大商会です。寧ろ、こちらからお願いする機会を窺っておりましたところの今回の一件。私共としては願ったりな状況なのです」


 俺がコンメル商会を立ち上げた期間が短いことを告げると、そんな答えが返ってくる。どうやら、コンメル商会は商業ギルドに評価されていたようだ。


 そういうことならば、こちらとしては何も問題はないため、商業ギルドと手を組んで転売ヤーに対抗した方が、コンメル商会単体で対処するよりも高い効果が見込めるだろう。


「ということで、マチャド君?」

「え? あ、はい」

「コンメル商会の商会長は君だ。商業ギルドの意見も出たところで、どうするか君の判断が聞きたい」

「はい? 僕ですか?」


 ここで、いきなりマチャドに話を振ってみる。忘れているかもしれないから改めて言っておくが、コンメル商会の責任者は商会長であるマチャドであって俺ではない。つまり、コンメル商会に関連する最終的な判断は商会長であるマチャドにその権限があり、俺にはその権限がない。あくまでも俺は出資者と卸業を兼任している外部の人間であり、商会のあれこれについてはマチャドに一任している。


 尤も、出資者であることを考えれば、実質雇われ店長的な立ち位置であるマチャドを首にすることができる唯一の存在が俺である。だから、俺が提案したことはコンメル商会の総意であり、それに逆らう人間がいないというだけで、皆それに従っている形だ。


 マチャド本人だけでなく、コンメル商会に所属するすべての人間がそう考えているらしく、マチャドの言葉よりも俺の言葉の方が力を持っていたりする。実質的なオーナーである。


「ギルドマスターとローランド様の間で取り決めたことでしたら、問題ないかと思われます。僕は、それに従うだけです」

「それでは、実質俺がコンメル商会の主人になっているじゃないか。あの商会の代表はお前だぞ?」

「コンメル商会にいる者は、あなたに付き従います。誰のお陰で給金が支払われているのか、誰のお陰で困ることなく日々生活ができているのか。それが理解できないほど愚かな人間ではないですよ? もちろん、僕もです」


 マチャドの言葉に、俺は何とも言えない複雑な感情が浮かび上がる。俺としては、商会を立ち上げた当初の理由は、冒険者以外の稼ぐ方法を確立するための副業的なノリで始めたところがあり、決して貧困している人間を救済するなどといった慈善事業で始めたわけではない。


 結果的にもう働かなくても食っていくのに困らないほどの金は持っているので、個人的な感情としては“後はお好きにどうぞ”といった思いが強い。仮にマチャドやグレッグが傲慢になって商会長の地位を悪用したとしても、小言の一つは言うだろうが余程酷い経営を行わない限り彼らを首にすることはしないだろう。


「そうか。ということらしいので、商業ギルドとの共同販売、是非ともよろしく頼みたい」

「それはよかったです。こちらとしても是非にお願いしたいです」


 それから、詳しい契約の内容を書類として残し、商業ギルドとの契約を締結させる。具体的には、商業ギルドに卸す量はコンメル商会で扱うミックスジュースの一割から二割程度を定価で納品する。その一方で、商業ギルドは仕入れた金額に二割ないし三割上乗せした金額で販売し、売上の一割を販売元のコンメル商会に納めるという契約内容となっている。


 納品する量が多ければ多い程儲けの金額が大きくなるが、それだとコンメル商会で取り扱う量が減ってしまうため、最大でも二割に留めることにしている。


 大事なことは、転売ヤーたちの対策に商業ギルドが動いているという情報が出回れば問題ないので、納品する量は多くなくても構わない。


「これで契約成立です」

「ああ、さっそく明日からコンメル商会から納品させよう」


 契約もつつがなく終了し、キャッシャーと握手を交わして、そのまま商業ギルドを後にする。一度、コンメル商会へと帰還し、商会長の執務室へと戻った俺とマチャドは、さっそく今後の展開について話し合う。


「果たしてどう動いてきますかね」

「そういえば、転売を行っている商会の名前を聞いてなかったな。何て名前だ?」

「テンバーイ商会です。この王都でも評判が悪いで有名な商会ですよ」

「まんまじゃねぇか」


 改めて転売ヤーの名前を聞いたが、安直なのかそれとも偶然なのかはわからんが、何となく噛ませ犬臭が漂っているのは気のせいではないだろう。


 敵の名前は知れたが、さらに確認しておかなければならないことがあるため、マチャドにさらに詳しく話を聞くことにする。


「そのテンバーイ商会には、パトロン的な存在……貴族の後ろ盾とかはあるのか?」

「実は、この王都で幅を利かせている貴族がパトロンになっているようで、その貴族もあまりいい噂は聞かない方なのです」

「類は友を呼ぶってやつだな。だが、念のためそいつが出張ってくることを念頭に置いた方がよさそうだな。ちょっと、出掛けてくる」


 今後、そのテンバーイ商会とかいうふざけた名前の商会を相手にすることを考え、俺は一つ根回しをするべく、ある人物の下を訪ねることにした。

「ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く