ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
388話「テンバーイ商会」
~ Side テンバーイ商会 ~
「うひひひひひひ、笑いが止まりませんなぁ」
シェルズ王国王都ティタンザニアの商業区。商会が軒を連ねる一角にその商会はあった。
その名も、テンバーイ商会。真っ当な商売というより、他社の商品をそのまま自社の商品として仕入れ、商会の利益が出るよう金額を上乗せすることで、その利益を掠め取ろうという悪徳商会である。
その悪名は同じ商人はおろか王都の住人にも知れ渡っており、よほどのことがない限りかの商会で買い物をする物好きな人間はいなかった。
それでも、一定数の物好きたちによって商会はしぶとく生き残っており、今まで王都の市場を荒らしに荒らしまくっていたのだ。
だが、それほどまでに目立った行動を取っているのにもかかわらず、テンバーイ商会が摘発されなかったのは、連中が扱っていた商品が食品以外の使用期限のないものであったからであって、今回テンバーイ商会は初の試みとなる食品による転売を始めた。
奴らが着目したのは、数日前から噂になっていたある商会が販売を開始したとある飲み物であった。何かといえば、ミックスジュースである。
その商会は以前にもクッキーや唐揚げといったヒット商品を出していたが、テンバーイ商会の専門分野ではない食品であったため、転売することを諦めたのだ。
連中が転売を諦めたもう一つ理由として、大量に買い付けができなかったことも挙げられる。だが、ここにきてテンバーイ商会にとって好機となる出来事が起こったのだ。
今回も大量買い付けができないのかと思っていた矢先、なんとかの商会からミックスジュースの樽単位での購入ができる情報を入手したのだ。
その情報はもちろん他の商会も入手していたが、節度ある一般的な商人がその情報を手に入れたとて何も起こりはしない。だが、それがテンバーイ商会となれば話は変わってくる。
他社の商品を仕入れ、それを転売している連中にとって、“ある程度まとまった量を手に入れられる商品”というのは、転売という行為においてカモとなりやすく、そんな情報をてにいれたテンバーイ商会が動かないはずはなかった。
当然如く、かの商会に目を付けられないある程度の量をテンバーイ商会が買い付け、最初は商業ギルドと同程度の金額で売り捌いていた。ここまでであれば、転売の領域内に足を突っ込んでいるが、まだ悪質とまでは言えないレベルであった。しかしながら、王都でもその悪名を轟かせているテンバーイ商会が、そんなちんけな利益だけで満足するはずもなく、次第にその値段が吊り上がっていったのである。
最終的には、仕入れ値の五倍以上というあり得ないほどの値段で取引されるようになっていた。それによってテンバーイ商会の懐は、今までにない程の潤いを見せていたのであった。
だが、そんなことがいつまでも続く道理はなく、これほどまでに目立った行動を取っていれば、それを仕入れ元の商会に気付かれるはずもなく、すぐにテンバーイ商会対して牽制の策を取ってきたのだ。
「商会長大変です!」
「むぅ、なんだ? 私は今金勘定で忙しい」
「例の商会が、大量に商品を流しておりまして。我が商会が仕入れた商品の売れ行きが落ちております」
「な、なんだとぅー!?」
転売とは、市場に出回っている商品を買い占めることで発生する品薄状態を利用して、その商品の希少性を意図的に高めることによって高騰化させる行為であるため、その販売元の企業が大量に品を出してくれば、太刀打ちできないのだ。
転売を生業とする者にとって最も恐れるべきは、転売する商品の販売元である企業が商品の追加生産を行うことであり、これをやられてしまうと、転売側の人間にとっては仕入れた商品の希少性という値段を吊り上げる口実を失うこととなる。
そして、消費者は当然正当な販売方法を行っている業者から購入したいと考える。良心的な価格で販売している販売元と、その販売元から不正に仕入れを行い、法外な値段で販売する業者のどちらが支持されるのか? それは火を見るよりも明らかだろう。
「そ、それから、我々の動きを察知した商会が商業ギルドと結託して、商業ギルドからも例の商品が売りに出されているようです」
「お、おのれ。商業ギルドを抱き込んだか。味な真似を……」
さらに、かの商会はテンバーイ商会に対する策として商業ギルドに商品の一部を卸し、正当な契約を結ぶことでその取引に問題はないということを関係者各所に大々的に広める。逆に不正な買い付けを行っているテンバーイ商会に対し、明らかな非があるということを暗に広めるという手段を講じてきた。
元々、大っぴらにできないようなことを行ってきている自覚のあるテンバーイ商会にとっては、痛いところを突かれた形となってしまい、反論しようにも正当性というものが皆無である以上かの商会の対策に対する対処のしようがないのである。
こうなってしまっては、損が出ない程度の価格まで販売額を落として損切りする他なく、元の販売額より上乗せされている分、売り上げが落ちていく可能性が高い。それに加えて商品としての価値イコール鮮度が重要である食品関連の商品の場合なおのことできるだけ早く捌かねばならないのだ。
「失礼する」
「こ、これは閣下。このような場所に御自ら来られるとは」
「苦しゅうない。ところで、何やら困っているようだが、いかがした」
「じ、実は……」
商会長は上客の貴族に事の次第を説明する。先ほど説明した、テンバーイ商会に肩入れする一定数の物好きたちの一人だ。
彼から事情を聞いた貴族は顎に手をやりながら思案顔を見せる。そして、にやりと顔を歪ませると、商会長にある提案をしてきた。
「ふーむ、であればこのような方法はどうかね?」
貴族の説明を聞いた商会長は、その悪質な対抗策に最初こそ驚いたものの、これ以上ない反撃方法に思わず舌を巻いた。まさかそんな方法で対処するとは思ってもおらず、商会長は改めて貴族のずる賢さを痛感する。
「なるほど! そのような手があったとは!! さすがは閣下、私どもとは頭の出来が違いますな」
「ふふふ、そう褒めるでない。それで、この妙案に乗ってみる気はあるかね?」
「もちろんですとも! これでやつらに一泡吹かせてみせましょうぞ!!」
かの商会による対策により、泣き寝入りするかに見えたテンバーイ商会だったが、まだ何かの策が残されているようだ。
その全容が明らかになるのは、しばらく経ってからになるのだが、かの商会とテンバーイ商会との商業戦争とも言うべき戦いは、思わぬ形での決着が待ち受けているのであった。
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