閉じる

ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

383話「自宅拡張2」



 キャッシャーとの会談を終えた俺は、そのまま自宅へと戻ってきた。これでオラルガンドの自宅は、借家ではなく俺個人の持ち家となったわけだが、今思うともっと早くに購入しておけばよかったと思わなくもない。


 俺の手元にはすでに万を超える大金貨があり、大抵の物は何でも買えてしまう。その気になれば、国さえも金で買えてしまうほどだ。さらには、王立学園での臨時講師としてのバイト代――バイト代と言うにはかなりの金額だが――をもらえることになっており、黙っていても毎月大金貨八百枚以上が支払われることになっている。


 前世で夢にまで見ていた働かずして高額な収入を得る不労所得を達成したのだが、正直なところ娯楽の少ないこの世界でこれほどまでの大金を得て使い道があるのかと言われれば、現状ないと答えざるを得ないところが悲しいところだ。


 世の中の九十五パーセントのことはお金で解決できるというのが俺の持論だが、異世界に来てその残り五パーセントを引いてしまうとは思わなかったぜ……。


「とりあえず、地下を作ろうか」


 いろいろと今の生活に思うところはあるものの、悠々自適な生活を送れていることは紛れもない事実であり、貴族の跡取りという異世界の中でも群を抜いて面倒臭い職業を弟に押し付けることに成功している手前、文句ばかりも言っていられない。


 そんなことを考えつつ、本来の目的だった作業場の拡張を行うことにする。現在、自宅には生活するための居住スペースと、商品開発や大量生産を行うための工房の二つの建物がある。今回は工房の地下に新しいスペースを拡張する。


 外見的に新しい建物を作ることはせず、工房内から地下へと行ける階段を作製し、周囲の人間には一目でわからないようにカモフラージュする方法を取る。


 まずは、適当なスペースに幅二メートルほどの階段を魔法を使って斜めに掘り下げていく。工房内の床はフローリングではなく地面をそのまま利用しているため、床板を剥がすなどの手間が省けて楽だ。


 天井の高さは低いと圧迫感を感じてしまうだろうし、何より手狭になってきていることを思えばゆったりとした空間の方がいいので、それなりに深く掘り下げていく。


 落盤の危険性もあるので、一定間隔で掘りつつ魔法を使って天井部分を補強する。これをやらないと、下手をすれば生き埋めとなってしまうので注意が必要だ。


 ある程度掘り下げたところで、肝心の作業場部分を作っていく。俺が購入した自宅の敷地は小学校のグラウンドくらいの広さがあるが、土地の権利的にそれを超える範囲以上にスペースを設けてしまうとのちに突っ込まれてしまった時に困るので、今回は自分の土地の範囲までにしておくことにする。


 ちなみに、自宅の敷地は五十メートル四方の面積分くらいの広さがあるので、少し余裕を見て四十メートル四方くらいの空間を作り上げる。


 その気になれば、ダンジョンの階層のようにさらにその地下に空間を作ってもいいのだが、崩落の可能性などを考えればあまり無理な設計をすることは避けるべきだ。


「よし、こんなものかな」


 特に難しい工程はなく、ただ魔法を使って空間を作り天井や壁を補強するという単純なものであるため、あっという間に工房の地下に四十メートル四方の何もない空間が完成する。


「コレハ、ズイブントヒロイクウカンデスムー」

「プロトか」


 スペースが出来上がったタイミングで、それを待っていたかのようにプロトが話し掛けてきた。バージョンアップしてから自我を持つようになり、そういった気配りができるようになったことはいいことのはずなのだが、あまりに空気を読み過ぎた対応に初期のプロトを知っている俺からすれば、いろいろと思うところがないわけではない。


 あのただただ「ムームー」と言っていたマスコットのようなプロトが、今では俺が生み出したゴーレムのまとめ役として機能している。とんでもない大出世である。


「ゴシュジンサマ、イカガナサレマシタデショウカムー?」

「いや、なんでもない。とりあえず、稼働中の職人ゴーレムたちをここへ移動させてくれ、その間の生産作業は中断しても構わない」

「カシコマリマシタ。スグニテハイイタシマスムー」


 相変わらず語尾にムーはついているが、仕事はしっかりとこなしているようで、すぐさま他のゴーレムたちに指示を出している。


 どういったシステムが構築されているのかはわからないが、プロトと他のゴーレムたちはテレパシーのようなもので繋がっているらしく、口には出していないがプロトが指示した通りに動いている。おそらくは彼らの中での指揮系統があり、その中でプロトは俺に次いで最上位の立ち位置にいるらしい。


 ただの試作品ゴーレムがどうしてここまで出世したのかわからないが、俺が直接指示を出さなくてもいい分、楽ができる。何事においても利便性というものは重要なのである。


 プロトがゴーレムたちを定位置につかせている間、時間が余っているため、新たな職人ゴーレムを生成する。基本的には既存の生産ラインの増設を目的としたゴーレム生成だが、その中に新規の工程を行ってもらうゴーレムがいる。それがなにかといえば、木製コップと樽の製造などを含めたミックスジュース関連の品々だ。


 先日新商品として一日の販売数を限定して提供することになったミックスジュースだが、現状俺がすべての工程を一人で行っている。


 具体的な内容は、ミックスジュース自体の製作と客に提供するための木製コップとミックスジュースを保管しておくための樽の作製などだ。特にミックスジュースを製作については果汁の比率が重要となってくるため、他の人間には任せられず、これについては俺自身が行わなければならない。


 その他については、他の職人たちが作った既製品や大量注文で仕入れればいいのだが、それだとコストが掛かってしまうため、ただでさえ値段が釣り合っていない状態なのにもかかわらず、大銅貨一枚という破格の値段での提供が難しくなってしまう。


 やはり、低価格の水準を保つためには販売するまでに掛かってしまうコストをできるだけ低く抑えることが重要であり、欲を言えばタダが望ましい。


 しかしながら、俺とてこれだけに時間を割きたくはないため、無料の労働力としてゴーレムたちを用いていることで、俺自身が手を出さなくとも商品が出来上がる環境を整えることができるのだ。時な金なりとはよく言うが、時間はいくらあっても足りないのである。


 ひとまずは、新規の職人ゴーレムとして木製コップ製作、樽製作を行うゴーレムを生み出し、試作品を作ってもらう。物自体それほど大したものではないので、すぐに完成品が出来上がる。


「よさそうだな。これを基準に作っていってくれ」

『ムー』


 俺の指示に従ってゴーレムたちがすぐに作業を開始する。ストレージと繋がっている魔法鞄から原材料となる木材を取り出し、風魔法を使い短時間でコップを作り上げていく。出来上がったコップは別の魔法鞄から俺のストレージへと収納されていくため、上手く循環している。


 樽に関しては、【大】、【中】、【小】、という三種類の大きさにそれぞれ加工してもらい、大きさによって使い分けを行っており、商業ギルドに卸す際に使った樽は中の樽で、容量的にはコップでいうと二十杯ほどになる。ちなみに、大は百杯ほどで小は十杯未満くらいの量となっている。


 木製コップについては、百円ショップで売られている細長いプラスティック製のコップを複製した形をしており、使い捨てることを想定した造りとなっている。


「ゴシュジンサマ、ゴーレムノハイチガカンリョウシマシタノデ、カクニンヲオネガイシマス」


 それから、配置が完了したゴーレムたちを確認した。特に問題なく稼働できていたため、その旨を伝え、その場を後にする。こうして、新たに工房の地下に生産スペースが出来上がった。

「ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く