ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
381話「異世界でミックスジュース」
新商品の果汁ジュースを手に入れた俺は、さっそくお試し販売をするべく、シェルズ王国の王都へと移動する。久々に販売所となる露店が立ち並ぶ区画へとやってきたが、そこは相も変わらず長蛇の列が形成されていた。
商業ギルドに委託販売したクッキーと唐揚げのレシピもなかなかの売れ行きのようで、ちらほらとではあるが、類似品を販売する露店が増えているように見受けられた。
尤も、ほとんど費用が掛からないうちの商品と同程度の販売価格にすることはできない様子で、若干お高めな価格設定となってはいるものの、それなりに客付きはいいようで、繁盛しているようだ。
「ご主人様!」
そんな商売相手の様子を観察しつつ目的の場所へ向かうと、俺の姿を目敏く見つけた奴隷長のメランダが駆け寄って来たかと思えば、何故か謎の平伏をしている。それを皮切りに、働いていた他の奴隷たちも彼女と同じように片膝を付きまるで主が現れたかのような態度を取っている。
「ナニコレ?」
その異様な光景に、一瞬呆然とするもここに来た目的に思い至り、何とか平静を取り戻すことに成功した俺は、改めてメランダに話し掛ける。
「メランダ。前にも言ったが、お前らの主人はマチャドだ」
「もちろんわかってます。ですが、私たちを雇うとお決めになられたのは、他でもないあなた様です」
「それでも、契約上はお前たちの主人はマチャドだ」
俺としては妙な柵に縛られたくはないということから、従業員や奴隷関連については各商会の商会長に丸投げする形を取ってきた。だが、雇われた側からすれば、誰のお陰で今の自分があるのか理解できてしまうようで、俺に対する忠誠心は異常なほどに高いようだ。
まあ、契約上の主人であるグレッグやマチャドが俺にへこへこと頭を下げていれば、どちらが本当の主人か一目瞭然というものだ。
とにかく、通行人もこの異様な光景に目を点にして唖然としているため、なんとかやめさせ本来の目的を伝える。
「とりあえず、その平伏を止めてこっちに来てくれ。お前らもさっさと接客に戻れ」
「は、はい」
俺の一声により、奴隷たちが再び動き出す。その一連の動きに無駄はなく、まるで統率された軍隊のような連帯感があった。それを見た通行人の中には感嘆の声を漏らす者もおり、一種のパフォーマンスを見たような状態になっていた。
そんなこともお構いなしに、俺はクッキーが売られている露店へと移動する。平伏はなくなったものの、軽い会釈と目礼は継続中であり、どこか居心地が悪い。元貴族とはいえ、俺が行ったネガティブキャンペーンが原因で、使用人たちには蔑みの目で見られることが多かったということもその原因の一旦となっている。
ひとまずは、クッキー売り場の隣にある空きスペースに奴隷たちの腰ほどの高さくらいの長テーブルを取り出す。そして、ストレージに直通している魔法鞄から大きめの空樽とモンスター農園で手に入れた果汁ジュース入りの樽を取り出す。
「ご、ご主人様。そ、それは一体?」
「まあ、見ていろ」
果汁ジュースの入った樽には、右に捻るとジュースが出てくるコックと蛇口のようなものが付いており、ビアガーデンに出てくるビール樽がイメージし易い。試しに木製のコップを取り出し、果汁ジュースを試飲してみる。
「やはり、このままでは飲みづらいか……よし」
コックを右に捻って少量のジュースをコップに入れて飲んでみたところ、やはりというべきか、酸味が強く、あまり美味しいとは言い難い。今回ジュースにしたのは、どれも酸味の強い蜜柑や葡萄などの柑橘系の果実が多く、当然そのままジュースとして飲んだ場合、かなり酸味が前面に押し出された味となっている。もちろん、果物であるため一定の甘味はあるものの、このまま商品として売り出すには一定の品質に到達していないことは明白である。
そこで、俺はこの果汁ジュースに手を加えることで、売り物として通用するように今から加工を行うことにする。
まず、柑橘系の果汁ジュースと甘みの強い甘味系の果汁ジュースを二対一の割合で混ぜ込む。ちなみに、甘味系の果汁ジュースの原料はバナナや桃といった糖度の高い果物を使っている。
それらを混ぜ合わせることで、酸味のきつさは緩和され、まろやかな甘さが口の中一杯に広がる飲みやすいものへと変化するのだ。まさにこれこそ異世界初の【ミックスジュース】であろう。
さらに、ここでエルダークイーンアルラウネが生成した蜜を混ぜ込むことによって甘みに加えてコクが追加され、ミックスジュースとしての味が熟成されていく。
「さて、どうなったかな? んぐんぐ、ぷはぁー美味い! もう一杯!!」
などと前世のテレビCMで流れていたネタをやりつつ、本当に二杯目を飲む。その完成度は想像以上で、これならばいくらでも飲めそうな気がしてきた。
果汁ジュースからミックスジュースへと昇華したことはよかったが、これだと値段をどうするかが問題となってくる。数種類の果汁を混ぜ合わせるということに加えて、SSランクのモンスターの素材も使用されていることを鑑みれば、その価値としてはかなりのものとなってくるのは想像に難くない。
だが、ほとんどの材料を他の業者に委託することなく賄えてしまえる俺にとって、あり得ないほどの低価格で商品提供をすることは決して難しくはない。商会で取り扱っている商品についても同じことが言え、売れれば売れるだけその売上金額そのものが黒字として上乗せされていくのだ。
「あの、ご主人様?」
「ん? ああ、悪い。メランダのことを放っていたな。今から手の空いている者を集めてくれ」
「か、かしこまりました」
訳のわからない様子のメランダだったが、俺の指示には従ってくれるようで、すぐに最低人数の人員を残して奴隷たちを集めてくれた。集まった奴隷たちの中に、ちゃっかりとシーファンとカリファの幹部も混じっていたのを見て密かに苦笑いを浮かべたのは内緒だ。
何故彼女たちを集めたのか、その理由は単純に新たに完成した【ミックスジュース】の試飲である。味自体は俺が直に確認済みではあるが、俺の味覚が万人と同じとは限らない可能性を考慮し、他の人間にも味を確認してもらう必要性がある。お試し価格として客に提供することも選択肢としてあるが、やはりここは消費者任せにするよりも実際に販売する人間を使えばいい。
「ご主人様、一部の者を除き奴隷たちを集めました」
「ご苦労。では、今から新しい商品として販売するこの【ミックスジュース】という飲み物を飲んでもらう。それぞれ飲んだ感想を聞かせてほしい」
「ミックス、ジュースですか?」
メランダたちが困惑する中、俺は彼女たちに頷いて肯定する。人数分のコップを取り出し、一つ一つにミックスジュース入れ、全員に行き渡らせる。その様子を通行人が見ているが、気にせずに話を続ける。
「さあ、飲んでみてくれ」
「は、はい……んっ」
彼女たちにとって未知の飲み物であるミックスジュースは、初めて口にするものであり、どんな味であるかわからない以上、戸惑うのは当然だ。だが、俺に対しての忠誠心がメーター限界まで振り切れている彼女たちにとって、例え吐き出したいほど不味いものであっても、すべて飲み干してしまうだろう。何故、それほどまでに俺に対する信頼度が高いのかは謎だが、こういう時ほど役に立つものはないと割り切り、彼女たちの感想を待つ。
「ぷはぁー、う、うめぇ! なんだこれは!?」
「こんな美味しい飲み物飲んだことないよー」
「甘くてとってもいい匂いがする」
俺がいることも忘れ、それぞれがミックスジュースの感想を口にする。どうやらこの世界の住人である彼女たちの口にも合ったようで、全員が幸せそうな惚けた顔をしている。やはりというべきか、どこの世界でも女性という生き物は甘いものには目がないようだ。
とりあえず、味については問題ないようなので、このまま商品として販売するということにした。すでに試飲の済んだ奴隷たちに、露店で接客中の奴隷たちにもミックスジュースを持って行くよう指示を出していると、その様子を今まで見ていた通行人が声を掛けてきた。
「な、なあ」
「なんだ?」
「それって売りもんなんだよな? いくらだ? 俺にも飲ませてくれ」
そう言われて、改めてミックスジュースの値段について考える。一般的な家庭の一日の食費が大銅貨三枚であることを基準にし、嗜好品であることを鑑みて、大銅貨一枚とすることにした。この世界の一日の食時回数は地域によってまちまちだが、地球と同じく二回または三回であるため、食事一回分に相当する大銅貨一枚は一般的には結構なお値段だ。
それでも、果汁百パーセントであるということと、高級食材であるエルダークイーンアルラウネの蜜が使用されていることを見れば、一杯大銀貨や小金貨になっても不思議はない。
だが、ミックスジュースを販売する主な目的は、大金を手に入れるためのものではなく、販売経路の確保という意味合いが強いため、一般庶民を対象にする必要がある。そのための大銅貨一枚というちょっとお高いが、頑張れば庶民でも手が届く価格に設定した。
ただし、大量に販売してしまうと生産量よりも需要が上回る可能性があるため、一日当たりの販売数を限定することも視野に入れるべきだろう。
「一杯大銅貨一枚だ」
「う、結構高いな」
「その分美味さは保証する。たまの贅沢と思って、一杯どうだ?」
「そ、そうだな。男は度胸だ! 一杯くれ」
「ありがとうございます!」
俺と客とのやり取りを見てすぐに接客組の奴隷たちが動き出す。何も指示を出さなくともすぐに動ける辺り、彼女たちも日々成長しているようだ。
こうして、屋台の商品にミックスジュースという商品が新たに加わることとなったのだが、予想外に売れすぎてしまい、数百杯分あったミックスジュースは瞬く間に完売となったのであった。
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