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ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

380話「モンスター農園から生み出される新商品」



 セラフの一件が終わり、しばらく平和な日々が続いていた。今までの疲れを癒すべく、好き勝手なことをやるかと考えていたのだが、結局一日中眠りこけるという怠惰な日々を送っている。


 貴族の跡取りから冒険者となり、商会を立ち上げ出資者兼卸業の業務を行い、たまに冒険者ギルドや国王の依頼で遠征に出掛けたりと、何だかんだで目まぐるしい生活をしてきた気がする。


 ここで少し本当の意味でのスローライフを送っても罰は当たらないだろうということで、前世でもできなかった怠惰な生活をやってみたのだが、結論としてはあまりいいものではなかった。


 人というのは、忙しなく動いている時ほど充実した時間を過ごしていると感じているようで、いざ自由に過ごしていいと言われると、どう過ごしていいのかわからなくなってしまうらしい。


 結果として俺の怠惰な生活は一日ともたず、次の日からまた精力的に活動していこうと決意を新たにした。まずは、モンスター農園の進捗を確かめるべく、俺はシェルズ王国国王から借りている土地へと足を向ける。


「あら、主様じゃない」

「首尾はどうだ?」

「ご覧の通り、順調そのものよ」


 元々、シェルズ王国には人の手が入っていない有り余っている土地――正確には、人手や資金が足りずモンスターの生息域になっているなどの様々な理由から、開拓することが困難な場所――があるため、そこを国が保有する土地として借りる契約を結んでいる。


 通常であれば、土地の開拓と周辺にいるモンスターの駆除を行わなければならないが、俺の召喚獣たちがその区域の生態系の頂点に君臨することによって、モンスターを駆除するのではなく、支配下に置くことができるのだ。否、できてしまった。


 そして、土地の開拓に関しても俺の魔法を駆使すれば、何の問題もなく行える上、畑の管理もアルラウネたち植物系モンスターたちに任せておけば、人に任せるよりも良い結果を出してくれる。


 まだ畑を作製して数週間程度しか経過していないが、植物系モンスターたちが管理をしているお陰もあってか、すでに収穫が可能となっている作物があり、現在進行形でモンスターたちが作物を収穫している姿が見られた。


「そのようだな」

「そういえば、収穫した作物はどうするの?」

「そうだな。この中に収納しておいてくれ」

「これは?」

「魔法鞄だ」


 俺はアルラウネに自作の魔法鞄を手渡す。一見古びたかなり年季の入った鞄にしか見えないが、中は時空魔法が掛かっており、いくらでも物が入る仕組みとなっている。それに加えて、時間停止の魔法も使用しているため、中に入れたものが劣化することはないため、とても便利だ。


 しかも、アルラウネに渡した魔法鞄は、俺のストレージに直結している。つまりは、わざわざ彼女に渡した魔法鞄を回収しなくとも魔法鞄を通じて直接ストレージに収納されていく仕様となっているのだ。


 各商会に渡してある魔法鞄については、パソコンで言うところのフォルダ扱いとなっており、魔法鞄から中に入っているものは取り出せるしストレージから魔法鞄への物の移動はできるが、魔法鞄からストレージ内の物を自由に取り出すことはできない。言わば一方通行なのだ。


 つまりは、俺が必要な物をストレージを経由して魔法鞄に物を移動させることは可能だが、魔法鞄から俺のストレージの物を取り出すことは不可能となっているので、勝手に俺の持ち物を持ち出したりはできないのである。


 今回の魔法鞄はその逆で、鞄に入れた物が直接俺のストレージに収納される仕組みとなっており、商会の魔法鞄と異なる点があるとすれば、魔法鞄経由でストレージに物が移動するということだろう。ちなみに、商会の魔法鞄はストレージから魔法鞄に収納であるため、実質的には逆の機能と言える。


 その他にも、オラルガンドの自宅にある職人ゴーレムたちによる生産ラインで製作されている商品については、魔法鞄から魔法鞄という物流方式を取り入れているため、勝手に商品が商会に納品される形となっているのだ。


「この鞄に採れた作物を入れればいいのね?」

「ああ、一応入れた物は取り出せるようにしてあるから、種用に必要になったらそこから使えばいい」


 この世界には、前世のような一代限りしか育たないといった特殊な作物は存在せず、育った作物からさらに次の作物を育てることが可能だ。もちろん、遺伝子組み換え的な要素が皆無であるため、あまり見栄えや形などは良くないが、それでも食材としては十分にその役割を果たしてくれる。


 今まで訪れた街でも露店に並べられた野菜や果物を見てきたが、形の良い作物は少なく、大きさも不揃いであった。それでも、化学肥料などの人体に影響があるような農薬は使われていないため、安心して食べることができるのだ。難点があるとすれば、農薬に頼らない分虫食いなどが多いといった点だろう。


 とにかく、モンスター農園で栽培されている作物は順調に育っているようで、種類によってはすでに収穫されて次の植え付けに取り掛かっているものもあった。


「ところで主様。主様の言っていた“アレ”についてなんだけど」

「アレか……どうなった?」


 実は、モンスター農園という枠組みができたところで、ある計画を試すため、アルラウネに指示を出していたのだ。その指示とは……果汁ジュースの作製である。


 前世でも果汁百パーセントのジュースなどが販売されていたが、俺が今まで訪れた街にはそういった類のものはほとんど存在しなかった。おそらくは、飲み物として扱うよりも食べ物としての認識が強いためだろうと結論付けた。


 商業的なことを言えば、逆にそういった類のものはなく、それを商品として売り出せば、値段次第ではなかなかの売れ筋となってくれるのではと考えたのである。


 通常であれば、原材料の果物(原材料費)、ジュースに加工するための機材(機材費)、ジュースを入れる容器(容器代)、加工する人間(人件費)、といった具合に、ジュース一つを作るだけでもこれだけのコストが掛かってしまい、その分客に提供するにはそれなりの値段で販売することになってしまう。だが、俺の場合はどうだろうか。



 原材料→自作できる(モンスター農園)


 機材→自作できる(スキルを駆使)


 容器→自作できる(スキルを駆使)


 人件費→モンスターたちを労働力に(人件費ゼロ)



 このように、ジュースというものを販売する上で掛かってしまうコストを大幅に削減することができるのだ。特に原材料と人件費をカットできることは大きく、これにより消費者である客に低価格で商品を提供することができる。


 また、客の心理として良質なものを安価で手に入れたいという心理がある以上、いくら質が良くても高額な商品というのは購入をためらうものだが、ひとたびそれが高品質低価格ともなれば話は変わってくる。


「じゃ、じゃーん! ご覧の通りある程度のことは配下の子たちに仕込めたと思うわ」

「ほう」


 アルラウネの案内で訪れたのは、収穫した果物の果汁を取り出す作業場だ。果物から果汁と取り出す時に使用する絞り機は俺の自作で、樽の中心に一本の支柱をはめ込み、設置した棒をくるくると回転させることによって支柱の先端に設置した板が樽の底面に向かって下方向に移動するといったシンプルな仕組みで、その板の部分が果物を押し潰すことで果汁を絞り出す設計となっている。


 絞り機自体は二人がかりで使用するものではあるが、くるくると回すだけであるため、モンスターでも簡単に作業を行えるようになっている。


 力仕事であるため、畑仕事以外を行っている二足歩行のモンスターであれば作業に従事可能となっているため、オークやゴブリンなども精力的に働いている様子だ。


「なかなかいい感じじゃないか」

「そう言ってもらえると、みんな喜ぶわ」

「果汁を詰め込んだ樽はどこに保管してるんだ?」

「川沿いにある崖に横穴を掘って、そこに並べてあるわよ」

「じゃあ、その樽はこっちの魔法鞄に入れておいてくれ」


 先ほどとは別の魔法鞄を手渡し、そこに樽を入れる指示を出す。これも魔法鞄からストレージへと収納されるものとなっているのだが、気分的に分けた方がいいので、もう一つ魔法鞄を渡しておく。


 それから、マンティコアやオクトパスの様子も見てみたが、特に変わった様子はなく問題もなかったため、引き続き与えられた役目をこなすように指示を出した。


 こうして、新たな商品として果物からできる果汁ジュースを手に入れたのだった。

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