ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
378話「火種はまだ消えていなかった」
~ Side ????? ~
「はあ、はあ……く、くそが。まさか、この僕が落ち目になろうとは」
セラフの残党が一掃され、フローラが勝利を収めた頃と同時期、聖都の郊外を移動する人物がいた。マッド・クラウェルである。
変異したキャリバン教皇の反撃によって呆気なく死んだかに思えた彼だったが、あの場にいたのは彼の影武者だったらしい。
フローラがセラフの残党狩りを行っている情報をいち早く察知した彼は、自身の影武者を捨て駒にしてその足で聖都を脱出していた。念のための措置だったが、まさかそれが功を奏するとは思っておらず、結果的には彼のファインプレーとなった。どこまでも悪運の強い男である。
「これからどうするべきか。とりあえず、どこかに身を潜め再興を図らなければ……」
聖都脱出に際し、迫りくる残党狩りから逃れるため、今まで行った研究の中でも重要な資料しか持ちだしてきておらず、研究に必要な設備はそのまま置き去りにする他なかった。
彼としては、その重要な資料ですら頭の中に入っているため、そこまで必要なものではないのだが、自身の研究の成果を誰かに利用される可能性を考え、一応持ってきていたのだ。
そんな彼が一体どこへと向かっているのかというと、セラフ東部に彼がサブとして使っていた研究所があり、一時的な避難場所としても使用できる場所であるため、そこへ移動している最中だった。
「はあ、はあ、はあ……っ!?」
そこへ三人の男がクラウェルの前へ立ち塞がる。身なりからしてこの辺りを縄張りにしている盗賊の類であると当たりを付けた彼は、忌々しい表情を顔に張り付けながら、不躾に言い放つ。
「私に何か用か?」
「金目の物を置いてきな」
「そんなものは持っておらん。見ての通り手ぶらなのでね」
「なら、お前の着ている服を寄こせ」
盗賊たちにとって服でも何でも、手に入れられるものはどんなものでも有効活用できる品であり、それはむさ苦しい男が着ている衣服も例外ではないらしい。
その事実を知ったクラウェルは内心で舌打ちをした。影武者を放っているとはいえ、いつ追手がやってくるかもしれない状況であることに変わりはない。彼としては目の前の盗賊たちに構っている余裕などないのである。
そんな彼の心境を知るはずもない盗賊たちも、いつまでも男と無駄な問答をしている意味はないと思ったらしく、手にしていた剣を振るってきた。
クラウェル自身は研究者であり、一定の攻撃魔法を使うことはできるが、身体能力がずば抜けて高いわけではない。盗賊の剣を辛うじて躱したものの、頬に掠った剣戟によって彼の頬から血が滴っている。
「大人しく身ぐるみ置いていくことだ」
「まったく、忌々しい連中だ。【ラトニングアロー】」
「ぐはっ」
「うっ、ひぃ」
「ぎゃあ」
これ以上連中の相手などしていられないとばかりに、クラウェルが魔法を放つ。放たれた光の矢は二人の盗賊の頭部に命中し、一瞬にしてその命を刈り取る。残りの一人は身軽だったことが功を奏し、辛うじて致命傷は避けたが、完全に避けきることはできず、腕に矢を受けることになってしまった。
相手が魔法使いであることに驚いたのか、それとも攻撃されるとは思ってもいなかったのかのどちらかなのはわからないが、生き残った男の顔に恐怖の色が浮かぶ。
それを見たクラウェルの顔に愉悦の表情が浮かぶ。彼とて研究のために人体実験を行うことは常であり、自身の身体を得体の知れない方法でいじくられることに対する恐怖の顔を浮かべる実験体を見てきた。その度に彼はこう思ってきた。“嗚呼、とてもいい表情だ”と……。
元々の気質が嗜虐的なことを好ましく思う特殊な癖を持ち合わせていることもあって、彼が行う研究は知識欲と己の欲求を満たすという趣味と仕事という実益を兼ねたものとなっていたのだ。
「さて、実用性のテストを兼ねてサンプルとなってもらいますよ」
「な、なにを。や、やめ――」
そう言いながら、クラウェルは盗賊の口に何かをねじ込む。突然の行動に盗賊が戸惑う中、それは盗賊の口から体内へと進入する。
【魔人玉】……それは、彼が長年の研究によって開発した。人体強化剤とも言うべきもので、人工的に肉体を強化する効果を持った薬だ。だが、そういった道理に反するものというのは、必ずデメリットとなる部分が存在するというのが常であり、その姿はまるで悪魔のような醜い化け物としてその姿を変貌させる。
クラウェルはこの魔人玉を使用し、内々に自分の駒となる存在を増やし、その戦力をもってセラフを内部から浸食させていこうと画策していた。だが、魔人玉自体が不安定要素を多く含んでおり、常に安定した効果を得られるものでなかったため、彼の計画は思うように進まなかった。
そうこうしているうちに、セラフ聖国に謎の結界が張られ、それに伴うフローラの台頭によって計画が実現する前に追い詰められる形となってしまったため、彼はやむなくセラフから逃亡する選択を取らざるを得ない事態となってしまったのである。
「ギャギャギャ」
「ふむ、これくらいの規模は問題ないようですが、オーガ並みの体格まで引き上げるのはまだ安定しないようですね。今頃はきっと暴走しているかもしれないですね」
変貌した盗賊の姿を見たクラウェルが満足気に頷く。魔人玉の効果は絶大なものではあるが、大きな効果を望めば望むほど命令を聞かなかったり、元の人間の意識が残ってしまったりという欠点がある。それも踏まえて完璧な魔人玉の完成品を作りたいとクラウェルも望んでいる。
「どうやら、計画は失敗したようだな」
「……あなたですか。まあ、元々セラフは仮初の腰掛。追い出されたところで、何の問題もありません」
「ふん、ではこのあとの手はずはどうなっている?」
そこに突如として虚空から男が出現する。その姿は闇装束に身を包んだ一見すると暗殺者のような恰好をしている。本職なのか、それともその恰好を好んでいるのかはわからないが、その立ち姿は只者ではないことが窺える。
男の問いに、何の取り留めもなくクラウェルは答える。彼にとって、セラフ聖国という存在は自身の目的のために所属していた場所であり、本当の所属は別だった。
「しばらくは身を潜め、魔人玉の完成度を上げるつもりです」
「魔人玉の完成は我が国にとっても重要なものだ。完成を急げ」
「そのためには、研究設備とサンプルが必要だ。もちろんそちらで用意してもらえるのでしょう?」
「……わかった。必要なものは用意してやる。とにかく急ぐのだ」
必要なことだけを告げると、男は再び虚空へと消えていった。クラウェルもそれを見届けると、すぐに目的地に向かって歩き出す。
「見ていなさい。次こそは必ず成功させてみせましょう」
そう呟きながらにやりと顔を歪めると、クラウェルは決意を新たに頭の中で思案を巡らすのであった。
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