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ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

377話「決着後の彼女」



 ~ Side フローラ ~

「ふう、何とかなりましたか」


 誰にともなくそう呟いた私は、先の戦いに思いを馳せる。これでようやく我が悲願が達成され、セラフ聖国が前へと進むことができるようになった。


 セラフの歴史は、周辺諸国と比べればそれほど長くはなく、まだ国が興ってから百年も経過していない。だというのに、国の内部は腐りきっていた。上層部の教皇並びに枢機卿たちの裏工作が横行し、障害となる者は賄賂や暗殺などという非合法な手段を用いた結果が今の聖国を形作ってしまった。


 だが、そこに一筋の光が差し込んだのだ。そんな上層部たちの悪行が神の怒りを買ったのか、我が国の国境に謎の結界が出現したのである。これも神の裁きかと考えた敬虔な聖職者たちは多かった。かくいう私もその一人だ。


 そんな私の前に一人の少年が姿を現した。少年の見目は良く、その立ち居振る舞いも動きの一つ一つが洗練されており、平民ではないということを窺わせるものだった。


 初めて少年に会った時は他の枢機卿からの美人局かとも思ったが、私にそんな趣味がないことは周知の事実であるため、彼らの差し金でないことはすぐに理解できた。


 そして、私にとって転機となったことが起こる。それは、少年に渡された一枚のカードだった。


 それが一体何であるのか最初はわからなかったが、枢機卿たちの策略によって不必要な任務を言い渡されて向かった国境で事件が起きてしまう。あろうことか、そのカードを使うことであれほど頑強に行く手を阻んでいた結界を通り抜けることができたのである。


 この出来事をきっかけに、聖国において私の価値と地位は一気に跳ね上がった。元々、精錬潔癖な家柄であるエグザリオン家であることもあってか、聖職者や国民たちの支持を得るのに時間は掛からなかった。


 それに焦った枢機卿たちも何とかしようと策を巡らせたが、それが逆に馬脚を露す結果となってしまい、一人また一人とその地位を追われることとなった。


 最終的に残った敵は、教皇のキャリバンとクラウェル枢機卿の二人だったが、予想外なことが起きる。なんと、今まで単独で動いていたこの二人が手を組んでしまったのだ。


 残った味方が少ないということと、単独では各個撃破されるだけだと判断したためによる行動だったが、こちら側としては最も厄介だった二人が手を組んだということで、何の冗談だと思ってしまった。


 とにかく、二人が手を組んだ時点での私の勢力はかなりのものとなっていたため、何とか対抗できる戦力は整っていたが、まさかクラウェル枢機卿があのような切り札を隠し持っているとは思わなかった。


 あの才能をもっといい方向に使えていれば、結果は違っていただろうとも思うだろうが、仮定の話をしたところで意味はない。


 今回はなんとか勝つことができたが、あの凄まじいまでの魔法は一体何だったのだろうと、今冷静になってみればそう思ってしまう。


 明らかに人が出せる魔法の威力を大きく超えており、まかり間違っても私個人の力によるものでは断じてない。それが証拠に周囲の騎士たちも「きっと神様が我らに味方してくれたのですよ」と言っているし、普段の私の力量を理解している彼らであれば、人ならざる者が味方したと考えるのだが普通なのだ。


 そして、私はその人ならざる者の正体に何となく気付いている。そう、あの少年……ローラン、もといローランド様だ。


 私に結界を通り抜ける力をお与え下さり、私がセラフ聖国で不動の地位を確立することができるきっかけとなった人物である。


 かのお方が何者なのか考えた時、神に付随する何かであるとしか思えない。それほどまでに、あのお方がもたらしたことというのは、神がかっていたのだ。


 私がセラフ聖国で数少ない真の聖職者であることを見抜き、聖国に蔓延る悪人たちを追い出すことをあらかじめ知っていたのであれば、かの御仁が私に力を与えたことも頷けるというもの。


 あの方を見た時、神の使いや使徒であると思い問い掛けてみた。だが、返ってきた答えはそれを否定するものだった。だが、私は今になって思う。彼こそセラフを正しき道へと誘う神の使いだったのではないかと。


「ローランド様……」


 ふと、かの御仁の名を口にする。私に力を与え、セラフに平和をもたらした真の英雄の名を。そして、ふと何かを感じた私は部屋の外に出て廊下の先を見据えた。


 すると、そこには見覚えの背中があった。何やら楽しそうにスキップをしているそれは間違いなくあの方だった。


「やはり、来ておられたのですね」


 その時、私はキャリバンとの戦いで目の当たりにした奇跡は、あの方によって引き起こされたものであったと確信する。あの激しい戦いの中、ずっと見守ってくださっていたのだ。


 それがわかった瞬間、胸に熱いものが込み上げくる。それは温かくとても心地良いものであった。


「これが、恋というものなのでしょうか?」


 一般向けに発行されている恋愛物の小説を読んだことがありますが、物語に登場する女性たちはこのような気持ちだったのだと改めて思った。


「ローランド様、ありがとうございました」


 あの方の陽気な後ろ姿を見つつ、私は深く頭を下げた。これから、いろいろと忙しくなるとは思うが、あの方に頂いた多くのものを少しでも返せるように努力を怠らないことを胸に、あの方の姿が見えなくなるまで、私は頭を下げ続けたのであった。

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