閉じる

ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

376話「過剰にバフを乗せた結果」



「え?」

「ば、馬鹿な……あり、得ない」


 突如として起こった惨状にフローラは呆然という顔を浮かべ、クラウェルは目を見開いて驚愕の顔を張り付ける。一体何が起こったのかというと、フローラの、彼女の魔法を強化したのだ。


 俺が咄嗟に使った【セブテットゲインマジック】は、対象の魔法の威力を七倍にまで引き上げると同時に、魔法の効果自体を七つに増幅させるというとんでもない効果を持つ魔法だ。


 フローラの放ったホーリーダストが敵に命中するちょうどのタイミングでこの魔法を発動させることにより、威力とその個数を七倍にまで引き上げたのだ。実質七回同時にホーリーダストを唱えたことになる。


 元々光魔法の上位である聖光魔法に属するこの魔法自体の威力は決して低くはなく、通常でも命中すればそれなりのダメージをくらうことになる。そこに俺の強化魔法が加わった結果、圧倒的な肉体を持つ化け物に致命傷を与えるほどの威力となったというわけだ。


「グワアアアアア」


 フローラの魔法をくらって肉体に著しいダメージを負ったことで、化け物が初めて苦痛を感じたような悲鳴に近い雄叫びを上げる。ダメージの影響なのか、それともフローラの攻撃に恐れおののいたのかはわからないが、先ほどまでの迫力は鳴りを潜め、一歩また一歩と化け物が後退していく。


「おお、さすがはフローラ様だ」

「この方に付いてきて正解だった」

「フローラ様万歳!」


 先ほどの攻撃によってまたも形勢が逆転し、死に体になっていた騎士たちが息を吹き返す。だが、フローラの攻撃を受けた敵にとっては堪ったものではない。


「何をしているのです!? そんな小娘など、さっさと殺してしまうのです!!」

「グゥウウウウウ」

「ええい、何をしている!? これは命令だ。さっさと行け。この出来損ないが!!」


 再びピンチとなったことを悟ったクラウェルが、未だ戦闘不能となっていない教皇だったものに対して檄を飛ばす。彼としてもこれ以上後がないとわかっているのか、口から唾を飛ばす勢いで荒々しい口調で指示を出す。


 致命傷を負ったとはいえ、化け物もまだ戦えない状態ではない。すでに身体の至るところに大小多数の風穴が開いており、人間的な視点で見れば明らかな大ダメージを負っている。だが、それでも倒れていないのは倒れればもう二度と立ち上がれないと本能で理解しているのか、はたまた自身の目的を遂行しようとする意志なのかは本人に聞いてみなければわからない。


(しつこいな。七倍では威力不足だったか)


 俺は冷静に今の状況を分析し、相手の防御力とフローラの攻撃力の目算を誤ったことを内心で憤る。


 ちなみに、今の俺は姿や気配を絶った状態であり、この場にいる全員が俺を認識することは不可能である。そのため、フローラたちが戦っている状況をわかりやすい位置で見ることができるのだが……さて、この戦いの結末はどうなることやら。


「ガアアアアア」

「そうだ! いけ!! そのまま押しつぶしてしまえ!!」

「グオオオオ」

「な、何をやっている! こっちじゃない!!」


 何を血迷ったのか、化け物は攻撃対象をあろうことかクラウェルへと変更し、両手の指を祈るように交互に握りこんだ拳を叩きつける。確かプロレス技でダブルスレッジハンマーと呼ばれている技だったはずだ。某漫画の戦闘民族の王子が多用していたな。


 その攻撃を主人であるはずのクラウェルに向かって放った結果、まるでプレス機で押し潰したかのように彼の身体が爆散することになった。あらら、実に呆気ない幕引きだったな。


 俺を含めた全員が困惑する中、それを行った化け物がこちらに振り返ったかと思えば、突如としてその口から言葉が発せられる。


「ワタシヲ、リヨウスルナドオロカナコトダ」

「その声は、キャリバン教皇……まだ意識があったの?」

「ドウヤラ、ヤツノケンキュウヨリワタシノシュウネンノホウガウエダッタラシイ」

「もうこれ以上、罪を重ねるのはやめなさい」


 彼女の言葉など聞く耳持たずとばかりに、命懸けの特攻とばかりにキャリバンは突っ込んでくる。それを見た騎士たちが動こうとするも、それより先にフローラが動いた。


「ならば仕方がありません。悪しき者よ、己が罪の重さを自覚し、断罪の炎に包まれよ! 【メギドフレイム】!!」

(ほう、なかなかどうして。治癒魔法特化だと思っていたが、攻撃もできるじゃないか。ならば……【デュアリング】【デグテットゲインマジック】)


 彼女の魔法に続いて、俺は二つの魔法を使用する。まずはデュアリングという魔法を使い、次に使用する魔法の効果を二倍にする。そして、デグテットゲインマジックによって対象の魔法の効果と数を十倍にまで跳ね上げるというセブテットゲインマジックの上位となる魔法を使う。締めて、合計二十倍の強化となる。


 そして、フローラ自身が使用した聖光魔法レベル6で習得することができる【メギドフレイム】が、俺の魔法によって二十倍という出鱈目なまでに強化される。キャリバンの足元が光を放ち始め、そこからすべてを焼き尽くす浄化の火柱が立ち昇る。


 その数は一本でも強力だというのに、俺の魔法によって威力も数も二十倍という規模にまで膨れ上がっており、まばゆい光がキャリバンを包み込む。


 先ほどの強化では生温かったようなので、オーバーキル気味にするべく二十倍の強化を施す。そんな代物を発動させれば、周囲に与える影響も計り知れない。しかし、偶然なのかフローラたちが戦っている場所は、大聖堂の最上階に位置する教皇の執務室であったため、被害は執務室の屋根を突き抜けるだけに留まっていた。


 仮にこれがもっと下の階層で発動していれば、最上階までにあるすべての部屋をも貫いてその被害は部屋だけでなく人的被害も出ていたことは想像に難くない。


 そして、そんな強大な攻撃をキャリバンが耐えられるはずもなく、ましてや避けることも防ぐこともできる訳もなく、メギドフレイムをくらった瞬間、彼の肉体は消し炭と化してしまい、あとに残ったのは火によってできた焼け跡のみだった。


 だが、そんな結果よりもフローラたちは唖然としていた。自分たちの知っているメギドフレイムとは明らかに威力も規模も違い過ぎる出鱈目な魔法に、全員が絶句してしまっていた。


「フ、フローラ様。今の魔法は……」

「わ、わかりません。一体何が起こったのか」


 それから、騒ぎを聞きつけてきた他の者によって傷ついた者たちが手当てされ、事態は徐々に収まりつつあった。


 もう俺の出番はないことを確認した後、そのままその場を後にする。一定の距離が離れたので、自分に掛けていた魔法を解除する。


「さて、帰りますか」


 ミッションを達成した俺は、そのままスキップでシェルズ王国へと帰って行った。

「ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く