ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
375話「最後の抵抗」
窮鼠猫を嚙むという言葉がある。追い詰められた鼠は、天敵である猫に一矢報いようと活路を見い出すべく、時として反撃に出るという言葉だ。
フローラの突然の訪問から数日が経過したある日のこと、俺は再びセラフ聖国へとやってきていた。その目的は、言うまでもなくかの国の顛末を見届けるためだ。
彼女の報告ですでに国内の情勢は落ち着きを取り戻しつつあり、残った敵は現教皇とフローラを除く最後の枢機卿であるマッド・クラウェル枢機卿だけとなっているらしい。
他の枢機卿についての詳しい結末は聞いてはいないが、フローラが俺に報告として口にしなかったということは、すでにこの世には存在していないということなのだろう。
とにかく、先の諺にもあるようにどれほど有利な状況だろうと、たった一手で圧倒的不利な状況から盤面をひっくり返される可能性はゼロではない。念には念を入れ、俺は再びセラフにある聖都レイドパレスへと潜入することにしたのである。
前回泊まった宿を取り、今回は昼間から大聖堂へと潜入を試みる。すると、以前潜入した時と比べ大聖堂内の雰囲気が明るいものに変化していることに気付く。おそらくは、聖国内の膿が浄化されて残党を始末するのみとなっているからだと思い至る。
そんな状況の中、フローラどこにいるのか探ってみた。すると、奇妙なことに彼女の近くに複数の気配があり、それが激しく戦っている様子だったのである。
(どうやらクライマックスのようだな。どれ、悪党の末路を見届けるとしますか)
そんなことを思いながら彼女たちがいる場所へと向かうため、俺は床を蹴って移動を始める。いくつかの部屋を素通りし、厳かな趣のある扉の前に辿り着くとほぼ同時に部屋の内側から扉を破って人が吹き飛ばされてきた。
どうやら、フローラの配下の騎士らしく、壁に叩きつけられたため気絶しているものの、命に別状はないため部屋の中に意識を向ける。
「これで終わりです。キャリバン教皇並びにクラウェル枢機卿。大人しく己が犯した罪を認め悔い改めなさい!」
「私はまだ終わってはいない! 我が名はキャリバン・ホーリーダイン。栄光ある聖国の頂点に君臨する者である!」
「僕もまだここで終わるわけにはいかないのですよ。仕方ありません。かくなる上は……」
部屋の中では、教皇とクラウェル枢機卿の残党の最後の抵抗が続いており、どうやらちょうどいいタイミングだったらしい。なんというご都合主義なのだろうか。
だが、気になるのはまだ残党たちが諦めておらず、何かを狙っている様子が窺える。フローラも何となくそれに気付いているようで、訝し気な視線を二人に向けている。
そして、自体は突如として急変する。仲間と思われたクラウェルが教皇の背後に回り込み、逃げないよう後ろから彼を押さえ込んだのだ。
「クラウェル。い、一体何のつもりだ!?」
「残念ながらここまでのようです。最後まであなたを利用するつもりでしたが、そうは言っていられなくなってきたようなので、ここであなたを捨て駒にさせてもらいますよ」
「な、何を言って――あぐっ、んごっ」
「さあ、今までの集大成を見せる時です!」
クラウェルの行動に戸惑っていたが、彼が教皇の口に何か得体の知れない物体を無理矢理ねじ込む。突然のことに抵抗すらできず、その物体を飲み込んだ教皇の身体が変貌していく。
肉体が巨大化していき、元々細身の身体は筋肉で膨れ上がっていく、纏っていた神官服はびりびりと破れ圧倒的な巨体が露わになったかと思えば、徐々に肌色が赤黒いものへと変化していく。最終的には、その巨体は三メートルにも膨れ上がり、隆起した筋肉は圧倒的な暴力を孕んでいることが容易に想像できる。
すでに人の言葉を喋ることもなく、その瞳に知性の光は宿っていない。ただただ、呻き声を上げるだけの化け物を成り下がった姿に、クラウェルは満足気な表情をそれ以外は驚愕の表情を顔に張り付けている。
「グオオオオ」
「な、こ、これは……キャリバン教皇に一体何をしたのです! クラウェル枢機卿!?」
「何、僕が開発した【魔人玉】の実験体となってもらっただけですよ。さて、これで形勢は逆転しましたね」
「くっ」
「フローラ様をお守りしろ! 今こそ聖騎士の務めを果たせ!!」
状況が一変し、主が危険な状態へと陥ったことを瞬時に理解した騎士たちが、指揮官の指示に従い動き出す。すぐさまフローラの周りを騎士たちが固め、彼女を守るための包囲網が形成される。
「無駄なことを。さあ、その圧倒的な力で蹂躙なさい。僕の可愛い実験体」
「ガアアアアア!」
「怯むな! フローラ様をお守りしろ!!」
クラウェルの命令に従うように上体を天へと逸らしながら大音量の咆哮を上げる。そのあまりの迫力に気圧される者もいたが、自らを奮い立たせるように指揮官の檄が飛ぶ。
もはや主人の命令に従うだけのただの肉塊として行動するキャリバンのなれの果ては、敵対する騎士たちに襲い掛かった。それに対抗しようと騎士たちも奮闘するが、体格差とそれに伴う暴力を止められることはできず、まるでボロ雑巾のように軽くあしらわれるように吹き飛ばされるだけだった。
「ぐっ、フ、フローラ様……お逃げ下され。我々では太刀打ちできませぬ」
「そんなことをできるわけがありません! 配下の者を置いて私だけが逃げ延びるなど」
敵わないと悟った指揮官がフローラに逃げるよう進言する。だが、それを拒むように彼女は首を横に振る。
臣下としては主に生き延びてもらうことを最優先にしてもらいたいが、この人が他者を見捨てて自分だけが安全な場所へと逃げることなどするはずがないということも理解している。だからこそ、自分たちは彼女に忠誠を尽くそうと誓ったのだから……。
そんな心情が透けて見えるほどに必死な騎士の懇願をフローラは拒否する。彼女自身も、立場的にこの場は逃げるべきであると結論が出ている。それが判断できないほど理解が及ばない人間ではないのだ。
だが、頭の中ではそうするべきだと思っても、人間的な感情はそうもいかない。それが人間の長所であるのだが、時としてそれは最も愚かな弱点となり得る場合もある。
(やれやれ、やっぱこういう展開になったか。様子を見に来て正解だったな)
状況的には絶体絶命と言っていい状況だが、クラウェルの切り札であろう教皇だったものを解析してみると、強さ的にSSランクに手が届かない程度であり、今の俺なら冗談抜きでデコピン一発で終了する相手だ。
そんなわけもあって、俺的にはこの状況を打破できるかと問われれば、余裕だと答えるだろう。だったらすぐに助けてやれよと言われるかもしれないが、本当にそれでいいのだろうかとも考えてしまう。
確かに助けることは簡単だ。だが、今起きている状況は俺とは一切関係のない他国の件であり、しかも何の利益にもならないが事前に手を貸した結果によるものなのだ。
すでに何の得にもならないにもかかわらず、手を貸した状態でこの状況になっており、彼女らにとって緊急事態とはいえ、俺が再び手を貸してしまって同じ状況になった時に俺がすぐに介入できない状態だったらこの先どうするのだろうか。
俺も不死身ではない。いずれ自分たちの手で何とかしなければならない状況になるのならば、最初から自分たちの手で対処させるべきではないだろうかという問答を今考えている。
「何をしているのです。早く邪魔者を殺してしまいなさい」
「グオオオオ」
「敵わないまでも、せめて一撃与えてみせます」
そうフローラが言うと、どこからともなく自身の身長よりも長い錫杖が出現する。そして、何やら呪文を唱え始めた。
「光よ、悪しきものに魂の救済を! 【ホーリーダスト】!!」
(あっ、いいこと思いついた。【セブテットゲインマジック】)
フローラの発動したホーリーダストが化け物に直撃する寸前、俺はある魔法を発動させる。すると、突如として視界が光に包まれる。光が消え、フローラたちの眼前にいたはずの化け物は、体中が穴ぼこだらけになっていた。
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