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ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

373話「逆ローンと謁見見学」



「すまん、そういうことだから。報酬は分割で頼む」


 学園の講師の依頼が完了した数日後、俺は改めて国王を訪ねた。すると、開口一番に彼が口にした言葉が謝罪だったため、訳が分からず首を傾げる。


「いろいろと話を飛ばし過ぎだ。最初から説明してくれ」

「そうだな。実は……」


 彼の説明によると、俺が達成した元からの依頼だった“王立学園の講師を二週間勤める”という内容は文句なしに遂行できている。それは良かったのだが、問題は別にある。


 俺の授業の評判を聞きつけた他のクラスの生徒や職員たちが詰め掛けた結果、最終的に全校生徒を指導する羽目になり、さらにはその噂を聞いた王城に勤務する騎士団や魔法師団まで見学に来る事態となった。


 さらに嬉しい誤算だったのは、全校生徒全体のレベルアップはもちろんのこと、見学していた騎士団や魔法師団の連中まで戦力の底上げとなったことだ。騎士団は身体強化のレベルが数段階上昇し、魔法師団に至っては無詠唱を修得する者が続出した。


 結果的に俺が行った指導によって国全体の戦力アップに繋がり、その功績は俺の知らないところで膨大なものとなっていた。それを見た国王は、他の貴族たちと協議した結果、その報酬金は少なく見積もっても大金貨数十万枚というとてつもないものという結論に至ったらしい。


「だが、一度にそれほどの財を支払ってしまうと、国を運営する国庫に影響を及ぼすことになってしまう。できれば一年で一万枚の分割で支払いたいのだが……」

「それで構わない」


 国王的には俺に爵位と領地を与えることで何とかしたいところなのだろうが、俺がその報酬を拒否することがわかっているため、貨幣による支払いで済ませようとしてくれたといったところだろう。それが証拠に「爵位と領地を与えられれば、ここまで悩む必要はないのだが……」と零していた。


 兎にも角にも、最終的な俺の報酬金は大金貨三十六万枚という聞いたこともない金額となり、それを一年で一万枚の三十六年ローンという形で終着することになった。白金貨でも三万六千枚という途方もない金額である。


 それだけの金額など一生掛かっても使いきれないかもしれないが、貰えるものは貰っておくという精神のもと国王の提示を受け入れることとした。もし拒んだら爵位だの領地だのティアラとの婚約などの俺が一切願っていないありがた迷惑な報酬を押し付けてきそうだし……。


 そういった具合に報酬の話が決まったところで、話題が今日会う予定の人間の話になった。俺としては国王の業務に興味はなかったが、彼が謁見する予定の人物の名前に心当たりがあったのである。


「そういえば、今日はセラフ聖国のフローラ枢機卿との謁見が入っておってな」

「なに?」

「枢機卿を知っているのか?」

「ああ、ちょっとな」


 まあ、ちょっとどころではないのだが、国王は俺がセラフ聖国で行った詳しい内容は把握していない。精々がセラフ聖国の国境に結界を張り巡らせて閉じ込めた程度という認識で、総本山である本拠地に潜入したことは話していないのだ。


 尤も、俺が暗躍したことでセラフの内情がどう変化したのかについては、そのきっかけを与えたはずの俺ですらすべてを知っているわけではないので、実際のところあのあとどうなったのかという話を聞いてみたいとは考えていた。


「どういった人物なのだ?」

「まあ、真面目な優等生って感じの人だな。少なくとも、自分の私利私欲のために枢機卿をやっていないことは間違いない。ありゃあ、生粋の聖人だな」

「ほう、そこまでか」


 俺が誰かを手放しで褒めたことが珍しいのか、国王が感心したように目を細める。実際のところ俺が誰かを褒めること自体あまりないのは事実なので、肩を竦めることで彼のリアクションに応えておいた。


「であれば、お前も謁見に参加してみるか?」

「む? 俺がか?」


 俺の心情を察した国王が唐突にそんなことを提案してくる。確かに、あのあとセラフがどんな状態になったのか後日談的な話は聞いていない。気にならないといえば嘘になるが、さてどうしたものか……。


 学園の講師という任務が終わったばかりで、個人的にはこれ以上濃いイベントに参加したくはないのだが、後々になって自分の意志とは裏腹に強制参加させられる可能性を鑑みれば、自分の意志で参加を表明した方が精神的なダメージは防ぐことができるのだはないだろうか。


「そうだな。一応様子を見ておいた方がいいだろうし、ここは参加させてもらうとしよう」

「そうか、ではこのあとすぐに彼女との謁見の予定が入っている。しばらく待っていてくれ」


 それから、数十分ほど雑談したのち、彼と共に謁見の間へと移動することになった。






     ~~~~~~~~~~~~~~~~~~





「面を上げよ」


 謁見の間には、シェルズ王国の重鎮とされる貴族の面々と今回の謁見相手であるセラフ聖国の面々が一堂に会していた。謁見の間は、その名に相応しく黒みを帯びた石柱が数十本と建てられ、天井は巨人族でも余裕で入ってしまうほどの高さがあり、そこからは煌びやかなシャンデリアが吊るされている。


 そんな豪華絢爛な謁見の間の最奥部に数段の段差の上に設置されている玉座に先ほどまで話していた国王ゼファーが鎮座している。公務であるため、その面持ちは厳格そのものであり、普段の気軽な雰囲気とは打って変わって一国を預かる統治者の姿そのものであった。


 そんな彼の姿を内心鼻で笑いながら、同じように隣に座る王妃や王女たちの様子も観察する。王妃サリヤと第一王女であるティアラ、並びに第二王女のシェリルも一緒だ。こらこら、こっちに向かって手を振るんじゃない。


 そんな彼女の行動を視線で窘めつつ、謁見はつつがなく進んで行く。ちなみに俺がいるのは、王族が座っている位置からは見ることができるが、謁見者と貴族たちがいる場所からは死角となっている位置に立っている。


 まずは上位者である国王が“我が国までよくぞ参った”という労いの言葉を掛けたのち、その言葉に返答する形で、セラフ聖国の代表者であるフローラが口を開く。


「勿体なきお言葉にございます。ところで、陛下に一つお聞きしたきことがあるのですが」

「何かな?」

「この国にローランという特別な力を持った少年がいませんでしょうか?」

「ローラン? ……はて、そのような名の少年は聞いたことがない。仮にそんな少年がいるとすれば、余の耳にも入ってくるであろうからな……」


 という二人のやり取りの最中、ちらりとこちらを窺う国王の視線が突き刺さる。その視線には、明らかに“お前一体何をやらかしたんだ?”というメッセージが込められており、“聞いてないぞそんなこと”という非難を含んでいる。うん、言ってないからな。


 王妃たちもローランという名前からその人物の正体が何者なのか察したらしく、こちらに視線を向けてきている。俺はその視線を受け流すようにさっと逸らした。


「左様ですか。陛下。この国には魔族の手から都市を救ったという英雄がいるとか。聞いた話では、ローランドという名前で見た目は少年だとか」

「うむ、フローラ殿の言うことに相違ない」

「これは偶然でしょうか? ローランとローランド。名が似ていると思うのですが」


 にこりと微笑んでいるフローラだが、その態度からは明らかに“会わせろ”という圧が滲み出ており、その圧力に国王が引いている。


 どういった目的でフローラが俺に会いたいのかはわからないが、できれば面倒なことになりそうなことは避けたい。


「もしよろしければ、陛下から紹介していただけないでしょうか? もしかすると、私が探している少年やもしれませんし」

「うむ。……あいわかった。すぐに使いの者を走らせよう」

「ありがとうございます」


 フローラが俺に会いたい理由はわからないが、その目的を確かめるためにも一度彼女と話す必要があるため、視線を向けてくる国王に向かって頷いて見せた。それを見た国王がすぐに彼女の要求を受け入れ、話はそれで纏まった。


 それからは、ちょっとした世間話などの情報共有が行われ、フローラが俺に会いたい旨を要求してきたこと以外は特に問題なく、謁見はつつがなく終わった。

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