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ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

372話「この講師からの卒業」



「反対!」

「我々は先生から指導を受ける権利がある!」

『はーんたい! はーんたい! はーんたい! はーんたい!』


 最後の模擬試験を行った翌日、生徒たちがプラカードを掲げ何やら抗議活動のようなものを行っている。そこには“ローランド先生を辞めさせるな!”とか“教育の自由を!”などといった文言が書かれており、その一致団結振りは真剣そのものである。


 彼らの声に耳を傾けると、聞こえてくる主張は俺を辞めさせるなという一点であり、どうやら俺が期間限定の講師であることを聞いた生徒たちが、徒党を組んで講師の延長を願い出ているらしい。


 そこには最初に受け持った生徒たちの姿もあり、どちらかといえば止めるべき立場である講師陣も何人か混ざっている。おいおい、あんたら何やってんだよ……。


 引き留めてくれることは別段嫌ではないが、俺が一体いくらで雇われているのかわかって言っているのかね? 下手すると日給大金貨数千枚だぞ。この世界で言えばひと財産なんだぞ?


 つまり俺が一日延長すると国庫にかなりの負担が掛かるということであり、ただでさえ報酬の支払いをどうするか悩んでいる国王をさらに追い詰めることになってしまうことになる。貴族や王族であるティアラたちもそれは理解できているはずだ。


 だというのに、何故君たちは先頭に立って抗議に参加しているのかね? どちらかといえば事情を知ってる分彼らを説き伏せるべきではないのだろうか。


 その間にも抗議する生徒たちを宥めたり、抗議に参加する同僚に突っ込んだりしている職員たちがかわいそうになってきたので、彼らに言ってやる。


「お前ら何やってるんだ?」

「先生が講師を辞めると聞いて抗議してるんです」

「俺たちはまだ先生から何も教わってません」

「先生が辞めるなんて断固反対です」


 などと主張しているが、元々俺は期間限定付きという条件でこの講師の仕事を受けており、二週間で辞めることは決定していた。仮に何かミスを犯して辞職させられるというのであれば、彼らの主張にも正当性があるのだが、元から二週間で辞めるつもりだった人間を辞めさせるなというのはどうにも正当性が欠けている気がして、彼らの主張はただの我が儘にしか聞こえないのだ。


「俺は元から二週間で辞めるつもりだったんだ。それを抗議されても何も変わらんぞ」

「そんな」

「俺たちを見捨てるんですか!」

「この二週間で大体のことは教えたつもりだ。あとはお前たちの頑張り次第だ」


 俺がそう言うと、全員が黙り俯いてしまう。中には泣き始める者まで出てくる始末だ。


 そこまで慕われるほどのことをしてきたのかと内心で首を傾げつつも、彼がどれだけ抗議したところで俺の気持ちは変わらないため、その意思をきちんと伝える。


「お前たちの気持ちはわかった。だが、俺には俺でやりたいことがあるんだ。それに、俺を講師として雇うには莫大な金が必要になる。何よりいつまでもSSランク冒険者を一所に置いておくと世界の損失になる」


 そう説明すると、理解してくれたらしく納得はしていないが全員がわかってくれたようだ。SSランク冒険者うんぬんはただの言い訳であるが、これ以上ここにいると国王が頭を抱える事態となってしまうため、今日で講師の仕事は廃業である。


「ローランド先生、ちょっといいですか?」


 大体の騒ぎが終息した頃合いを見計らい、ファリアスが声を掛けてきた。その声に応えるように歩み寄ると、話があるということだったのでそこから学園長室へと移動する。


「ふう。それにしても、この二週間で人気者になりましたね」


 部屋に入るなりそんなことを言ってくるファリアスだったが、別に人気取りのために講師をしていたわけではないため、肩を竦めただけに留める。


「そんなつもりはなかったんだがな」

「元はこの国を救った英雄であり、冒険者としての格も最上位の方ともなれば、黙っていても人気になるのは当然です」

「それよりも、話とはなんだ?」


 これ以上彼女の世辞を聞くのはあまり居心地が良いとは言えないので、すぐに本題を切り出してもらうことにした。そんな俺の心情を察したのか、コホンと咳払いを一つして「失礼しました」と一言入れ、本題を切り出した。


「本日をもって、雇用期間は終了です。お疲れさまでした」

「ああ」

「私個人としてはもっといてくださってもいいのですが、あなたを雇えるほどこの学園も余裕がありません」

「元々講師に向いていないからな」

「あなたがここへ来てから生徒のレベルは格段に向上しました。それだけでも、あなたが来てくれたことに意味があったのだと思います」


 そう告げると、ファリアスは頭を下げてきた。俺としては国王との契約に従って動いただけなので、感謝されても困りものなのだが、俺の行動で誰のかの役に立てたのであればよかったと思うことにした。


「感謝の言葉は受け取っておく。最後に生徒に挨拶したいのだが」

「わかりました。では、参りましょう」


 そう言って、ファリアスと共に講堂へと向かう。ここに来たときは、臨時ということもあって全校集会を開かれることはなかったが、誰もが認める名講師となった以上公の場で辞職する旨を伝える必要が出てきてしまったのだ。


 先ほどの抗議活動も一旦落ち着いて、講堂に全校生徒が集まっている。その顔はどこか不貞腐れているような不満気な様子で、俺が辞めることに納得はいっていないといったところだ。


「本日をもって、臨時講師のローランド先生が辞職となります。では、ローランド先生挨拶を」


 そう告げると、俺はファリアスと入れ替わりで壇上へと上がる。すると、堰を切ったように生徒が叫び声を上げ始めた。


「先生! 辞めないでくれ!!」

「まだ先生に教わりたいことがたくさんあるんです!」

「先生ぇー!」


 そこからしばらく生徒たちが叫び続けたが、俺はその様子を黙って見ていた。そんな俺の様子に叫んでいた生徒たちも次第に声を上げなくなり、ついには講堂が沈黙に包まれる。


 それを確認した俺は、一つ息を吐き出すと俺の言葉を待っている生徒たちに向かって話し始めた。


「ようやく静かになったようだな。いいか、元々俺はここで講師をすることに乗り気じゃなかった。まだ成人してない俺が、自分よりも年上の生徒を持つなんて何の冗談だってな。今もその考えが間違ってないと思ってるし、それが当たり前のことだと他の連中も思っている。この二週間という期間で教えられることは教えたつもりだ。あとはお前らがどれだけ自分の可能性を伸ばせるかに掛かっている。だから大丈夫だ。現にここにいる誰一人として成長しなかった奴はいない。ということで、今日で俺の指導は終わりだ。お前らはまだまだ未熟者だが、これから先強者となるきっかけは与えたつもりだ。慢心することなく己を鍛え、努力し続ければ必ず成果は出せるだろう。最後に一言だけ言葉を贈るならこうだ。“サボるな、ちゃんと修行をしろ!!”以上」


 別れの挨拶にしてはあまりにあまりな言葉に、生徒たちも唖然としていたようだが、俺らしいといえば俺らしいということで、最後には溢れんばかりの拍手が講堂に降り注いだ。

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