ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
367話「無詠唱の講義」
「これより、抜き打ちのテストを行う」
『えぇー』
俺がそう宣言すると、教室内にひな非難の声が響き渡る。うむうむ、予想通りの反応で実に結構。
あれからさらに数日が経過した俺の学園生活は、特に問題らしい問題はなく、精々生徒と同僚の職員からの質問攻めの日々を送っている程度だ。
以前から他のクラスの生徒からの要望で俺の授業を受けたいという声が上がっていると話したが、結局合同授業という形で落ち着き複数人の職員と協力して行うことになった。
何故かはわからないが、その協力してくれる職員の枠を巡って同僚の職員たちが毎回殺し合いをするかの如く気迫だったが、授業中は特に問題はなかったので、あまり気にしてはいない。
後で聞くと、基本的に授業は生徒のために行われるため、当然だが生徒優先だ。そして、見学したいのなら生徒の後ろからということになるのだが、授業に協力すれば実質的に授業に参加している扱いとなり、見学する人間よりも間近で俺の授業を聞けるということのことだ。
何はともあれ、俺が講師を務めるようになって大体だが一週間が経過した。そこで、俺は生徒たちがちゃんと教えた内容を理解しているのかどうかを確かめるべく、事前告知なしの簡単なテストを行うことにしたというわけだ。
テストといっても、俺の授業を真面目に受けていれば問題なく答えられる内容ばかりであり、問題の内容は箇条形式にしてあるため、特に難しいことはない……はずだ。
「では、始め」
ぶーぶーと文句を言いつつも、俺の指示に従い生徒たちがテストを受ける。ちなみに、合同授業であるため以前まで教えていた二十人程度が入る教室ではなく、全校集会が行われる時に使用される講堂のような場所を使わせてもらっている。使わせてもらっているとは言ったが、ぶっちゃけ数百人という生徒に授業を教えるにはそこしか授業できる場所がないと言った方が正しい。
数百人という人間から出されるペンを書く音が響き渡り、その音が彼らの真面目に取り組む姿勢が窺える。ちなみに、テストの問題数は五問で各配点は一問につき二十点だ。
回答時間もそれほどかかるものでもないため、十分十五分くらいの時間を設けているが、すでに回答が終わった者もおり、誤りがないか二度三度と見直しをしている姿もちらほらと出始めている。
「そこまで、後ろから回答用紙を回してこっちに持ってきてくれ」
テスト終了の合図を出し、すべての回答を回収する。そして、俺の持つ【超解析】と【並列思考】を駆使してすべての回答用紙を瞬時に確認する。平均点は六十点くらいで、大体三問くらい正解している生徒がほとんどだったが、概ね俺が教えてきたことは理解できていると判断できる材料は揃ったので、そろそろ次のステップに移ることにする。
「よし、では今日の授業は、お待ちかねの“無詠唱を体得するための方法”について話していくとしよう」
俺がそう口にした瞬間、その場にいた全員がざわつき出す。そして、何故か見学していた職員も同様にざわつき始めた。というか見学者の中に学園長が混じっているのだが、仕事はいいのだろうか。
そんなことを頭の隅で考えながら、俺は改めて今まで授業で教えてきた内容から授業を始めることにする。
「まずおさらいだが、魔法を行使するための一般的な工程は、想像、詠唱、魔法名だ。頭で思い描き、呪文を詠唱し、魔法名を口にする。これはお前らが今までやってきた極々一般的とされる魔法を発動させるまでの工程となる。ここまではいいな?」
俺の問い掛けにその場にいる全員が頷く、それを確認すると俺はさらに続きを話し始める。
「でだ。魔法を使うために必須なのは、想像と【魔力制御】と【魔力操作】であり、それ以外の詠唱と魔法名はまったく必要ない。そして、無詠唱を使うために必要なのは【魔力制御】と【魔力操作】のレベルがどちらも4以上だと以前に話したと思うが、そもそも詠唱とは何かについての話を今からする」
そう前置きをして俺は詠唱についての詳細を話し出す。詠唱というのは三つの構成から成り立っており、それぞれ【属性指定】、【媒体指定】、【発動トリガー】と俺は呼んでいる。
例えば、ファイヤーボールという魔法を使う時、一般的な詠唱は“火よ、我が魔力を糧とし、敵を討て”というものであるのだが、この短い詠唱の中に先ほどの三つの構成が含まれている。“火よ”という詠唱で使用する魔法の属性の指定をし、“我が魔力を糧とし”の部分で、魔法を発動させるために必要な魔力をどこから引き出すのかを明確にし、最後に“敵を討て”の部分で魔法を発動させるために必要なトリガーを含めることで、魔法が発動する仕組みとなっている。
さらに、この詠唱はあくまでも基本的な詠唱であるため、極端な話しになってしまうが、“火、俺の魔力、倒せ”という詠唱でも問題なく魔法が発動してしまうのだ。もちろんまったく同じ条件で発動はしないものの、ファイヤーボールという魔法を使うという目的一点を見た場合、何ら問題はない。精々、命中の精度や威力、消費魔力に多少の変動があるくらいである。
「というように、詠唱はこの三つの構成で成り立っているのだが、さっきも言ったが、魔法は頭で思い描いたことと魔力制御と魔力操作、この三つさえあればでできてしまう。もちろん、ある一定の魔力も必要だが、魔法を使うという一点を見た場合において必要なのはこの三つだ。そこでだ。いきなり詠唱なしで魔法の発動が可能かといえば、可能ではあるが現実的に困難であるというのが俺の見解だ。では、次はこの困難な理由について説明していこう」
俺はさらに応用的な話を続けていく。ここからは少し小難しい話になってしまうのだが、詠唱というものは、言わば魔法を発動させる補助をするものであり、言ってみれば自転車の補助輪と同じ役目を担っているものだ。
補助輪を付けることで転ぶリスクを軽減させ、尚且つ自転車に乗るためのバランス感覚を鍛えることができ、最終的には補助輪なしでの走行が可能となる。それが自転車の補助輪というものだ。では、魔法における詠唱とはどういったものなのか。それは、“魔法を使うための補助を行うもの”という存在であり、最終的には無詠唱に至るまでの補助的な役割を持っているものに過ぎないということだ。
「つまり、詠唱を続けていれば、将来的には無詠唱に至ることが理論上は可能ということになる。では、なぜ多くの者が魔法を使う時に詠唱を必要、または使い続けているのか、それは先入観だ。“詠唱をしなければ魔法は発動しない”という偽りの常識にとらわれ、無詠唱の条件を満たしているにもかかわらず、詠唱という工程をわざわざ踏んでしまっているというのが現状だ。だから、現役の魔法師団の団員や上位ランクの魔法使い冒険者などは、ちょっと訓練すればすぐに無詠唱での魔法が使えるようになると俺は見ている」
俺がそう断言すると、見学していた人間がいる場所から“ガタッ”という音が聞こえた。言っていなかったが、実は見学しているのは学園の職員だけではなく、授業の評判を聞きつけた王城に勤めている騎士団や魔法師団の団長クラスも混じっているのだ。
それから、さらに無詠唱についての講義が続き、生徒や職員からの質問も飛び交う中、一通りの説明が終わったため、生徒たちを訓練場へと移動させることにした。
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