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ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

365話「俺の座学は職員も興味津々」



「……では、これより授業を始める」


 昼休み後昼食を食べ終えた俺は、午後一番の授業を行うことになった。それは別段構わないことなのだが、どうして他の職員が俺の授業に出席しているのだろうか?


「あなたの授業に興味があるのですよ」


 俺の顔色から心情を読み取った学園長が彼らの気持ちを代弁してくれたが、この学園には暇人が多いのだろうかというのが正直なところだ。


 生徒に視線を向けると、訓練場で俺が魔族を撃退した英雄だと知ったことで、全員が借りてきた猫のように大人しくなり、もう誰も俺が子供だからと文句を言わなくなっていた。


 とにかく、俺は俺に与えられたことを遂行するだけなので、一つ咳ばらいをして授業を始めることにする。


「まずは当たり前のことから話すが、魔法を使うには魔力が必要だ」


 教室にある黒板に魔法と魔力という文字を書き、その文字を丸で囲みながら説明していく。


「そして、魔法とは何か。一言で表現すれば“頭に思い描いたことを魔力を使って体現する物理現象である”だ。ここまででわからない奴はいるか?」


 そう投げ掛けると、誰も異を唱えなかったため、俺は続きを話していく。


 単純に頭で思い描くといっても、元々想像力というのは一種の才能のような側面を持っており、現代の人間ならばともかくこの中世並の文明力しかないこの世界では想像力豊かな人間は少ない。


 そして、頭で想像したものを魔力で体現するという行為自体誰でもできるわけではなく、ある一定の魔力制御と魔力操作のスキルが必須となってくる。


 俺が今まで教えてきた人間にも、まず最初にやらせたことはこの二つのスキルを鍛えるところからであり、円滑な魔法の行使を実行するためにはこの二つのスキルをどの程度まで鍛えているかが重要なものとなっている。


 いくら膨大な魔力を持っていたとしてもそれを使いこなさなければ宝の持ち腐れであり、逆を言えばコントロールできない場合暴発して危険な状態に陥ることもあり得る。


「であるからして、魔法を使いこなす一番の近道は、この【魔力制御】と【魔力操作】の二つを鍛えることである。ここまでで何か質問はあるか? ……じゃあ、そこのお前」

「覚えた魔法を使い続ければ上手くならないのですか?」


 幾人かの手が上がったので、その中の一人を指した。見学している職員からも手が上がっていた気がしたが、見なかったことにする。


 結論から言えば、それでもある程度の魔力制御と魔力操作のスキルは上達するが、習得した魔法という限定的な習熟のみで、他の魔法を使おうとした時、また同じように修練を積まなければならないことになってしまう。


 基本的に魔力を制御したり操作する行為は、使用する魔法によって難易度はあれどもやることはほとんど変わらない。そのため、この二つの制御と操作の二つを鍛えることで使える魔法の熟練度を全体的に底上げすることができるのだ。


「そして、肉弾戦を主体に戦っている者にとっても、この二つの制御と操作は重要となってくる。それは、魔力というものが魔法の行使だけではなく身体強化を行う時にも必要となってくるからだ」


 その言葉を聞いて、今までなんとなく聞いていた体育会系の生徒も目の色を変える。模擬戦を行った生徒の中にも身体強化を使う者がおり、最初に戦ったバルドも低レベルだったが身体強化を使用していた。


 魔法の講義だからとあまり興味のなかったところに、自分に関係のある話をされれば、誰だって前のめりになるのは自然なことだ。


「だから、今日から宿題として寝る前に魔力制御と魔力操作を鍛えるため、今から教える練習法を行ってくれ。サボればサボるほど強くなるチャンスが遠のくから、強くなりたきゃ真面目に取り組むように」


 そう前置きをして、俺は生徒たちに二つのスキルの訓練法を伝授する。伝授といっても特に小難しいことはなく、へその下にある丹田と呼ばれる部分に意識を集中させ、そこに丸い球があるイメージをする。そのイメージし球を上下左右に動かしたり、大きさや形を変えたりするだけのシンプルな訓練法だ。


 上下左右に動かすことで魔力の操作が鍛えられ、大きさや形を変えることで魔力の制御が鍛えられる。そして、この訓練法の利点はやればやるほど効果が上がっていくということだ。


「よろしいでしょうか?」

「たしかモリーだったな。何だ?」

「あなた……先生の今までの説明は理解できました。その上で教えていただきたいのですが、わたくしが使おうとした【ダークフレイム】が何故発動しなかったのかを」


 モリーからの質問を吟味して考える。彼女の顔つきからもう既にその答えは見えているのだろうが、俺から直接聞くことによって自身が出した答えが正しいかどうか知りたいといったところなのだと当たりを付ける。


「もう既に理解できていると思うが、お前の魔法が発動しなかった原因は三つ。一つ、魔力制御。二つ、魔力操作。そして、最後にお前自身が持っている総魔力量がダークフレイムの消費魔力を下回っていたことによる魔力不足だ」

「やはりそうですか」

「あ、あのー。どういうことでしょうか?」


 俺の回答に納得を見せたモリーだったが、他の生徒は理解できていなかったらしく、追加で質問をしてくる。特に秘密にするようなことでもないため、俺は順序立てて説明してやった。


「まず前提条件として、魔法を使うには魔力の制御と操作が必要であり、それに伴い頭で思い描く想像、さらに魔法名と呪文の詠唱が必要となってくる。そして、魔法を使用するには魔力を消費する。魔法によって消費する魔力量は異なっており、例えば【ファイヤーボール】という魔法の消費魔力は、個人差もあるが大体二十から五十ほどだ。だが、あくまでもそれは基準であり、人によっては百や二百という膨大な量を必要とする人間もいる。ここまではいいか?」


「は、はい。なんとか」


 できるだけ順序立てて説明しているとはいえ、かなりまどろっこしい説明であることに変わりはない。理解できているのか少々怪しいところではあるものの、わからなければまた質問に来るだろうと考え、俺は続きを説明する。


「でだ。モリーが模擬戦の時に使おうとした【ダークフレイム】の消費魔力は個人差もあるが大体二千から三千程度。だが、モリー自身が持っている総魔力量は現時点で千五百しかない。つまりその差分である五百が不足しているため、ダークフレイムの発動が失敗する結果となったというわけだ」

「なるほど!」

「ちなみに、少し難しい話をすると、魔法自体の発動条件と発動した魔法を効果的に運用するために必要な条件というのは異なっている。例えば、ダークフレイムを効果的に使用するために必要な魔力量は二千以上だが、発動自体に必要な魔力量は千で事足りる。だから、モリーが使ったダークフレイムも発動の条件は満たしていたため顕現はしたが、運用するための条件を満たしていなかったため、短時間で消失してしまったというわけだ」

『そこのところ詳しく!!』


 俺が少し専門的な話をしたところ、見学していた職員が声を揃えて叫んだ。詳しくも何も説明した通りなのだが……。


 例えば、総魔力量が千の魔法使いがいるとする。そして、その魔法使いがファイヤーボールを発動するために必要な魔力量が十で運用可能な魔力量が二十だった場合、この魔法使いがファイヤーボールを発動させることができる回数は百回だが、それを効果的に使える回数となれば五十回が限度だということである。


 またそれ以外にも火魔法やその上位となる炎魔法のスキルを所持していたり、魔力制御並びに魔力操作のレベルが高いことも魔法発動や運用に大きく影響を及ぼすため、一概にこうだという断言ができないということも合わせて説明してやった。


「となってくると、比較検証をする際はその魔力制御と魔力操作のスキルや、その他の所持しているスキルの影響を顧慮しなければならないということか?」

「待て待て、そうなってくると検証するべき数が途方もないことになるぞ?」

「それにそれだけの数の魔法使いを集めるのも一苦労だ」

『どうすればいいんですか!?』


 それから、見学組の職員が阿鼻叫喚の状態に陥り、俺の「中央値となる値を設定して、たいだいこれくらいという基準値を設ければいい」という結論を聞くと、さっそく検証だとばかりに何人かが走り去っていった。


 どうにもこうにも収拾がつかなくなったため、生徒たちに魔力制御と魔力操作の訓練を実際に体験してもらったところで、その日の授業が終了となった。余談だが、授業終了後生徒と職員からの質問攻めにあったのは、言うまでもない。

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