ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
364話「ネタバラシ?」
「次に挑戦したい奴はいるか?」
バルドとの対戦が終了した俺は、次に相手をする生徒を呼び込む。さすがに自分の同級生が年下に負けるとは思ってもみなかったようで、全員が固まったまま動かないでいた。
「ま、まさかバルドが負けるなんて」
「それだけあの子が強いってこと?」
「お前次行けよ」
「バルドがあれじゃあ俺なんて瞬殺だよ!」
次に立候補がいないため、指名して無理矢理引っ張り出そうとしたその時、一人の生徒が前に出てくる。その姿はいかにも貴族の令嬢ですといった豪華なドレスと、それに見合う優雅な礼儀作法を身に着けている様子で、誰が見ても高貴な人間であることが窺える。
「次はわたくしですわ」
「名前」
「聞いて驚きなさい。わたくしは、バルロー侯爵家が次女、モリー・バルローですわ」
「あっそ。武器か魔法かどっちで戦う」
「ちょっと、それだけですの?」
国王と友好な関係を築いている俺にとって、侯爵だろうが公爵だろうが、貴族のその他有象無象とまったく同じだ。知り合いに王女や公爵家や辺境伯家の令嬢に知り合いがいるため、余計にそう感じてしまうというのもあるだろうが、貴族の令嬢だからといって特別な感情を抱くことはないのだ。
それがお気に召さなかったらしく、目を三角にして不満を漏らすモリーだったが、そんなことは俺の知ったことではないため、短く答えてやる。
「それだけだが? そんなことよりも、さっさと武器か魔法どっちで戦うか選べ。何度も同じことを言わせるな」
「くっ、ま、魔法ですわ」
「魔法か、であれば」
魔法で戦う場合、武器で戦う時と違って万が一が存在する。だから、魔法を直接ぶつけ合うというようなことは控え、俺が張った結界にどれだけのダメージを与えたかで判断することにした。
「今俺の周囲に結界を張ったから、自分が持つ攻撃魔法を使ってそれを破ってみろ。破れればお前の勝ちだ」
「いいですわ。わたくしの恐ろしさをとくとご覧なさい」
「では、試合開始!」
俺のルール説明が終わると同時にファリアスが試合開始の合図をする。そして、モリーはすぐさま魔法での攻撃を始めたのだが……。
「火よ、我が魔力を勝てとし、我が前に立ち塞がる敵を討て。【ファイアーボール】!」
「えー」
ボーマンの論文を読んだ時から嫌な予感がしていたのだが、どうやら魔法を使う時は詠唱を行うのが一般的のようだ。俺の周囲にいる魔法使いは、俺が直々に指導したこともあって当然全員が魔法名だけを口にする無詠唱が主流だ。その魔法名も本来であれば口にする必要がなく、どちらかといえば使う相手に対し“こういう魔法を使うぞ”という意思表示のために口にするものであって、その気になれば魔法名すら口にする必要性はない。
もちろんのことだが、詠唱や魔法名を口にすることでイメージが固まりやすく、魔法の発動を補助してくれる役割があるのだが、一秒の遅れが命取りとなる実践においてそんな悠長に事を構える暇など皆無だ。
よって、魔法を使うならば理想としては魔法名すら口に出さず、最低でも詠唱を破棄した魔法名のみでの魔法行使が理想形なのだが、どうやらモリーはその領域にすら到達していないらしい。
「きゃあ」
「ああ、言い忘れていたが、ある程度の威力を下回る魔法は結界の能力で跳ね返ってくるので、気を付けろ」
「そ、そんなこと一言も聞いてないですわ!」
「今言った」
こちらからの反撃ができない以上、何かしらの形で相手にダメージを与える手段が必要だったので、一定の威力を持たない魔法を跳ね返す効果を結界に付与してみたのだ。これならば自分自身の魔法が跳ね返ってくるだけであるため、直撃を受けない限りは小さな怪我だけで済む。……俺がやるとファイヤーボールで消し炭になるからな。
理不尽な状況に不満気な様子のモリーだったが、すぐに状況を理解して次の行動に移ったようだ。威力が弱い魔法を跳ね返すのならば、威力の強い魔法を放てばいい。それは当然のことなのだが、問題はその魔法を自身が扱えるかどうかが重要なわけで……。
「黄昏よ、深淵の中に眠る気高き炎よ、盟約の言葉を紡ぎし我が願う、炎よ、薙ぎ払え! 【ダークフレイム】……くっ」
「発動失敗だな。まあ、魔法自体は短時間だが顕現しているから、純粋な魔力不足ってところか」
火魔法の上位である炎魔法【ダークフレイム】を発動しようとしたモリーだったが、彼女の持っている魔力総数では発動することは難しかったようで、発動自体はしたもののすぐに消失する結果となる。
それでも、短時間とはいえ彼女の年齢で上位魔法を顕現させること自体が珍しく、磨けば光る可能性を十分に見せてくれたと言える。結局、戦闘継続不能によるモリーの敗北となったが、元々勝つことが目的ではないので、そこは気にする必要はない。
「次は誰だ?」
「まさか魔法の申し子と言われたモリー嬢が……」
「あの子供一体何者なのですか!?」
クラスの中でも上位の実力を持った生徒が敗北したことで、生徒たちの間に動揺が広がる。そんな中、まるで身内事のように割って入ってきた人物がいた。お騒がせ王女ティアラである。
「あの方こそ、先の迷宮都市オラルガンドの一件にて魔族を撃退し、史上最年少のミスリル一等勲章所持者となられた英雄ローランド様ですわ!」
『な、なんだってぇー!!』
ティアラからもたらされた情報に一同が声を上げる。まさか、自分のクラスにそのような大人物が先生としてやってくることなど夢にも思わず、生徒たちの驚きはひとしおであったようだ。
そんなことは一切関係ないので、俺は次の生徒を呼び込むが、ティアラからの情報によって全員が委縮してしまう結果となってしまったようで、先ほど以上に渋る生徒が続出してしまう。
「早くしろ」
「そ、そんなこと言ったって」
「あの英雄様になんて勝てっこないぜ」
「お前行けよ」
「はぁ、ふざけんな!」
やれやれ、ティアラのやつ余計なことを言ってくれたものだ。それに抗議するように彼女に視線を向けると、何を勘違いしたのかこちらに向かって屈託のない笑顔を向けてくる。一体誰のせいでこんな状況になっているのか理解できているのだろうか。
「別に俺に勝つ必要はない。今回の模擬戦の目的は、今のお前らの実力を知ることにある。だから、遠慮せずにかかってこい」
その言葉で安心したのか、はたまた次の対戦相手が顔見知りのティアラたちだったのがよかったのか、気負うことなく全員の模擬戦が終了した。当然だが、俺の全勝で終わった。
ちなみに、ティアラたちの実力はローレンは武器をティアラとファーレンに関しては魔法を選択した。三人とも、なかなかに鍛えられている様子だが、やはり実践経験がほとんどないためか、今一歩というのが正直な感想だ。
他にもなかなかの才能を秘めている者もいたが、総じてまだ若いということもあって発展途上というのが総評だ。年下の俺が言うのもなんだがな。
「では、全員模擬戦を行ったので、次は座学だから次の授業でな」
そう言いながら、俺は最初の授業の終了を宣言し、学園長と共に訓練場を後にする。いくら担当とはいえ、すべての授業を受け持つわけではなく、歴史や算数などの専門的な知識を教える先生もいるため、俺がすべてを一から教えるというわけではない。
どちらかといえば、俺の担当は武術と魔法の戦闘的な分野、地球で言うところの体育教師のような位置付けと言った方がわかりやすいだろう。でなければ、二週間という短期間で学園で習うすべてのカリキュラムを叩き込めるわけがない。
「次の授業はいつだ?」
「昼休みを跨いだ午後一番になりますね」
「なら、それまで時間があるってことだな」
「そうなります。……ところで――」
「ローランド先生、今よろしいでしょうか?」
学園長と話しながら歩いていると、突然声を掛けてくる人物がいた。よく見ると、今日の朝礼の中にいた職員の一人で、確か植物学関連の論文を発表していた職員だったはずだ。
「何か?」
「先生がご指摘なされた【薬効を持つ植物とそれ以外との関連性】についてなのですが、こういった事象が報告されておりまして、先生の見解をお聞きしたく」
「どれどれ。ああ、これは特殊個体または特殊環境による変異の可能性が高いな」
「と、言いますと」
どうやら、自身の専門分野についての意見が聞きたかったようで、質問に答えると満足気に帰って行った。その後も事あるごとに職員が俺に意見を求めにやってきて、挙句の果てには学園長も俺に質問してくる始末となってしまい、結局昼休みになるまでそれが続くこととなってしまった。
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