ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
363話「会いたくなかった三人と模擬戦」
「今日は、あなたたちを受け持つ新しい先生を紹介します」
教室に到着すると、ファリアスから俺の紹介する言葉が飛び出す。室内には二十人前後の十二歳から十四歳くらいの少年少女が着席しており、まさに学校といった雰囲気だ。
ぱっと見てみると、纏っている雰囲気が高貴な出の者が多いようで、貴族の子弟や有力商人の息子娘など国の重要人物の子供が七割を占めている。
もちろん、学園に通えるのは何も貴族などの有力者だけではない。一般試験に合格した平民や地方出身の村人なども学園の門を潜ることを許されており、残りの三割がそれにあたる。
基本的な方針として、入学する生徒は貴族や平民などによる身分さの待遇を良しとしておらず、学園ができた当初から当時の国王の方針によって決定されている。それは今でも脈々と受け継がれており、だからこそ試験さえ合格すれば平民でも入学が許されているのだ。
「今日から二週間お前たちを教えることになったローランドだ。よろしく頼む」
「なんだよ、子供じゃないか」
俺が挨拶をすると、その中の一人の少年から声を上げた。見た目はいいところのお坊ちゃんで、見るからに貴族ですといった感じの少年だ。
新しい先生を紹介されたと思ったら、明らかに自分よりも年下の子供が現れて偉そうな態度で挨拶をされれば、一体何の冗談だと思うのは当然だ。だからこそ、少年の言っていることは何となく理解できるが、残念ながら今回は冗談でも何でもないのだよ。
などと脳内で遊んでいると、座っている生徒たちの中に見覚えのある顔があった。俺と目が合うと、彼女は嬉しそうに微笑み軽く会釈をしてきた。それを目敏く見た少年が彼女に問い掛ける。
「ティアラ殿下。この子供を知っているのですか?」
「私の未来のだん――あいてっ」
「王女殿下? いかがなされましたか?」
「い、いえ。なんでもありませんわ」
何の因果か、その少女の正体こそシェルズ王国第一王女であるティアラだった。まさか俺が受け持つクラスにティアラがいるとは思わなかったが、問い掛けてきた少年にないことないことを吹き込もうとしていたため、指で弾いた空気弾を見舞ってやったら大人しくなった。
よくよく見ると、ティアラだけではなくその両隣にはローゼンベルク公爵家のファーレンやバイレウス辺境伯家のローレンなどの姿が見られた。
(マジかよ。国王の策略か? それともただの偶然……なわけないだろうな。大方、ティアラあたりが俺との接点が少ないとかなんとか国王に泣きついた結果といったところか)
彼女たち三人が揃っていることに違和感を覚えたが、これが俺を彼女たちと引き合わせる策であるならば、この三人がこの場にいることにも説明がつく。
それに気付いたが、すでに依頼を受けてしまっている以上今更断ることもなんとなく負けた気がしてできないため、今回は彼女たちの思惑に乗る形にしてやることにした。
他の生徒たちを見回すと、俺に最初にいちゃもんを付けてきた少年だけはなく他の生徒たちも困惑しており、あまり歓迎されている雰囲気ではない。しかし、ティアラたちは別としても、他にも目を輝かせている連中がいることに気付いた。それは、平民の少年少女たちである。
彼らがなぜそんな態度を取っているのかはわからないが、とりあえず講師として彼らを教えるからには上下関係を教えるところから始めるため、俺は口を開いた。
「お前たちが困惑するのも無理はない。そこでだ。個々の実力を知るため、一人ずつ今から俺と模擬戦をやってもらう」
「はっ、模擬戦だと? お前みたいな子供が俺たちに敵うわけないだろう」
「なら何も問題ないではないか? 俺がお前らよりも劣っているなら俺が負けるだけだ。お前たちには何の不利益にもならない。というわけで、訓練場まで移動だ」
こうして、俺は生徒たち一人一人の実力を知るべく、彼らと戦ってみることにした。
訓練場……学園内において剣術などの実技や魔法の訓練を行うための場所であり、そんな場所が学園には数か所存在している。生徒が個人的に利用するためには、事前に学園に使用許可を取る必要があり、騎士などを目指す生徒たちの予約で埋まっている人気の施設だ。
そんな訓練場の一つに俺は生徒たちを引っ張り出して、今から模擬戦を行おうとしている。目的は個々の能力の把握だが、これから講師として生徒たちが教わる姿勢が取れていないため、実力差を示すことで強制的にその態度にしてしまおうという思惑もある。
「まずは誰からだ?」
「俺だ」
俺が投げ掛けると、十四歳くらいの少年が出てきた。少年といっても同年代の少年と比べてガタイが良く、筋肉の付き方もかなりのものだ。ただし、未だ成人していおらず年齢的にもまだまだ成長真っただ中であるため、伸び代はかなり残っている。
「名前は?」
「バルドだ。ただの平民の子供だ」
「そうか。では、一応聞くが武器で戦うか魔法で戦うかを選んでくれ」
俺の問いに淡々と答える姿は騎士のそれを思わせ、見た目からも彼が騎士を志望していることがわかる。そんな彼に武器か魔法を聞くのは無粋かとも思ったが、万が一にも魔法で戦うことを鑑みれば俺の問いは当然のものであった。
そして、当然バルドは武器で戦うことを選択し、俺がストレージから取り出した武器の中から木製の剣を手に取ると、そのまま戦闘態勢を取った。
「学園長、審判をお願いしたい」
「わかりました。それでは。試合……開始!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「……」
「……」
ローランドとバルドの間に言葉はなく、静寂がその場を支配する。試合開始の前には生徒たちのバルドを激励する声が飛び交っていたが、目の前の異様な光景に声を出せないでいる。
(ここまで。ここまで差があるというのか……)
バルドは内心で焦っていた。自分よりも年下であるはずの少年が、絶対に超えることができない圧倒的な壁に感じてしまっていたからである。ローランドの構えは特別なものではなく、ごく自然体の状態であるが、それでも一分の隙がなくどこに打ち込んでも無力化されるビジョンしか、彼の脳内シミュレーターには映し出されなかった。
元々、これまで剣術に明け暮れる日々を送っていた彼にとってローランドの実力はある程度のものであると見ていたのだが、実際に対峙してみてその実力の差を嫌というほどわからされてしまった。
「どうした。打ち込んでこないのか?」
などと言われたところで、そんな隙が一体どこにあるんだと喚き散らしたくなる衝動を寸でのところで抑え込みつつ、ただただ時間だけが過ぎていく。
痺れを切らした生徒たちからもヤジが飛び交い始めた。しかし、外野の勝手な言動にバルドは内心で舌を打つ。攻めなければならないということは本人が一番よく理解している。だが、それができれば苦労はないのだ。
圧倒的強者が放つ威圧感。それは対峙した者のみが鋭敏に感じ取ることができる感覚であり、相手に意識を向けられているが故にわかってしまうものなのである。
「参った、降参だ」
攻める手立てがないバルドが取れる最善はなく、潔く投了する以外にはなかった。例え千年掛かっても、一本取ることはおろか懐に入ることすらできない高みを感じてしまったのだから。
だが、そんな選択を彼が許してくれるかは、また別問題だということをバルド自身は理解していなかった。であるが故に――。
「それじゃあ、お前の実力がわからないじゃないか。……よし、今から俺が攻めるからそれを受けろ」
「え?」
「その受け具合でどの程度なのか判断するとしよう。じゃあいくぞ」
「え、ちょ、まっ」
バルドの返事を待たず、それに慌てた彼は辛うじて解いていた構えを再び取る。その刹那、バルドの腕にこれでもかというほどに重い衝撃が伝わり、たまらず片膝を付く。それは今まで感じたことのない程の重さであり、彼の師である母親の一撃を遥かに凌駕していた。
バルドは、ある地方の村出身なのだが、そこで父親と母親、そして弟妹の五人家族で暮らしていた。母親は元々名のあるAランク冒険者だったが、同じパーティーを組んでいた男と恋仲となり、冒険者を引退後男と共に彼の出身地であるとある村で生活を始める。三人の子供にも恵まれ、順風満帆な人生を送ってきたのだが、その子供が現在ローランドと対峙しているバルドである。
(ふむ、今の一撃を耐えるか。なら、Dランクはありそうだ)
母親とまではいなかないまでも、バルドもまたその剣術の才は受け継いでいたようで、ぎりぎりのところでローランドの攻撃を受け切ることに成功する。だが、それだけで精一杯で反撃に転じることはおろかこれ以上立っていることもままならないほどにダメージを受けてしまっていた。
(もう、無理だ)
ほとんど地面に這いつくばるような体勢になりつつも、剣を手放さない根性は驚嘆に値する。ローランドもそれについて内心で感心しており、ここでようやくバルドを解放してやる。
急に負荷が無くなったことで地面に顔をぶつけてしまったバルドだが、すでに起き上がれるだけの体力はなく、そのまま地面に突っ伏す。
「俺の一撃を受けたのは良かったが、その後の反撃に転じるための体力がなかったのは些か減点だな。課題は基礎体力の強化をメインにすべきってとこか」
「……」
ローランドがバルドの評価を口にしている間、言葉を発する気力のない彼は黙ってローランドの評価を聞いている。彼が言い終わるタイミングと、審判の試合終了の合図が重なり、模擬戦の初戦はローランドの圧勝という結果となった。
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