ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
359話「フローラ再び」
「動きがあったか」
フローラに接触してからしばらくしてセラフ聖国に動きがあった。奴らの動きを見逃さないよう毎日聖都の様子や住民の噂話などを探っていたのだが、俺が予想していた通りちょっとした騒ぎが起こり始めていた。
「おい、聞いたか?」
「ああ、結界を突破したんだろ?」
「そうだ。しかも、それがあのエグザリオン様らしい」
今聖都ではある噂話が蔓延し始めている。それは、かねてより目の上のたんこぶであった国境を覆っている結界を突破したというものだ。そして、それを実現させたのが枢機卿の一人であるフローラ・エグザリオンという人物であるということも。
聖国の住民にとって枢機卿はまさに雲の上の存在であり、謂わば神にも等しい存在だ。その頂点に君臨する教皇もまた同じではあるが、ほとんど公の場に登場しないため、身近な存在とも言える。そんな枢機卿が忌まわしき結界を突破したとあれば、それは奇跡といっても過言ではない。
増してや、信心深い国民性を持った宗教国家ともなれば、それだけで聖女や神の使徒などと持て囃されるのは想像に難くなく、聖国の住民の信仰が彼女に集中し始めていた。
「元々あの方は我ら国民に手を差し伸べてくださる人格者だからな。今回のことがなくとも、信用できるお人さ」
「こりゃあ、次の教皇様は彼女で決まりかな」
噂というものは真偽関係なくどこからか漏れてくるものであり、それが真実であれば問題ないのだが、それが虚偽の情報であった場合、それを訂正するためには多大なる労力が必要となってくる。
しかしながら、今回に関しては結界をスルーできるアイテムを俺直々に手渡しているため、噂の信憑性を確かめる必要すらなく、「上手いことやったんだな」と確信を持っていた。
それでも、確実だとわかっていても裏を取ることは必要であり、俺は最終確認のため再び大聖堂へと忍び込むことにしたのである。
「誰ですか?」
「お久しぶりにございます。入ってもよろしいでしょうか?」
「……どうぞ」
さすがの二回目ともなれば、俺が誰だか理解できたようで、すぐに部屋に入れてもらえた。だが、心なしか視線が以前よりも熱いものに変わっている気もしなくはないが、単刀直入に用件を告げる。
「どうやら、上手く使えたようですね」
「あなたは。いえ、あなた様は何者なのですか?」
「ただの神官見習いの小童ですよ。少なくとも、今はね」
フローラの問いにのらりくらりと躱しつつ、彼女からアイテムの成果を聞いていく。俺が予想した通りの成果を生み出してくれたようで、見事に結界を通ることができたとのことだ。しかも、結界を通り抜けることができるのは彼女限定であり、例え彼女に同行したとしても結界に弾かれてしまう仕様となっているため、彼女の価値が面白いくらいに上がったとのことだ。
「あなた様は神の使徒なのですか?」
「もしそうなら、もっと上手くやると思いますよ。こんな回りくどいやり方じゃなく、それこそあなた自身に結界を通り抜ける能力を与えるくらいわけなくするでしょうね」
「……」
フローラはどうやら俺のことを神の眷属や使徒だと予想したが、残念ながら俺はただの人間である。尤も、SSランクのモンスターをワンパンし、一国を丸ごと結界で閉じ込めてしまえる能力を持った奴をただの人間と称してしまってよいものだろうかという疑問は残るが、ステータスの種族もちゃんと人族と表記されているため、ぎりぎりセーフといったところだ。
俺の返答をどう受け取ったのかは知らないが、俺が只者ではないことを察した彼女が頭を下げ感謝の言葉を口にする。
「いずれにせよ、あなた様のお陰で自国での私の立場は向上しました。感謝致します」
「それは何よりでした。では、僕はこれで失礼します」
「お待ちください。此度のお礼をどうすればよいのでしょう?」
そう言われて、改めて考える。俺が彼女に結界を通り抜けるアイテムを渡したのは気まぐれであり、彼女の立場を向上させるだとか聖国を内部から操ってやろうなどということを実行するためでもない。だが、彼女のような善の心を持った人間が上に立てば、この国もまともになるのではないだろうかという思惑はなくもない。
フローラ自身はこう言っているが、未だに彼女の立場を貶めようとする輩はいるだろうし、他の枢機卿が結託をすればまだまだ彼女一人でこの国をどうこうできるほど甘いものでもない。
今後のことを考えれば、彼女にこの国の実権を握らせることで周囲の国にちょっかいを掛けなように手綱を握らせることも可能なのではないか。そう考えた俺は、その旨を伝えることにする。
「では、一つだけ。この国が他国にどう思われているのかは、あなたも十分にご理解していることでしょう。あなたの役目は、それをどうにかすることにあると僕は考えるのですが」
「私が教皇になることをお望みだと?」
「その必要があるのなら、それも視野に入れるべきかと。とにかく、この国が他国に迷惑を掛けなくなる方法であれば何でも構いません。あなたも、この国の現状を変えるべきだと思いませんか?」
「それは、可能であればそうするべきかと思いますが……」
「では、そうしてください。それが僕があなたからもらうお礼ということで」
そうフローラに告げ、俺は今度こそ部屋を後にする。部屋を出る際、彼女の口から「承知しました」という言葉が聞こえてきたので、この国の行く末については彼女に任せることにして、俺はシェルズ王国へと帰還した。
後日、新たな教皇が誕生し、それによって今まで悪事を働いていた人物たちが一掃された話が風の噂で舞い込んでくるのだが、それはまた別のお話しである。
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