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ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

356話「枢機卿との邂逅」



(デーンデンデンデン、デーンデンデンデン、デーンデンデンデン、デーンデンデンデン)


 大聖堂へと侵入した俺の頭の中には、不可能な作戦を可能にしていく映画のBGMが流れていた。まさか俺が本当に彼らのように潜入作戦をすることになるとは思わなかったが、差し詰め今の俺の気分はその映画に登場するハリウッドスターの気分である。


 大聖堂内部は華美な装飾や調度品などは特にないものの、建物自体が厳かな雰囲気に包まれており、前世でいうところの教会や神社の様相を呈している。そんな雰囲気とは裏腹に通りすがっていく部屋からは大聖堂という建物の名前からは似つかわしくない声ばかりが聞こえてくる。


「あぁ~ん、司祭様ぁ~」

「まったく愛いやつめ。こうしてやる! こうしてやる!!」

「もっとです! もっと滅茶苦茶にしてくださいぃ~!!」

「……」


 部屋の向こうから聞こえてくる声は、そんな男女の爛れた関係を彷彿とさせるような声ばかりであり、これでは“大聖堂”ではなく“大性堂”ではないかと一人虚しく突っ込みを入れたりしてはいたが、そんな下らないことを考えている場合ではないと意識を集中させる。


 それにしても、いくら俺が気配や姿を消して潜入しているとしても、ここまであっさりと侵入できてしまう辺り、警戒を怠っているとしか思えない。今まで潜入されたことがないのか、はたまた油断しているのかはわからないが、潜入している身で言えたことではないがもう少し警備体制を改めるべきだ。


「クラウェル様ぁ~」

「今日は忙しいのです。そういうことはまた今度お願いします」

(クラウェルだと? あのおっさんか)


 俺が大聖堂を突き進んでいるとある部屋から男女の会話が聞こえてくる。女性の発した名前に聞き覚えがあったが、あのマッドな中年男性の名前がそんな名前だったことを思い出す。


 それにしても、あのおっさんもモテているとは、人間見た目じゃないとはいうが、誘惑している女性はあのおっさんのどこを気に入ったというのか。


「クラウェル様のぅ~、硬くて太いのでぇ~、私を突き上げてください」

「まったく、これでは研究に集中できませんね。今からあなたを折檻します」


 何か重要な情報が聞けると思い耳を傾けていたが、ここでもピンク色の競技が始まってしまったため、諦めて次の部屋へと移動する。あのおっさん、爆発しろ。


 しばらく、部屋の中にいる人間の話し声を聞いていたが、そのほとんどが男女の会話だったため、早々に移動を繰り返していた。これでは本当に大性堂じゃないか!


 そんな中、ようやくまともな部屋に辿り着く。部屋の扉に設置されているプレートには【フローラ・エグザリオン枢機卿】と記載があり、どうやらあのマッドなおっさんと同じく枢機卿の部屋らしい。


 名前からしていかにもな字面だが、実際本人を目の当たりにするまではわからない。名前の豪華さとは裏腹に見た目があんまりな人間も存在する。今回もその可能性がある以上、慎重な行動が求められる。


「他の枢機卿たちにも困ったものね。口を開けば“すべてはこの国の未来のため”だとか言ってるけど、結局は自分のためにやってることじゃない」

「……」


 俺が思案を巡らせていると、扉の向こうから鈴を転がしたような女性の声が聞こえてくる。どうやら少し酔っているらしく多少言動が砕けた物言いをしている。


 今の彼女ならば欲しい情報を引き出せるのではないかと考えた俺は、さっそく行動に移る。そして、静かに扉をノックした。


「……誰でしょうか?」


 先ほどまでの言動が嘘のように取り繕った態度に内心で変わり身の早い女だと思いつつ、「例の件についてご報告に参りました」と告げる。


「……入りなさい」

「失礼いたします」


 見知らぬ人間を自室に招き入れるのは危険だが、こちらに敵意がないことを感じ取ったのか、危害を加えられても対処できると踏んだのかはわからないが、入室を許可してくれた。


 そこにいたのは、妙齢の美しい女性で白を基調とした豪奢な神官服に身を包んでおり、服の上からでもわかるほどの豊満な体つきは妖艶で男の誰もが見惚れてしまう。それに加えて聖職者独特の神々しさも持ち合わせており、妖艶でありながらどこかそういった邪念を抱くのを躊躇うほどの清らかさもあり、まさに天女や天使などという言葉が似合う女性だ。


「あなたは、見ない顔ですね」

「本日からここでお世話になることになりました。ローランと申します」

「そうですか。ところで、例の件とは?」

「ただの方便です」

「そう……それよりもあなたに聞いてほしいのだけれど」


 なんとかごまかすことができたものの、酔っているのもあってか、このまま彼女の愚痴が始まってしまった。

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