ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
354話「国王の手紙とセラフ聖国潜入」
「お帰りなさいませ」
「オ、オカエリナサイマセ」
「お、おう」
屋敷に戻ると、さっそくソバスが迎え入れてくれる。だが、その隣にはぎこちなくお辞儀をするルルミーレも一緒だ。あれから、使用人として仕事に励んでいるようだが、慣れないことが多く、いろいろと失敗しているらしい。
今彼女が身に着けているメイド服も、服を着ているというよりも服に着られているといった始末で、違和感しかない。尤も、俺としては別に爆乳メイドエルフの使用人が欲しかったわけではないため、使用人としての仕事ができなくても問題ないと考えているのだが、それに納得していないのがソバスとメイド長のミーアだ。
この二人は常日頃から「ローランド様にお仕えする使用人たるもの」というのが口癖で、他の使用人の指導に余念がない。当然、ルルミーレについてもそれは例外ではなく、メイドとしてのいろはを厳しく叩きこまれている様子だ。
「ローランド様、国王陛下から文を預かっております」
「国王から?」
そう言って俺に一通の封書をソバスが渡してきた。そこには確かにシェルズ王国王家の印が刻まれており、その文の差出人が王家であるということを物語っている。
一体何事なのかと思い、さっそく文を開けて中を検めると、書かれていた内容は以下の通りだ。
最近娘のティアラがお前に会いたいとうるさいから何とかしてくれ
王妃が次のお前のお茶会はいつなのかとせっついてくるから何とかしてくれ
伯爵以上の貴族からお前の縁談についての話が殺到しているから何とかしてくれ
「いや、知らんがな」
その内容を要約するとこんな感じなのだが、俺からすれば知ったことではない。すべて国王が対処すべき案件であり、俺がどうこうしてやる謂れはない。
それに、こう見えても俺にはいろいろとやることがあるのだ。各地の商会の状況確認やマルベルト領及びモンスター農園の視察、商会に卸す予定の商品の作製と職人ゴーレムの管理等々、やるべきことはたくさんある。
そして、そのやることをやった上で、未だ行ったことのない未開の土地への観光もやるというハードスケジュールをこなしており、そのフットワークの軽さと仕事量は前世で勤めていた会社よりも忙しなかった。……これはそろそろブラック案件に突入か?
「逃げるか……」
そんな厄介事を押し付けられても対処するのが面倒……もとい、困難であるため、そこは国王に踏ん張ってもらうほかない。そのことを相手も理解しているからか、文面にも緊急性が感じられず「そろそろ鬱陶しくなってきたからできたらどうにかしてほしい」という願望が込められているように見受けられた。
国王には何かと便宜を図ってもらっているものの、要所要所で厄介事を解決しているという貸しもあるため、貸し借りなしの関係性を築いている。今回は自力で頑張ってもらうとしよう。
「ソバス。昼食後国王に文を書くから、それを王城に届けてほしい」
「かしこまりました」
そうソバスに指示を出し、昼食後にしたためた返事の文をソバスに預けると、俺は再び屋敷を後にする。しばらく逃げ……確認しなければならないことがあるからである。
そのことについても国王に出した返答の文に記載しており、体のいい逃げ文句ではあるが、放置しておくわけにもいかない案件であるため、納得せざるを得ない内容となっている。
「ということで、やってきましたセラフ聖国国境~」
などと、軽い感じで口にしてみたが、今俺の目の前には先日セラフ聖国に張った結界が展開している。そう、俺は再びセラフ聖国へと赴いていた。
その目的は言わずもがなセラフ聖国の実態を知るための内部調査であり、平たく言えば観光である。前回は国境までで実際セラフ聖国の国内がどうなっているのか、その内情を把握していない。今日はそれを調査すべくやってきたのだ。
というのは建前であり、いくらファーストインプレッションが悪いとはいえ、セラフ聖国も国としての体裁を持っている以上、この世界における観光スポットの一つとして一度足を運んでおくべきではないのかという考えに至ったのだ。
仮にセラフ聖国の内情が俺が予想しているよりも穏やかだった場合、内部を腐らせている人間だけを処理して後を任せられる存在に託すことができれば、国として好転する可能性もなくはない……はずだ。
とにかく、国内の様子を調べないことには何も始まらないため、こうして調査のためにやってきたというわけである。決して、国王の面倒事から逃げるためだけではないと声を大にして言いたい。
「さて、入れるかな? ……お、さすがに入れたか」
結界を張る際、出入りできる条件を特に設定していなかったが、さすがに術者である俺は無条件で出入りが可能らしい。特に違和感を感じることなく俺はセラフ聖国へと侵入する。
しばらく歩いていると、前方に豪奢なテントのようなものが見えてきたたため、俺は透明化の魔法を使いつつ接近する。よくよく観察してみると、テントは複数個設置されており、その中の一つに近づいて耳を傾けてみた。
「あぁ~ん。司教様ぁ~」
「ええのんか? ここがええのんか?」
「そこは弱いのぉ~、らめぇ~」
「……」
まだ明るいうちからお盛んなことで、女の嬌声と男の荒々しい息遣いが聞こえてくる。こんなところで一体何をやっているのかと呆れつつも、他のテントに移動する。
「だから、これは何者かが仕掛けた大規模結界であり、それを解除するのは至難だと私は考える」
「それは私も同意見だが、では具体的にどうすれば解除できるというのだね?」
「そ、それは。も、目下調査中だ」
「やれやれ、結局はあの結界について何もわかっていないのではないか」
「では貴様はわかっているとでもいうのか? だったら説明してみろ!」
別のテントに移動すると、俺が張った結界について激しい議論がなされていた。真面目に働いている奴もいるということに内心で安堵しながらも、彼らの声に耳を傾ける。
「あれは各地点にある魔石を原動力として動いている結界で、基本としては結界維持に使われている。だが、結界維持だけであるなら二、三個で事足りる魔石を此度は十三個も使っている。この意味は理解できるか?」
「あの厄介な結界の効果を維持させるためか」
男の問いにもう一人の男が重く頷く。そして、さらに男が言葉を続ける。
「あの“結界を解除しようとすると、解除する能力を封印する能力”は、間違いなく結界が何者かによって解除されるであろうということを予想して張られている」
「つまり、あの結界を張った術者は、我が国に魔法を無効化する能力を保持していることをどこからか知ったということだな」
「そうだ。でなければ、あんなピンポイントな能力を付ける理由が思い浮かばない」
男たちの考察に俺は内心で感心する。彼らの言う通り、俺はガジェットとの戦いで、セラフ聖国の連中が魔法を無効化できる術があるという情報を得ていた。もし、本当に魔法を無効化できてしまうのであるのなら、結界を張ったところでそれは無意味なものとなる。そこで、俺は結界を強固にすると同時にカウンターで結界を無効化する能力を無効化するという能力を付与したのだ。
たった一つの能力から術者の思考を読み取り、それを理解することは意外に難しい。それを平然とやってのけた彼らに、俺は少なからず警戒を強める。
「まあ、引き続き調査を続けるとしてだ……」
「ああ……今はそれよりも」
「?」
「「女だぁー!!」」
(おめぇらもかよっ!!)
先ほどまでのシリアスとは打って変わり、だらしのない顔をしながら他のテントへと移動していき、しばらくして最初に聞き耳を立てたテントと同じような声が聞こえてきた。
先ほどまでの俺の感心を返してくれと届かないとはわかっていても、心の中で叫ぶ。一人の男として彼らの欲望はわからないでもないが、先ほどまでのシリアスとのギャップがあり過ぎてなんだか釈然としない。
(まあ……いいか)
そう思いながらも、何とか気を取り直して俺はセラフ聖国の中心部へと向かうことにした。
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