ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

353話「経過観察」



 あれから数日が経過する。他の事業を視察しつつ、いろいろと行った結果、どうなったのかというと……。


「はいそこ、もっと等間隔に植えてちょうだい。それだと収穫量が変わってきちゃうわよ」

「ふわわ~」

「そっちのゴーレムたちは畑を広げる作業を引き続き行ってちょうだい」

「ムー」


 てきぱきと指示をこなしているのは、先日エルフの里で仲間にしたエルダークイーンアルラウネだ。この数日でやるべきいくつか指示を出し、ゴーレムの命令権を与えると、瞬く間に土地を開墾し始めた。


 配下にしたアルラウネやトレントなどの植物系モンスターたちに畑の手入れを任せ、ゴーレムたちには新しい畑を拡張する指示しており、この数日で畑の面積は数倍にまで膨れ上がっている。


 それほどまで畑の面積を広げて問題ないのかといえば、まったくと言っていい程問題はない。なぜならば、俺が国王から借り受けた土地の面積が途方もない程に広大であるからだ。


 よく東京ドーム何個分という表現が使われるが、その方式に当てはめるのであれば、少なく見積もっても百や二百では利かないくらいからだ。


 俺たちが開墾した土地は、借り受けた土地の広さから見て千分の一に届くかどうかであり、まだまだ余裕がある。一体どれだけの広大な土地を無駄にしてきたのかと思いたくもなるが、その土地を開墾するには途方もないお金と労力が必要であることは想像に難くなく、寧ろ所持しておくだけでも一定の期間ごとに調査団を向かわせる人員が必要なことを鑑みれば、現状放置せざるを得ない。


 だが、そもそもモンスターの巣窟と化している土地を開墾するということ自体が無謀であり、そこをどうにかするという考えすら起こらないのが普通であるため、それができてしまっている現状が異常であるというのが正しい認識なのかもしれない。現状が異常……駄洒落みたいだな。


 とにかく、モンスターを駆除するのではなく配下として取り込むことで、安全と労働力の確保を同時に遂行し、新たに労働力を雇い入れるという手間を省くことができ、さらには現在進行形で畑の開墾を行わせることによって予想される収穫量は日に日に増加の一途を辿っていた。


「首尾はどうだ?」

「問題ないわよ。オクトパスとマンティコアの方もほとんどのモンスターを配下に置いて、今じゃちょっとした組織になってるみたい」

「そうか。わかっていると思うが、いくらモンスターといっても生きている以上休息は必要だ。無理に酷使させるようなことはするなよ?」

「もちろんよ」


 俺が契約を交わしているモンスターが主体となっているからか、特に問題なくそれぞれが役割をこなしているようだ。畑仕事に関してはアルラウネたちに一任すれば特に問題はなかったので、次に俺はマンティコアの陸上部隊を視察する。


「ガウガウガウ」

「そうだ。それから、敵が自分たちより強かった場合はだな。一旦距離を取って他の部隊と合流しろ」

「何をやってるんだ?」


 マンティコアがいる岩場に向かうと、岩の上で偉そうに佇みながら配下にしたウルフやオークなどに戦略のようなものを教え込んでいた。よくよく話を聞いてみると、こんな答えが返ってくる。


「アルラウネんところの仕事を手伝わそうと思ったんだが、作物の中には繊細な扱いが必要なもんもあるってんで、手伝いを断られた。だから、ここに侵入者が来た時に備えてこいつらに警備をさせることにしたってわけだ」

「ふーん」


 そう言いながら、どことなく顔を輝かせているマンティコアは、どこかやる気に満ち溢れている。ただの肉要員としてしか役割を見い出せられていなかったからか、自分ができる仕事をようやく見つけたとばかりに配下のモンスターたちに戦略を教え込んでいる。


 俺としては特に止めるつもりはなため、好き勝手やらせることにした。警備の注意事項として「悪人以外は殺さないこと」という条件を付け加え、俺はその場を後にする。


 畑から十数分の距離にある大きな河川に足を運ぶと、そこには予想どおりオクトパスがいた。一体何をやっているのかといえば、漁業だった。


「いいか諸君。我らが同士のため食料を確保することが、我々の使命である。同士のため、我らの使命を果たそうではないか!」


 どうやら、アルラウネとマンティコアが配下に置いたモンスターたちの食事を確保しているようで、マーマンやリザードマンなどの水生系モンスターたちが魚を取ったり水をくみ上げたりとあくせく働いている。


「その後の様子はどうだ?」

「これは主。特に問題はない。アルラウネとマンティコアのところと連携して首尾よく進められている」

「ならいい」


 といった具合に人っ子一人存在しない土地に畑ができ、そこに確かな文明が起こっている。このまま順調に行けば、個人で使っていくには困らない量の食材を入手することができそうである。


 契約した召喚獣たちも役割を与えられたことで生き生きとしており、アルラウネはともかくとして、残り二体が普段どれだけ暇を持て余していたのかが窺えた。


 視察の結果として、問題らしい問題は起こっておらず順調に開墾が進んでいるため、ここはあいつらに任せておくことにして、俺は一人王都の屋敷へと帰還した。

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