ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
352話「モンスター農園」
シェルズ王国北部に位置する一帯。そこは、長年に渡り開拓が進められていない未開の地であった。その原因の一つとして挙げられるのは、悪辣なまでに激しい冷害だ。
北に面しているということもあり、基本的に一年を通して平均気温が低いかの地は、作物が上手く育たず、人間にとって重要な糧を得る手段が困難だった。
冷害に加え、さらに近年の調査で明らかになったのが、モンスターの存在だ。ここ三十年の調査結果によれば、年々モンスターの数が増加しており、もはや人の手を加える以前の問題となっている。
土の品質自体は悪くなく、冷害さえ何とかすればかなりの収穫量が見込めるものの、その解決策もなく、ましてやそこら一帯がモンスターの巣となっていては作物を育てるどころの話ではない。
「なるほど、悪くない。いや、寧ろいい」
そんな現状を見た俺は、誰にともなくぽつりと呟く。ここならば人がやって来ることもなく、アルラウネに畑仕事を任せることができるだろう。そうと決まれば俺はさっそく奴らを召喚することにした。
「全員出てこい。【召喚】!」
俺がそう宣言すると、三つの魔法陣が展開しそこから三体のモンスターが出現する。一体は海の覇者と言われたオクトパス、もう一体は陸の帝王と呼ばれているマンティコア、最後に森の淫魔女王として恐れられているエルダークイーンアルラウネである。
「主、お呼びか?」
「ああ」
「それで、どいつを殺せばいいんだ?」
「いや、今回は戦いじゃない」
「そうなのね」
オクトパス、マンティコア、アルラウネが俺の言葉に落胆する。モンスターは本能に従って生きているため、闘争本能が初めから備わっていることが多く、基本的に好戦的だ。それが影響しているためだとは思うが、だからといって呼び出し=戦いというわけではない。
「辺り一帯を見てみろ。お前たちにはどう映っている?」
「ちび共がうようよといる。潰し甲斐がありそうだ」
「久々に肉を引き裂く感触が味わえるぜ」
「元気に走り回ってるわね。これは食事が楽しみだわ」
それぞれが感想を述べているが、全員目がぎらついており、戦う気満々だ。だが、ここら一帯のモンスター殲滅する気は俺にはなく、逆に殲滅してしまうと人間が押し入ってくる可能性がある。そのことを鑑みれば、殲滅よりも飼い慣らす方がこちらとしては都合がいい。
「やる気を見せているところ悪いが、今回は殲滅はなしだ」
「それは残念だ」
「ち」
「つまらないわね」
俺の言葉に途端に戦意がなくなる三体。どんだけ戦いたいんだと内心で呆れつつも、今回のミッションを伝える。
「だが、このまま放置すればこちらがやりたいことを邪魔してくるのは明らかだ。よって、お前たちにはこの辺りのモンスターを制圧してもらいたい」
「ほう、それは楽しそうだ」
「腕が鳴るぜ」
「ちょっと味見してもいいわよね?」
再びモンスターたちにやる気が戻ったところで、ちゃんと言い含める。あくまでも“制圧”であって“殲滅”ではないということを。
つまりどういうことかといえば、このまま畑を作るとここにいるモンスターたちが荒らすのは予想できる。それをあらかじめ阻止すべくこいつらがここの支配者として君臨すればいいというものだ。
どんな場所でも弱肉強食というヒエラルキーは存在しており、その頂点に俺の召喚獣が君臨することでこの辺り一帯を牛耳ればそういった諸々の問題を解決できるのではと考えたのだ。
「というわけだから、ここにいるモンスターたちの手懐けよろしく。お前らの支配に納得しないボスとかがいたら、実力を示すために倒しても構わないから」
「了解」
「へっへ、そう来なくちゃな」
「それじゃあ、行ってくるわね」
それぞれそう言いながら、目的に向かって進撃を開始する。突如として現れた気配にモンスターたちは敏感に察知したのか、蜘蛛の子を散らしたように逃走していくのがわかった。
さて、そんな光景を尻目に俺はといえば、どこに畑を設置するかを考えていた。国王から借り受けた土地は、王都ティタンザニアが十数個は入ってしまうのではないかというほどの大規模な場所であり、その広さはマルベルト領とは比べ物にならないほどだ。
しかしながら、元々人が住む場所として開墾すること自体が難しく、かといってセコンド王国などの敵国にくれてやるわけにもいかない。冷害が酷い寒冷地とはいえ、一時的な拠点を設置することで前線基地としての機能を果たす要塞を構築することが可能であるため、シェルズ王国としても手放すという選択肢はなかった。
そんな意味合いを持つ土地だが、人の手が加わっていないということで草木が伸び伸びと茂っており、まずはそれをなんとかするところから始める。
「ほいっ、ほいっ、ほいっ、ほいっと」
風の刃を飛ばし、伸びまくった草木を刈り取っていく。溜まった草は即座に炎で消し炭にして処分し、ものの数十分で刈り取り作業を終える。
さらに、そこかしこに点在するように存在する石塊や岩を砕いて処分する。処分したことでできてしまった穴ぼこたちは大地魔法を使って更地へと作り替えていった。
ある程度整地が終わり、それなりの広さの更地ができたところで、まずは米を植えていく。やはり日本人のソウルフードである米を大量生産するというのは重要なことであり、その精神を持つ俺からすれば米を作ることは必然である。
あまりに米を植えることに執着し過ぎてしまい、できた更地の半分まで植え終わったところで、さすがにやりすぎたことに気付き、慌てて他の作物も植え始める。
まずは小麦とサトウキビを七対三の割合で残った更地のさらに半分を使って植えていき、残りの部分についてはじゃがいもやニンジンなどといった野菜類を中心に植えていく。
「……足らん。であれば、さらに開拓するまでだ!」
粗方野菜類を植え終わったところで、整地した部分の土地を使い切ってしまったため、さらに開拓する箇所を増やし、そこにリンゴやみかんなどといった果物を中心とした果樹園を作っていった。もちろん、食用とワイン造り用の葡萄も追加で作るつもりである。
途中から一人での単純作業が面倒ということで新たにゴーレムを造って各作物を植えていく作業をやらせている。複雑な作業ではない単純作業のため、こういった場面では疲れを知らないゴーレムは便利である。
「主様、終わったわよ」
「こちらも水辺のモンスターたちは掌握した」
「こっちも子分にしてやったぜ」
「ご苦労」
大体の作業が終わりゴーレムたちの作業を眺めていると、辺り一帯のモンスターたちを手懐けたオクトパスたちが帰ってくる。アルラウネの背後には通常種のアルラウネやトレントなどの植物系モンスターが付き従っており、オクトパスの背後にはマーマンやリザードマンなどの水辺を住処にしている水生系モンスターが、マンティコアにはウルフやオークなどの陸地をメインとするモンスターたちが列を成していた。
どんな制圧をしたのかは知らないが、意外にもモンスターたちに怯えている様子はなく、寧ろ大人しく三体に付き従っているような様子を見せている。
「とりあえず、細かい指示を出す」
それから、支配下に置いたモンスターたちにも手伝ってもらえそうだったので、あとは三体に土地の管理を任せることにして、一度屋敷へと戻ることにした。
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