ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
350話「結界の設置とその後の聖国」
「ん、到着」
目的の場所へとやって来た俺は、誰にともなく呟く。現在俺がいる場所は、ウルグ大樹海とセラフ聖国の国境のちょうど境目となる場所へと赴いている。目的は言わずもがなセラフ聖国にある。
ウルグ大樹海並びにシャンガルディア大森林での出来事を踏まえ、セコンド王国同様結界で閉じ込めてしまうことにしたのだ。スタンピードを意図的に起こしてしまうような連中を野放しにしておけば、多くの人間が犠牲となってしまう。面倒だが、奴らを放っておくほうがもっと面倒なことになってしまうので、致し方ない。
しかしながら、ガジェットの能力に魔法を無効化する効果をもたらすものがあったため、今回は以前よりもさらに強力な結界を施す必要がある。
臭いものには蓋をするなどという言葉があるが、今回もまた同じ手法を取らざるを得ないことに溜息を吐きながらも、さっそく結界を施すための準備をすることにする。
「まずは依り代となる媒体の設置だな」
結界には様々な種類があり、その中の一つに依り代を用いたものがある。依り代を使うことで結界自体を強固なものにしたり、術者自体が発動を維持できない場合でも依り代によって発動を継続できたりと様々な恩恵をもたらしてくれる。それが依り代だ。
今回の場合は封じ込める対象に“魔法を無効化できる存在がいる”という前提の下で結界を張るため、無効化されてもすぐに再起動する仕組みを組み込まなければならないという結論に至った。それに加えて、一瞬でも結界に綻びが生じてしまう可能性を考え、結界の密度を濃くする仕様に変更する。
密度を濃くすることで、相手が何かしらの結界を破る方法を行使してきたとしても、精々硬貨ほどの大きさしか穴を開けられないようになるのだ。これならば、仮に一時的に結界をどうにかできたとしても人が結界を抜け出てくることはないだろうという判断だ。
「リフレクション機能も付けておくか?」
相手が何かしらの対策を講じた際、その行為に対し制裁行為の意味合いを含め、結界の強化と同時に相手にペナルティを与える能力も付け加えることにする。
どんなペナルティがいいか考えたが、無難に“相手の結界対策の能力の封印”という仕様にすることにした。これにより、一度でも結界を解除しようとする何かしらの能力を行使した相手に対して牽制することができるようになる。もちろん、封印の期間は術者が死ぬまででである。
ちなみに、結界解除の条件はセコンド王国とは異なり“五百年の時が経過するまで”のみとした。クラウェルやガジェットを見ていると、自分たち以外の存在をどうでもいいものとして見ているのがありありと見て取れたため、セラフ聖国の連中が反省することはないだろうという俺の判断からくるものだ。
「とりあえず、国境の周りに依り代を……そうだな、十三個設置してそれを常時共鳴させ続けることで、結界の維持させるようにしよう」
そう言うが早いか、俺はセラフ聖国を取り囲むようにして国境に十三個の依り代となる石を設置する。この石は結界の条件によって依り代として必要な要素が異なり、今回の場合Sランク以上のモンスターの魔石がその要素となる。
ちなみに、この依り代となる数も条件や規模によっても変わってくるのだが、今回の結界であれば四個もあれば十分に事足りる。依り代を一つも使用しなかったセコンド王国の結界を思えば十三という個数はかなり多いが、相手が結界に何かしらの干渉をしてくるということを前提とすれば、十三という個数は妥当な数であると考えている。
また、それだけの能力を付加した結界であるならば、維持するための魔力も相当量となってしまうのは明らかであり、それを十二分に補うという意味でも十三個の依り代は決して多すぎるということはないのだ。
その条件に従いセラフ聖国の国境に一定の間隔で依り代となる魔石を設置していき、すべての設置が終わったところで、結界を発動させた。
「はぁぁぁぁあああああ。【発動】!!」
本来なら口に出さなくてもいいが、こういうのは雰囲気が大事であるため、少々気合を入れて結界を発動させる。すると、すぐに変化が起き濃い緑色をしたオーロラのような結界が出現する。その膜状の結界はセラフ聖国の国境を縫うようにして展開していき、最終的にはすべての国境を覆い尽くす。
設定した条件が複雑だった影響なのか、その色合いはセコンド王国の時に張った結界よりも濃く、その濃さは結界の先が見えないほどだ。
これでセラフ聖国内にいる人間は他の土地に移動する術はなくなったため、エクシードなどというふざけた機械でスタンピードを起こすことはできてもそれを国外で使用できなくなった。まさに宝の持ち腐れである。
「よし、ひとまずはこれでいいだろう」
己の仕事に満足気に頷いた俺は、そのまま他の拠点で何かなかったかの確認をしたのち王都の屋敷へと帰還したのであった。
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ローランドがセラフ聖国国境に結界を張って数時間後、件の国内の上層部は蜂の巣をつついたような慌しさに包まれていた。それは当然のことであり、自国の国境線に沿うようにして展開されている結界は意図的なものであるということが窺え、内部の人間を外に出さないようにするという強い意志のもとで発動していることが明らかであった。
「仮想敵国からの侵略行為か?」
「わからぬ。何にしても結界の性質がわからない以上詳しい調査が必要だ」
「然り然り」
「教皇様、いかがいたしましょう」
緊急事態を受け、枢機卿たちの他にセラフ聖国の頂点に君臨する存在……教皇キャリバン・ホーリーダインは眉間に皺を寄せながら今後の対策を言い放つ。
「とにかく、今は少しでも情報が欲しいところです。各々情報の共有を密に行い、結界の解除を最終目標として動いてください。こんな時くらい足並みを揃えていきましょう」
キャリバンの言葉にそこにいたものが満場一致が如く頷く、このような事態はセラフ聖国が建国されてから初の出来事であり、前代未聞だった。
普段はお互いを敵視している枢機卿やそれより下の大司教クラスの幹部たちではあるが、それは自国の平穏が保たれているからこそ足の引っ張り合いができるのであって、国の一大事となれば話は変わってくる。
とりあえず、結界については調査をするということで結論が出たため、今後についてはまた改めて話し合うということで解散となった。
「くそが、よりにもよって私が教皇の時にこのようなことが起ころうとは……」
会議室を後にした誰もいない廊下で、キャリバンは誰に聞かせるでもなく悪態をつく。それほどまでに先の問題は逼迫しており、その責任についての追及がのちにあるとなってくれば、キャリバンでなくともやり切れない思いが出るのも致し方なかった。
そもそも国としての歴史から見れば、セラフ聖国が建国してから百年も経過しておらず、他国からすれば新参の国という見方をされており、どこかで見下されていると彼らは感じていた。それこそ彼らの被害妄想なのだが、今までかの国の連中が他国で行ってきた迷惑行為を鑑みれば、そう思われていても不思議はない。
今回の一件で他国に対する政治的及び軍事的侵攻ができなくなってしまったことで、聖国と隣接する国は安堵し、その一方で他国に直接介入できなくなった聖国は焦っていた。
セラフ聖国の南東部には隣接する様々な小国が点在しており、各国の王族たちが自治権を行使して小規模ながらも国を統治している。その国々を手中に収め、属国とすることを目先の目的として掲げていた聖国としては、志半ばで邪魔が入る形となってしまったのだ。
「教皇様、会議はもうよろしいのですか?」
自室へと戻ってきたキャリバンを待っていたのは、神官服に身を包んだ艶めかしい体つきをした女神官だった。彼女の仕事は表向きは神官としての務めを果たすことだ。だが、その実情は娼婦と何ら変わらず、教皇の夜の奉仕がほとんどである。
権力者に靡く人間は一定数存在しており、彼女もまたそのうちの一人だ。自身の美貌と豊満な体を使って見事に教皇の寵愛を受けるポジションに収まっていた。
キャリバン自身も彼女を気に入っており、関係性としてはお互いに持ちつ持たれつな関係を築くことに成功している。
「ああ、それについてはまた後日ということになった」
「左様ですか」
「そんなことはどうでもいい。今は君とのひと時を楽しむ時間だ」
「いやんっ」
仕事のことは二の次とばかりに、キャリバンが女神官をベッドに押し倒す。その後どうなったのかは言うまでもない。
数日後、再び聖国の上層部が一堂に会する機会が設けられ、調査の結果が教皇たちの耳に入ることとなるのだが、その内容が想像以上に芳しくなく、それから聖国はあの手この手で結界を解除しようとする。しかし、ローランドがそれを見越して対策をしていたことによって、彼がセラフ聖国を訪れるその日まで彼が張った結界が破られることはなかったのであった。
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